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配管工! 配管工! もひとつおまけに配管工!

 リナはスルターナ公国公女の侍女である。


 公女の付き人としては他に執事、執事長など複数の家臣団がいるにはいるが、国から与えられる資金の運用や各種イベント――とはいえ女性である姫が出席し*なければならない*イベントなんてほとんどないが――対応が中心でリアのような姫の世話を直接するものは限られている。


 ましてや自由に動かせる人数は数人しかいない。


 そんな中の一人であるリナは信書を持ってその建物の前にやってきた。


 そこはファンタジー世界によくある冒険者ギルドである。

 この世界での冒険者ギルドとは、主にアウトドアの仕事を請け負う。

 エンパイヤ帝国だけでなく全国に存在する組織。

 内容は、討伐、採取、運搬 (それに伴う護衛)、それに建築系ギルドメンバー以外の土木工事(ひやといろうどう)などである。

 スルターナ王国の冒険者ギルドは、首都であるにも係わらずその規模は決して大きくはない。

 なぜなら冒険するような箇所があまりないからである。

 まず討伐。本当に僅かしかない。安定的に討伐がしたいのであれば帝都。強い敵と戦いたいのであれば魔属領に面するスラッシュ王国へ行くのが普通の冒険者だ。スルターナ公国に用はない。

 採取。近隣であれば海、川、山が揃い、高難易度品でれば北に存在する妖精帝国の森への侵入などがあり、それなりにはある。

 土木工事(ひやといろうどう)。冒険者ギルドの中では最低ランクの仕事とされ、需要はあるものの人気がない。

 運搬。これもエンパイヤ帝国最西端の辺境であるため、秋口における収穫品の納税以外は小口である。


 確かに運搬についてはまず発生しないのであるが。

 雇用がなければ作れば良いだけの話ではあった。


「ふざけないで!」


 受付嬢はメイド姿のジアを怒鳴りつけた。

 冒険者ギルドの花形である受付嬢はそれなりに美人ではあった。

 しかしガサツで屈強な冒険者を主に相手にしており、口調については努力はしているもののリナと比べればキツイものがある。


「今日冒険者ギルドカードを作って、今日氏名依頼で手紙の運搬を受ける。それで相手先はすぐそこで、この2階にいるギルドマスター。あなたた冒険者ギルド舐めてるの?」


「何か問題でも?」


「それって、つまり楽してギルドガードのランクを上げるための不正行為じゃない!」


 冒険者ギルドが発行するカードにもランクがある。始めがFから始まり、F<E<D<C<B<A<S<SS<SSSと続く体系だ。

 ランクが上がれば上がるほど難しいクエストやレベルの高いサービスが受けられるようになる。

 

「何か問題でも? ギルドの規則は読まれましたか?」


「あたりまえでしょう! 私は冒険者ギルド・スルターナ支部の受付なのよ!」


 受付嬢はバン、と音を立てて机を叩いた。


「この手紙はこの国の公女であらせられますジア・スルターナ・アフタースクール様からギルドマスター様への信書。

 その姫であるならば、どこそこの馬の骨ではなく、その信頼を置く侍女であるわたくしを頼るのは当然のことではありませんか?

 依頼領は1金貨。そして手数料はその10%の10銀貨。冒険者ギルドではなにもせず、書類上だけでお金が入る。

 魅力的な仕事だとは思いませんか? 手続きがめんどうだという貴方を除いて。

 冒険者ポイントがあがり、レベルアップするのはおまけのようなものです。

 まさか、受付の書類記載がめんどうであるといったことで拒否するのですか?」


 受付嬢とは対照的に、冷静に受け答えるリナ。

 じっくりと観察するように受付嬢を眺めている。

 本当に怒っているホンモノなのか、他の冒険者の手前怒った振りをしているだけなのか。


「書類記載がめんどうとか、そんなことは言っていない!」


「それは大変結構なことです。

 もし怠慢が原因であれば(くに)を通してご指導していただくところでした。

 で、何が問題なのでしょうか?」


「くー。それは不正行為が――」


「やめろ! この馬鹿者が。煩くて仕方がないわ!」


 言い争いをする2人に、2階から降りてきた老人がさらに大きな声で怒鳴りつける。

 彼がギルドマスターにまず間違いないとリナは判断する。

 老いているとはいえ、身のこなしからして他の者とは違う。


「これはこれは、ジア・スルターナ・アフタースクール第一公女の使者の方ですかな?」


「はい。ジア姫様より信書を預かっております。それから少々お話をさせていただければ」


「ふむ。ついてまいれ――」


 リナは2階へと案内される。




「腹を割って話そう。ジア姫様はどういうおつもりじゃ?」


「これはまた直球ですね――


 いえ深い意味はありません。

 ジア姫様はいつも屋敷住まいであり常に退屈しておいでです。

 しかし隣国の王子が冒険者ギルドで頭角を現していると聞き、退屈しのぎに一度冒険者をやってみたい、討伐したい、などとわがままを言い出されまして」


「それは災難でしたね。当然却下したのでしょうな」


 ギルド長は考える。国の重要人物である公女をそんな危険なところに出せるわけがない。

 もし何かあった場合、ギルド長の命のみならずギルド自体にも多大な影響を及ぼすことは間違いないのだ。

 寒気のするような内容だった。


「はい。そこはさすがにお赦しをいただいのですが、せめてギルドカード、それもご自身のランクの高いものをと所望されているのです。

 私どもとしましてもそのあたりが妥協点かと」


「それであの騒ぎか」


「はい。あの手であれば討伐などする必要もなく簡単にできます。

 できるのかどうか実験させていただきました。

 あの受付嬢は怒っていましたが、規則的には抜け穴でしょう?

 それからできれば1日だけ受付を姫様の屋敷でやって頂けると有難いのですが。

 姫様を冒険者ギルドに連れてきただけで大騒ぎになってしまいますので」


 ギルド長は考えた。ジア姫は一体何を考えている?

 結論はまったく予想が付かない。だった。

 ランクが上がればレベルの高い依頼を受ける等ができるが、だからといって姫がそのようなものを受けるわけがないし、そもそもギルドが全力で受けさせない。


「えぇと……。ランクBに上げるためには、確か1000回程度の手紙の往復が必要ですかね。ですから私と姫様で2000回分の手数料が今回のギルドへの報酬です」


 このメイドはやけに金銭について強調している。

 何かの貸しをするため、資金援助をする気になったのか?

 美しいだけがとりえの姫だと聞いていたが、恩を売ることでなにか冒険者ギルドにさせたいのではないか?

 早急に探りを入れる必要がありそうだ。

 そして、ギルドの規則を早急に見直す必要性についても、だ。


 だが今回は受付嬢には過労になってもらう。

 そんなあたりでギルドマスターは手を打つことにした。



 そして――



ジア  :「入手できました。これがギルドカードです」


タッキー:「それでそのメイドのリナちゃんのレベルどのくらいあがった?」


ジア  :「28まで上がりましたね」


タッキー:「うぉ、すげー。クエストでもレベルあがるんだねぇ。

      んじゃ、これでまともに冒険できるんじゃね?

      そしてこのギルドカード。名前欄も『ジア』だけだし。

      これで変装すれば王族だってことは絶対ばれないよ。

      顔知られてない遠方地域だったら変装すら必要ないかも?

      2、3離れた国だったら絶対分かりっこないって!」


ジア  :「さすがに変装してもスルターナ領ではバレると思うんですが」


GM3 :「そして冒険に出た瞬間。拉致られるわけですね」


タッキー:「うわぁ、変なフラグ立てるのやめろー(棒」


ジア  :「簡単には拉致られませんからね。私」


タッキー:「簡単じゃなければ?」


ジア  :「やめてください」


GM3 :「んー。拉致に成功したプレーヤーにスキルポイント1点プレゼントとかどうだろう」


タッキー:「えー。その設定(うんえいこうしき)だと、ジアちゃんなら確実に拉致られるのでダメです」


ジア  :「えぇ。だめです」


GM3 :「配管工! 配管工! もひとつおまけに配管工!」


タッキー:「こらぁー。それ以上言うと押し倒すぞ、こぉらぁー」


GM3 :「えーん。いやーん」


 ジアは向こうの世界で何が起こっているかは深く考えないようにした。


GM3 :「その他、|聖戦《PVP ― Player Vs Player》モードとか考えているけどタッキーとジアちゃんどう思う?」


タッキー:「お、プレーヤー同士の戦闘か? いいねぇ。でもそれジアちゃんすぐ死ぬんじゃね?」


GM3 :「ソコはほら、公式勇者(うんえい)の設定で無敵とか入れてー。よくあるじゃん、指揮するだけで絶対戦おうとしない公式勇者とか」


タッキー:「ぎゃーっす。そんな無茶苦茶言ってると押し倒すぞ、こぉらぁー」


GM3 :「いやーん(棒」


 ジアは向こうの世界で何が起こっているかは深く考えないようにした。



ジア  :「冒険者カードも手に入りましたし、後は冒険ですか……。楽しみですね……」


タッキー:「おう、がんばろー」


 新しい何かが始まる。

 ジアは今までとは違い、期待に心を膨らませていた。


 楽しいことには苦しいことも付いて回ることも知らずに――


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