そろそろ勇者側のことも書かないとなぁ
剣と魔法の世界。
『魔王になろう』という名前の小説の世界観を一言で言うと、そんなテンプレートでありきたりな言葉で集約される。
中世ヨーロッパあたりだろうか。
なぜか東洋のサムライとか、ニンジャー、とかいうのもいて、さらに数字表記はアラビア数字だったり、いろいろなものが入っていたりはする。
だが、やっぱり基本はJRPGに出てくるような剣と魔法の世界だ。
基本的にはゲームの主人公になりたかったおっさんが少年となってこの異世界に転移され、なぜか勇者ではなく魔王になって悪の限りを尽くす、とかいったとてもハートフルな内容である。
たとえば、消費税を導入して税金で道路作り、流通に革命を起こしたり。
たとえば、紙の製法を広めて通称『薄い本』を世界に広めたり。
たとえば、マーケティングを駆使してモノをバカ売れさせ、生産業者を馬車馬のように働かせたり。
たとえば、ごはんのかわりにケーキ食べればいいのよ、などと言いながら荒地を破壊的な魔法で更地にして小金色のサトウキビ畑を地域一帯に作って見せたり。
たとえば、お米の生産効率を飛躍的に促進して市場を荒らしたり。
まさに外道。言語道断である。
「はぁ…」
そんな世界に住んでいる少女。
長い金髪を掻き揚げ、意味もないため息を付く。
それがジア・スルターナ・アフタースクール。
スルターナ公国の第一公女だ。
ようこの「かわいい系」とはまた違った、スタイルに優れる「美人方向系」の美少女である。
ジアに与えられた屋敷のテラスで優雅に過ごす午後の一息。
ジアの上には2人の王子がおり、王位継承とは無縁ではある。
しかし16歳という年齢を考えるとあと2年もすれば結婚も――、という頃ではあった。
「この世は剣と魔法の世界――。と言いながら私は何をしているんでしょうかね」
ジアは短い半生を考える。
剣術も魔術も、ジアは教えられていない。
むろん憧れた。冒険の世界に。
実際兄たちはそれらを使いこなしている。
しかし、ジアは女だという理由でそれらを教えてこられなかった。
「このまま適当に嫁いで、そのまま人生を終わることになるのかしら」
服を着替えるのも、お風呂に入るのも侍女任せ。
何不自由のない生活。
だがジアはそれが不満だった。
「なにか、面白いことでもあればいいのに」
そうつぶやいたジアに、予期せぬ『面白いこと』が振り掛かるのは1日後である。