表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/31

9話

 なんとか脱出しようと身を捩るも、圧倒的な怪力の前にあなたの抵抗など児戯に等しいらしく、もはやこれまでかとあなたは諦めかけてしまう。

 そんなあなたの耳に、


「おい、デクの棒。こちらを見よ」


 と、聞き慣れた声が届いたかと思うと、ぶわりと突風のような風が広場に吹き荒れた。

 堪らず目を細めたあなたの視界の端で、その突風により周りの鬼達がまるで木の葉が舞うかのように飛ばされていくのが見えて、気付けば広場にいるのはあなたと大青鬼になっていた。

 いや、正確にはあと二人。


「……今日は千客万来だな」


 大青鬼が目線を合わせるほどに巨大な白狼が、あなたが来た方向辺りに立っている。その首には見たことのある青肌の少女がぶら下がっていた。


「ワシもお前と同じく探し人がおってな」


 言いながら、白狼が視線をあなたへ向ける。

 あなたはその白狼の姿に一切見覚えなど無かったが、先程聞こえた低いとも高いとも言えぬ奇妙な声に聞き覚えはあった。

 白狼とあなたの視線がぶつかり、白狼がやれやれといった様子でわざとらしく大きなため息を吐く。

 姿形は違えど見慣れたその行動から、あなたは白狼の正体を確信した。


「その探し人とやらはコイツなのか?」


 大青鬼が腕だけを動かし、あなたの体を前に突き出す。

 足が地面からふわりと離れていく感覚に、あなたはじたばたと抵抗するのを止めて大人しく成り行きを見守ることにする。

 白狼、改めポチはお返しとばかりに首からぶら下がっているナナを右前足で掴み上げると、あなたと同じぐらいの高さまで持ち上げてみせた。

 じたばたと見苦しい抵抗を続けていたあなたとは対照的に、落ち着き払っているナナの表情からは怯えなどは一切感じられず、むしろ自分から進んでここへ来たといった様子だ。

 そんなナナはあなたの事をじっと見つめてから、注意していないと聞き逃してしまいそうなほどに小さな声で「ごめんね」と呟くように言った。


「そちらが探しておったのはこの子鬼であろう?丁度良いではないか」


 あなたを逃がすための最善手であり、あなたが口出しできるような立場で無いのは分かっているが、昨日あれだけ言っておいてナナをダシにしてしまっているこの状況にあなたの胸は情けなさで一杯になってしまう。

 大青鬼とポチは互いに一言ずつ言葉を交わしたのち、しばしの間睨み合っていたが、やがてあなたの体に加わり続けていた圧迫感が無くなったかと思うと、あなたの体をふわりと浮遊感が包んだ。

 意外と長い浮遊感に、自分が思いの外高い位置にいたのだな、などとあなたが暢気に考えていると、背中に柔らかい感触が走る。

 それがポチの尻尾だとあなたが気付いた瞬間、突然尻尾が動き出したのであなたは咄嗟に揺れる白毛にしがみ付いた。

 そのままポチの背中にぽんと乗せられたあなたが何ともなく下を覗き込むと、ナナもあなたと同じように解放されて大青鬼に受け止められている所だった。

 それを見て小さく安堵したあなたの体を、ずっと握りこまれていたせいかギシギシと鈍い痛みが襲う。

そんな体の痛みを少しでも解消しようとあなたが大きく伸びをしていると、用は済んだとばかりにポチが身を翻した。

振り落とされそうになったあなたは海老反りになりながらも、なんとか先程のように毛をがっしりと掴むと、そのままポチの体に抱きついた。

大青鬼が追ってくるかと気になってあなたは振り返ってみたが、既にそんなところを気にしなくてもいい高さに来ている事に気付き、あなたは目を丸くしてしまう。

その後もだんだんと高度を上げていき、鳥が飛ぶのを横目で眺めることが出来るほどの位置まで来たところで、ポチがゆっくりと平行移動を始めた。

 怒るなり、諌めるなりしてもらえれば、それに反応する形で会話を進める事も出来るのだが、先程からポチは黙ったままで何も言ってはくれない。

 あなたの行動が予想外だったのか、はたまた全て見通した上で何も言ってくれないのか。

 ポチが何を思っているのか分からず、また自分からも何を言えばよいか分からないあなたは、ポチの背中に抱きつく力をぎゅっと強める。

 ふわふわの毛に包まれていると、結構な速度で飛んでいるであろうに寒さを全くと言っていいほど感じなくて済んだ。

 そんな温かさに包まれているというのに、あなたは心の隅に感じる引っかかりを拭い切れない。

 こんな考えが浮かぶ自分が嫌になるが、ポチも先程の鬼と同じく異形なのだ。

 単にあなたが後継人だから優しくしているだけで、駄菓子屋でポチの提案を断っていたらそのままぱくりと食べられていたかもしれない。

 そんな嫌な気持ちが、街の前にポチが降り立った後もあなたの心をチクチクと突き続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ