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妖精帝国の攫われ姫(中編)

(残酷かもしれない)表現があります。苦手なヒトは注意。

 スラッシュ王国の王都、スラッシュ王城の王との謁見の間。


 立ち並ぶ重鎮達。

 1線に引かれる赤の絨毯。

 その間の中央で王の前でひざまづく第三王子ケイン。

 不審な点はあった。

 王子であるのにも係わらず剣の帯刀を許されず。

 レイモンド以下配下の者の同行も許されない。


「此度の戦果まことに素晴らしい」


 王が褒め称える。王の隣には宰相、および、第一王子。


「はは―ー。ありがたき幸せ」


 王の前でひざまづく第三王子ケイン。 


「これで名実共に我が国土は2倍。まことに喜ばしい。よって褒美を取らそう。南の領地街に住む子爵の姫をお主に――」


「お待ちください。魔族領攻略は私だけではなく、冒険者ギルドの方々の努力でー」


 焦るケイン。

 姫など貰ってしまえば冒険などできなくなってしまう。


「はは。聞いているぞ、ケイン。おまえ、毎日女を侍らせて乱痴気騒ぎをしているんだってなー」


 王とケインの間に急に割り込む第一王子。


「いやぁ……、それほどでは……?」


 急に割り込まれ、話についていけないケイン。


「ネタは挙がっているんだ。お前が魔族と繋がっているってことをな!?

 あれだけ広大な範囲、いままでどうあっても攻略できなかった土地。

 それをお前だけでなんとかできるはずがない。

 魔族と手を組み、ただ単純に引き上げさせただけではないのか?

 何が目的だ。言え。

 民衆を集める目的は? 英雄だの勇者など言われ、楽しいか? ケイン」


「はぁ……」


 言えるわけがない。

 魔族との取引なんてしていないのだから。

 第一王子はやけにやつれた姿で、声を荒げている。

 が、ケインにはなぜそんな風に怒るのか理解できない。


「ケイン、それでは決定的な証拠を連れてこよう。

 おぃ! 丁重に連れて来い!」


 第二王子が指を鳴らす。

 脇の通路から一人の少女が警備兵に連れられてでてきた。


「お、やっほー。ケイン。ついにお父様に合わせてくれるって聞いたけど本当?」


 その少女は始めて城に来て興奮気味のエアリだ。

 その姿はエルフの美少女。

 街中では妖精族(フェアリー)の姿は目立つため人と合うときはエルフの格好になってもらっていたのだ。


「こやつ。魔術の力を用いて我らを守護する神聖なるエルフの姿になっているが、真の実態は違うということを俺は知っているぞ。すでに魔術師どもが確認済だ」


「あ? え!? ばれた? ばれちゃった? やばいねー。どうしようケイン」


 まずい。その言い方は――、早く第一王子の誤解を解かないと、と焦るケイン。


「ちょっとまて、違う! エアリは魔族などではない!」


「女好きのお前は、南の領地街(へんきょう)の女とでも乳くりあっていれば良いのだ。殺れ!」


「え? ケインに私以外の女? どういうこと?! ちょっとケイン――」


 完全に空気が読めていないエアル。

 そのエアルの隣にいた兵士がいきなり短刀を抜き、エアルの心臓を――


「え??」


 突き刺さる短刀の部分はケインの側からは見えない。

 しかし背中から光るものが見えた。

 短刀は心の蔵を貫き貫通している。

 光るものは短刀の刀身。その切っ先だ。

 そしてケインは見て気づいてしまった。

 エアルのステータスバーのHPが0で真っ赤になっていることを。


 それを見てケインの心臓が止まりそうになる。怒りで。


 崩れ落ちるエアル。

 一切血は流れない。

 エアルの身体は淡い(精霊光)を撒き散らしながら消えた。


「な、なんで…」


 消える瞬間、エアルと目が合った。

 一瞬だけ、彼女が好きだった桃のにおいがしたような気がした。




 それが、この国(せかい)の歴史の流れが変わる瞬間だった。




「ほらみろケイン。魔族(’’)は光の粒子となって消えたぞ。間違いない。これが魔族の証拠である!」


「き、キサマー」


「ケイン。おまの苦痛に嘆く姿。実に良い。

 衛兵! こやつは国を裏切り魔族に手を貸す売国奴だ!


 名声を集め、高めた地位で我が国を乗っ取ろうとしておるのだ。

 さすがに王子だから殺しはしないが――。

 ほら、引き立てろ!」


 衛兵に囲まれるケイン。

 兵士の中には英雄と称されるケインを信奉するものも多数いるが、少なくともこの中にはいないようだ。


「ふふふ……。ははははははははは――」


 そのとき、ケインの何かが壊れた。


 突然笑い出すケイン。

 周囲に発生し始める≪威圧(スキル)≫の力――

 周囲の衛兵は狂気に彩られたケインの笑い(ひめい)に後ずさる。


「ふ、武器もなしに吼えてもどうにもならんわ。衛兵! さっさと――」


「武器なら……あるさ――。残念だったな――」


 煌く星の長剣が虚空から飛び出す。

 それは、アイテムボックスといわれる古代技術(アーキファクト)


「ケイン。それは魔法か――」


「はは。魔法ですらないよ。この程度」


 ケインは飛び出した剣を左手で掲げ、構えを取った。

 その剣は10万の(ボルト)を抱く雷撃剣。

 危険な振動が周囲に響き渡る。


「正体を現したなケイン! まさか王に刃を向けるとは愚かな。これでお前を殺しても何の支障もなくなった。さぁ衛兵どもよ! 斬れ! 斬り捨てぇ!」


 激しい≪威圧≫を受けながらも剣を抜く衛兵達。

 衛兵達は斬り掛かった。

 しかし全てが遅く――

 ケインの右手が空中の何かに触れる。

 その瞬間。

 (スキル)が発動する。


 それは、剣士職最終奥義――


竜破(ドラゴン)魅核凍陣(スレイヤー)!!』


 半径50mに真っ黒に染め上がった剣戟の波動が吹き荒れる――


「くふふ…。くははは……」


 崩壊する城の中。

 ケインは一人佇む。

 そこは無音の世界。

 ケイン以外、人の姿は跡形もなくなっていた。

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