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7話

 居間にめいの姿が無かったので、辺りを見回すあなた。庭先に視線を移した所で、洗濯物を取り込むめいの背中が見えた。手伝おうかとも思ったあなただったが、もうすでに粗方取り込み終えているようだったので、団扇を扇ぎながらその背中を眺めることにした。

 そんなあなたの隣に、ポチがごろんと横になった。少し疲れたようにだらんと耳を降ろすポチの姿を見て、今日一日どこへ行っていたのか気になったあなたは、団扇の風をそちらへと向けながら聞いてみた。

 あなたの質問にポチは尻尾を軽く振りながら、


「家主がおらんかったものでな、勝手に散歩をしておった」


 とだけ答えて、大欠伸をしてさらに体を丸める。どうやら素直に答えるつもりはないらしく、それ以上聞く必要も無いと思ったあなたは、団扇の風を自分へと戻すとめいの方へ再び視線を戻した。

 洗濯物を籠へ移し終えためいがこちらへ向かってくるのが見えたので、あなたは立ち上がるとめいの方へ腕を伸ばした。最初はきょとんとしていためいだが、あなたの意図を汲み取ってくれたのか、ちょいと背伸びをするとあなたへ籠を手渡した。

 昨日の洗濯物の量などたかが知れており、籠が大した重さではなかったので、あなたは無駄な力添えだっただろうかと思いながら居間へそれを運んだが、


「ありがとうございます、後継人様。おかげで助かりました」


 そう言ってめいがあなたに笑顔を向けてくれたので、その笑顔が見れただけで運んだ甲斐があったな、とあなたは内心で握り拳を作る。

 そのままの流れで仕分けも手伝おうと思ったあなたは、洗濯物籠の中へと手を伸ばす。洗濯物を畳む手伝いぐらいは、小さい頃にしたことがある。ましてや自分の服ぐらいは自分で……と、あなたは手にした服を引き寄せた。


「……あ」


 あなたが着てきた服に引っ付いて、見慣れぬ純白の三角布が一枚。それがなんだったのかあなたが認識するよりも素早く、めいの手があなたの目の前を通り過ぎた。

 風を切る音が聞こえそうなほどに素早い動きに、あなたが呆けている間にめいは走ってどこかへ行ってしまった。もちろん、純白の三角布の姿は跡形もない。


「お前、まさか幼子を愛でる趣味があるのか?とんだ好きものだな」


 とんでも無い事を言いだした犬畜生へ、あなたは手刀を一撃いれる。あなたからの一撃を眉間でまともに喰らい、ポチは身悶えしながら転がった。こんなことをしている場合ではない、と思いつつもあなたの足は動かない。追っていいやら、悪いやら……あなたは意味も無く部屋の中を回りながら考える。

 どのぐらいそうしていただろうか、部屋の中を延々と回り続けていたあなたは視線に気付いて襖の方を見る。小さく開いた襖の隙間から、くりくりと丸い目がこちらを覗いていた。


「……」


 あなたとめいの間に、何とも言えぬ空気が張り詰める。こういう場を壊してくれそうなポチは、先程のあなたの手刀でどこかへ転がっていってしまった。


「……そ、その」


 めいが躊躇いがちに口を開く。その顔は熟したトマトよりもさらに濃い色をしていた。


「と、取り乱してしまって申し訳ございません……後継人様も年頃の男児でありますし、そういう事にご興味を持たれるのも当然で……」


 言葉を途中まで発していためいの口を、あなたは指で押さえた。どうしてそう年頃の男児=そういうもの、という発想が固定化されているのか、あなたは不思議でならない。

 もちろん全面否定する気も無いが、とりあえずこの場は否定しておかなければ、と思ったあなたは釈明を口にする。


「……そう、でございましたか」


 あなたの言葉を聞いためいの反応はなんだか釈然としないものだったが、とりあえず誤解はされなかったようなのであなたはよしとしておくことにした。

 その後、今後はめいの物とあなたの物とで籠を分けて取り込む事にする形で話は落ち着き、洗濯物騒動は一段落となった。

 そして、今は台所に立つめいの背中を眺めながら、あなたは再び団扇で涼を取っていた。よくよく考えてみれば今の状況、片方が人ならざる者とはいえ年頃の男女が一つ屋根の下で暮らしているのだ、先程の様な事が起こらない方がおかしいし、今後も何かしら別の問題が起こりうるだろう。

 先の事を考えて少し頭を悩ませたあなただったが、


「用意が出来ました。そちらを持ってください、後継人様」


 鍋の支度を終えためいの呼ぶ声に、立ち上がり台所へ向かった。めいと共に鍋を運び終えると、いつの間にやら戻ってきたポチと共に食卓を囲うめいとあなた。

 明日の事を言えば鬼が笑う、と言うではないか。先の事など先の自分に任せればよい、と自分を納得させて鍋へと箸を伸ばす。


「かっかっか、その肉はワシがいただいた」


 鬼の前にこの家には笑う犬がいたか、とあなたは犬に再度手刀を入れる。そんなあなたと犬の様子を見て、めいが小さく笑った。

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