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ゲームオーバー

(あー。どうしよこれ…)


 魔王≪白衣の魔王≫は頭を掻いた。


 最近嵌っているゲーム。

 「魔王になろう」はいわゆる観察ゲーである。


 まぁ、もともとは小説サイトなのだが、適当にコメントを書いていたらうp主(小説本体を書き込む人のこと)からこのゲームが送られてきた。

 クローズドベータというらしい。クローズドベータの次は、オープンベータ、商用販売…と続くらしいが詳しくは知らない。

 そのクローズドベータは開発者が売り物にする前に無料または有料で遊びたい人に提供してバグだしやらコメントを貰ったりする段階のことらしい。

 関心の高い人、小説の世界観が好きな人だけに配る。そして良質のコメントをタダで貰う。それは巧妙に仕掛けられた罠だ。

 

 情報隠蔽がすごいのか魔王になろうで検索しても小説サイトに繋がるばかりで、ゲームについてのwikiとかは一切見かけない。

 魔王関係はいまやネタが多すぎて検索機能がほとんど有効に働かないのだ。


 このゲーム、スキルとかはMMO RPGっぽいが見た目が本当に実写のようで美しい。

 しかもかなり凝っていてこちらからコメントを書くとすぐさま反応が返ってくるのだ。

 放置しておいても勝手に会話が進むし。しかも勝手に戦う。

 時間も24時間きっちあり、まるでそう、本当に異世界を旅しているような気分を味わえるのだ。


 そして助言するとどうやら良い方向に進むようである。

 小説サイトの近況報告のところで知り合いが妖精族(フェアリー)をやっていると聞いたのでそれとなく誘導したのだ。

 すると≪白衣の魔王≫がメインで使っている剣士(ケイン)君は勝手に妖精族(フェアリー)の女を作り、いちゃこらし始めた。

 その上さらにかわいらしい魔女まで集めてやがる。


 しかし、ここへコメントをあまり書くと中の人(うんえい)がなんとなく困るような気がした。

 ≪白衣の魔王≫の本職はソフトウェア開発だ。中の動きは「ご察しください」であることを心得ている。


 しかし、さすがに3ヶ月程度放置というのは不味かったらしい。

 この有様だ。


 恐怖に震える国王。

 ばんばん繰り出される最強スキル。

 炎上する城。

 逃げ惑う人々。



(どうみてもゲームオーバーじゃね? これ?)



 どうやら助言しないとこうなるらしい。

 大失敗だ。

 だがリセットすることはできない。

 これは多人数の魔王(プレーヤー)が遊ぶゲーム。

 見ているPC上にデータがあるわけではないのだから。

 それにもしサーバー上のリセットができるとしても、リセットしようものなら他の魔王(プレーヤー)が怒りだし炎上すること間違いなしである。


「でもさ……」


 思わず魔王≪白衣の魔王≫は呟いた。

 この剣士のダメさ加減にため息がでる。


 まぁ言ってはいないから知れというのも酷な話か。



 だって、よく考えてみて欲しい。



 ―― NPCならいざしらず、MMO RPGのキャラクターが、HP0で死んだくらいで、



 死ぬか?――


 

 

 きっと面白い再会劇とかあるに違いない。

 無粋なことは書き込まず、魔王≪白衣の魔王≫はしばらくの静観を決めた。


 そのうち生き返った妖精族(フェアリー)の女がパーティチャットで剣士にメッセージを入れるだろう。




 かつて、正義感の強いだけの盗賊であった1人のおっさん。


 お調子ものの彼は、知り合いで力の強い人々―― 一般には知られてはいないが魔族も含まれている――をてきとーに聖者と祭り上げ、おだてられた聖者は木に登るがごとくてきとーに国々を奪い、そして出来上がったもの。

 それがエンパイヤ帝国。

 帝国の正式名称は(エン)聖者(パイ)帝国(ヤー)だ。


 そんなエンパイヤ帝国の当時からの基本方針。それは、

『多方面作戦を強いられることは、なるべく避ける』

である。



 複数の箇所に複数の軍を進めれば当然兵力は分断される。それは避けたい。聖者がそういった。

 というのが表の理由だ。


 もともと制御の利かない当時の聖者を複数の場所で働かせることは皇帝――当時は単なるおっさん――の手に余った。

 というのが後の評論家の意見だ。


 一度にイベントを起こしても、おっさんは1人しかいないので楽しめない。

 というのが裏の理由ではあったが。


 理由はともかく、それは利に叶っていた。


 かつて。

 その禁を破り、名前にあやかって8つの軍を編成し、それぞれ多地域を攻め立てた皇帝がいた。


 結果は当然のように惨敗。


 特に楚という国の四方面飽和歌術攻撃が――いや、長くなるのでやめよう。


 当時の皇帝は花が落ちるように簡単に首を挿げ替えられた。

 以後、一度に多くの国を攻めないということはエンパイア帝国では明文化こそされていないが真の不問律となった。



「うむ……、攻め時かもしれんな……」


 皇帝は返した使者から受け取った手紙を読みながら考える。


 スラッシュ王国の政変。


 しかしスラッシュ王国は西の辺境。

 辺境といわれるスルターナ公国のさらに西にあるのだ。

 国を取ったとしてもなんらメリットがない。

 むしろ政情が安定しているスルターナ公国を疲弊させ、農作物の輸入が滞るデメリットの方が大きい。


「だが……」


 皇帝は最近スラッシュ王国に起きた≪事件≫についても知っていた。

 魔物領を開拓し、実質的な領土を大きく広げた、と。

 そうなれば国土としては攻め滅ぼして領土とした方のメリットの方が大きくなる。


 スラッシュ王国は小さすぎたために今まで狙われてこなかったのだ。

 天秤は傾きつつあった。


 そして最大の考慮事項がある。そう、エンパイヤ帝国はどことも戦っていないのだ。



「まずは各国から兵を集めろ。話はそれからだ」


「ははー」


 エンパイヤ帝国はゆっくりと動き出した。

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