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私を認知してください。にんち!

「いたぃー。わたしのはじめての契りだったのにぃー。いたすぎるよー」


 ようこがしゃがみこんで訴えた。


「ッイテーって、夏なのに静電気って……」


 俺も痛みに顔をしかめた。

 少し時間が経つのにまだその痛みが続いている。


「んー。僕のはじめてに突っ込みを入れないとは……」


「……、いや突っ込んじゃいけない気がしてだな。ってそこッ! なんだよその定規は?」


 気づくとようこは右手に30cmくらいの定規を持っており、

 それを自らのワンピースの布地に当て上下にせわしなく動かしていた。


「これをしゃこしゃこやって髪に当てると髪がくっつのですぅ」


「やっぱ静電気じゃねーかよ」


「ふふ。だといいねー。――って、あ。ここなのです」


 俺の正面にその喫茶店はあった。


 いや、駅から歩いてこの目的地(きっさてん)まで来たんだから着くのは当然といやー当然なんだが。

 いろいろ喋っていて見落としてスルーしたら目も当てられない。


「あれ、ケンじゃん。どうしたんこんなとこにー」


 喫茶店に入るとそこに見知ったヤツがいた。


「ちょっとまて。ここ隣の市だろう。なぜお前がここにいる」


 同級生の気の良い友達(ともだち)だ。


「学校はバイト禁止だからな。

 隠れてバイトするにはこのくらい離れてた方がいいんだよ。

 ってそこの美人小学生さんは誰?」


 いや、中学生なんだけども。


「ようこはマスターの使い魔なのですぅー」


 大崎に認識された彼女は急に後ろから俺に抱きついてきた。

 振り向けばにニヤた顔。

 いわゆる一つのドヤ顔である。完全に悪乗りしている。


 シーン――


 静まり返る店内。

 いや始めから静かなんだけども。

 店内で聞こえてくるのは大きな背の高い(のっぽの)古時計の秒針が、かちっ。かちっ。と1秒ごとに揺れるかすかな音だけである。助けておじいさん。


「勇者だ…。こんなところに勇者があらわれおった」


「いやいやいや。まてまてまて」


 ロリ幼女が少年にだきつく事例発生――



 俺は思わず、新聞社会面の3面から4面あたりにひっそりとそんな事件が載っているシーンを想像した。


「うーん。俺がバイトしていることは黙って欲しいんだが、黙ってもらうための良い感じに脅しネタが出来たな」


「ははは(乾いた笑い)。ところで『魔王になろう』で予約していると思うんだがー」


「あぁ、あそこの奥の連中か。ところでお前らとあわせて年齢層がめちゃくちゃなんだが一体どういう集まりなんだ?」


「ネット関係のオフ会だね。こんなんなるとは思わなかったが」


「その美少女ちゃんといい、詮索したらいろいろやばそうだな。すごく聞きたいんだが。注文は後でも良いか? まぁゆっくりしていってくれ」


「いや先で。俺コーヒーホットで」


「ようこはミルクとサンドイッチ!」


 それはあまりに定番すぎないかね。ようこさん。


「ご注文うけたまわりました。後で持っていくよ」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



 テーブル席で俺の右に≪さいてーの魔王≫ようこ。


 正面が自称≪単体最強≫ (笑)くん。

 右前が自称≪週末の金曜日≫くん。


 俺は窓際の席。今日のオフ会はこの4人らしい。

 簡単に挨拶を交わす。


 俺は魔王ではなく、ニンゲン設定でさっきようこを使い魔にしたと伝えると、


「魔族ネタの小説サイトにニンゲンて」「うわロリがおる」「なにそれおそろしい子」「その銀髪自毛なん? それともウィッグ?」「ウィッグ・ウィッグー」「リア充死すべし」「ようこたん写メ取ってよい?」「こんな娘とかもう事件レベル」「結界」「あ、ぶろぐ載せるなら目線に黒線いれてね。のりで」「うわー。かわいぃは正義ー」


 などと散々 (?)に言われるがそこは省略させていただく。


 今日のメインテーマはブログ主たるようこの魔王認定(という設定)だ。

 彼女は一枚のいろいろな項目が書かれた紙をカバンから取り出すと正面の2人に手渡した。


「カミに書くのは慎重にした方がいいわよ。

 小説に載せて晒すと多くの人がそれを読むから。

 それに伴って認知度が上がって魔力や神通力やら得たいのしれないものがもりもり上がる(レベルアップ)という仕組みだからね。

 ――なんてね。実際は僕ががんばってそれにあわせてた設定とかいろいろするわけだけれども。小説とか」


「へー。認知度が上がるとレベルアップって何かRPGみたいだな」


「だいたい似たようなものだと思うよぉ。ほら感情移入したキャラの方が相対的に強くなるみたいな」


「じゃぁ、俺は魔法使いレベル1だぜ。とかにしたら」


「それはもちろんずっとレベル1固定のままで物語の最後までしちゃうのです」


 ようこの言葉に頷き、真剣な表情でペンを走らせる≪単体最強≫ (笑)くんと≪週末の金曜日≫くん。

 前者が体育会系の大学生の男で、後者が大学教授。

 確かに年齢構成がばらばらで大崎(ともだち)がどんな集まりか不思議がるのもうなずけた。



「そりゃまぁ、レベルアップといっても神社に祭られるような大神に比べれば対したことは無いけどね。でも私が認定した魔王の中には歴史上有名になった子もかなりいるんだ、よ?」


「誰?」


「おだっち」


「だから誰よ?」


「なんだお前。日本人なのにおだっち知らないのかよ」


 ようこと俺の会話に唐突に突っ込みを入れてくる≪単体最強≫くん。


「でも有名になると大抵、非業の死を遂げるケースが多いから気をつけてねん」


「あぁ、死亡フラグってやつだな」


 特に≪単体最強≫なんて2つ(ニックネーム)を付けたらそりゃ……と付け加えるようこ。

 あらやだこの娘。すでに小説内で非業の死を遂げさせる気まんまんである。



「おだっちも最後はあけちんに討ち入りされて本懐を遂げられたしね。あれ? この場合は本能?」


「この前の戦争とかも酷かったしねぇ。だいぶいなくなった」


 うんうんと頷きあうようこと≪単体最強≫くん。

 だから、おだっちとか、あけちんて誰よ。誰よあけちんって。


 そんな適当な魔王談義で盛り上がった俺たちはようこの魔王認定式 (?)を無事終了させ、駅まで一緒に帰って解散となった。




 その帰り――


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