『木を隠すには森』
「昨今の小説やアニメの世界。
どうしてこんなに魔王や勇者に関するものが多いのだろうか。
それは日本における魔王の特異性によるものである。
日本を中心とした世界には魔王がいまも存在し、そしてその存在を隠すために偽の魔王や勇者のダミー情報を豊富に垂れ流しているのだ。
『木を隠すには森』
インターネットではいったん流出した情報は、それを隠すことができない。
ならばダミーの情報をうにょうにょ流しまくることによって本来有意の情報を藪の中に押し込める。
逆転の発想。
これが近代の情報戦の主流。
実際に魔王や勇者を題材とした作者に聞いてみるといい。
彼らは調子に乗ってこういうだろう。
『あぁ、実は本来の魔王や勇者という概念は別にあって、そのことを隠すために私はこの小説を書いているのだ』と。
あるいは彼らはしかめっ面をしながらこういうかも知れない。
『いいや、我が小説の魔王や勇者が本物であってその他の魔王や勇者は偽者だ』と。
真相は誰にも分からないところではあるが、政府非公認の魔王資格を認定する者である私は、こうやってこの大きな森の中で魔王を認定するためのコミュニティサイト『魔王になろう』を作り、ひそかに魔王の育成、彼らの日常の報告、および彼らとの交流を図るためこのコミュニティサイトを開設している。
『魔王になろう』にようこそ。我が友よ――」
・
・
・
・
・
・
――などとトップに書かれたコミュニティサイトがあったとするじゃん。
キミはそれを信じるだろうか?
しかもそこ、コミュニティサイトとか書いてあるけど、実際はネット小説とかがメインのサイトなんだぜ。
あぁ、もちろん俺は「信じた」。
その方が面白いからだ。
この「魔王になろう」というサイトはweb系を巡回していたときにたまたま見つけたものではあったのだ。
しかし、中に書かれているコンテンツは面白い。
よく見させてもらっている。
例えば「なんとか」とか「なんとか」とかだ。
あの萌え萌えのシチュエーションは実にいい。駄肉とか。
あ、詳しく書くと各所から突っ込みが来そうだから書かないぜ。
うん。世の中には言わなくても良いことってたくさんあるよね。
と、今回のお話なんだが、その中の一人。自称中二の美少女の≪さいてーの魔王≫さん。
≪さいてーの魔王≫さんが書いている小説を中心としたマルチーな展開。
俺的にはそれが今のところのマイブームとなっているわけだ。
マイページからいける近況報告にはインパクトの強い狐のキグルミで剣を持ったかわいらしい魔王 (女)のイラストなんかもある。
アクセスカウンターも付いており、見ればてきとーに回っているので人気もあるようではある。
人気ランキングに載るほど、というほどでもないようだが。
ともかく俺的には好きだ。
さて、この≪さいてーの魔王≫さん自身の近況報告や感想にコメントの書き込みをしているのは常時10人くらいのように見える。
こちらは多いほうなんじゃないだろうか。
自作自演の可能性もあるけどね。
俺も調子に乗って実際やってみたことはあるんだが、まったくもって反応はなかった…。
また話がずれたな。
彼女の荒唐無稽なネタに釣られているのか。
はたまた、自称美少女であるという彼女に釣られて書き込みしているのか。
良くわからないが、とにかくこの近況報告にいる連中はかなりノリの良いヤツラのようである。
あ、実際作者が本当に美少女なのかは知らんぜ。
文字だけでは分からないからな。
こういう場合は大抵、ただのおっさんである可能性が高い。
そう思っていた方が後で本当におっさんであったことが判明したときのダメージが少ない。
というのが俺の高校2年までの経験から得た教訓だ。あれは泣いた。みぃ☆ミ
くそう。話が脱線しまくりだが、小説系のサイトなのにも係わらず、彼女?の近況報告はそのほとんどが動画系のネタやイラストで占められている。
いわく、「その方がアクセスが良いから」だそうだ。
あざといね。
その中でも面白かったものといえば、例えば、この前見かけたのが「雷撃剣つくたった!」とかいう動画だった。
もちろん≪さいてーの魔王≫さん括弧 自称中二の美少女 括弧閉じさん、のネット小説に出てくる武器である。
てきとーに笑顔になる動画サイトに移動した後、Playボタンを押す。
そこでは白衣を来た学の高そうなおっさんが、しかし、多重の静電手袋の上に重そうな剣を持ち。
とてもやばそうな音とともに10万ボルトの電流を実際にびりびりその上に流している。
ちょー危険なシーンが俺の目に表れるわけだ。
もちろん俺はそっと閉じである。さようなら笑顔になる動画サイト。
ちなみに彼のハンドルネームは≪白衣の魔王≫。
うむ。さすが「魔王になろう」。空気を読んだ魔王押しだね。
それに対して、とある人は『火炎剣』と称して鉄棒を焚き火で加熱してみたり。
さらに『斬鉄剣』と称してちぇーんそー振り回したり。
さらにさらに『氷河剣』と称してでかい氷の塊から旋盤でガリガリ剣を削り出したり。
まぁ、そういう所だ。
絶対に良い子はマネをしてはいけない。
俺としては氷河剣を作った人物が女性とのことでそこにアップロードした画像に本人の姿が映りこんでいることを期待したんだが、案の定お面を被っていてさっぱりわからなかった。
金の長髪でいかにも外人っぽいのには驚いたが。
そんなある日。
≪さいてーの魔王≫さんの近況報告。
『くくっく。新人の魔族どもよ。
来週日曜日にxx市で半年に一度の魔王認定を行う。
みなさまお誘いあわせのうえ来るが良い…。
#
――あ、予約するんで参加するならここのコメント欄に参加申し込みを書き込んでね。
それと詳しい場所を返信するから個人宛にメールアドレスもちょーだいな、なのです』
そんなサイトのオフ会の告知があったのは先週の日曜日のことだ。
あぁ、さすがにオフ会は分かるよな?
オフラインミーティングの略で普段ネットで遊んでいる人たちがリアルで集まって遊ぶ会のことだ。
単体最強 :「おぅ、≪単体最強≫の2つ名を持つ我が参加しようじゃないか」
週末の金曜日:「≪週末の金曜日≫たる我も参加しよう」
冬の将軍 :「ふふり。俺はもう魔王だから必要ないな」
近況報告に対するコメントレスでもみんなノリノリである。
xx市か…。
隣の市だし近いなー。
火炎剣のタッキー:「あ、俺もいいっすか?」
調子に乗ってとりあえずコメントを書いてみた。
オフ会。
俺の興味は彼女がおっさんか、ホンモノなのか、ということだ。
さいてーの魔王 :「え!?、あ? タッキーも参加するのん?
タッキーも小説の魔王になりたいならウェルカムだよ」
火炎剣のタッキー:「いや、魔王はちょっと…。まず魔法使いから始めさせてください」
さいてーの魔王 :「えー。魔王いいじゃなーい?
魔法使いって、どー○ーのまま30過ぎるとなるアレでしょー。
ままいいけど。とりあえず地図案内メール送るから
メルアドちょーだいなのです」
火炎剣のタッキーはブログサイトでの俺の名前だ。
俺の名は滝川健(たきがわけん)。
タッキーは上の名前のもじりだな。
火炎剣は黒歴史だから忘れてくれ。
何度もネタを書き込んだためか、さすがに覚えてくれたらしい。
黒き汚点 :「えーいいなー。俺も魔王にしてくれよぉー」
鳴くよ鶯 :「≪黒き汚点≫はもう魔王じゃねぇか」
黒き汚点 :「ふ。俺の魔王が火を吹くぜぇぇ (除雪用の火炎放射機を取り出す)」
冬の将軍 :「吹くなぁぁ」
さいてーの魔王:「あ、描画に使うからその火炎放射機の動画ほしー」
その後も近況報告上ではそんなどうでもいいようなコメントが続いていた――