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その日、私は体調を崩していた。
「なんか吐き気と頭痛がする。悪寒もするし、手足も震える。風邪かな…」
仕事が休みで良かったと思った。
人員に余裕がない私の職場では、一人でも休むとそれはもう大忙しで、一人前どころか二人前と言っても良い位、私はまぁまぁ仕事が出来る方だ。
だからということでもないが、私が抜けると痛い訳だ。
あ、申し遅れました。
私の名前は天宮 鞠と申します。
年齢は24歳、身長は162cm、体重は林檎3個分です。
正真正銘の乙女であり、ちょっとオタクが入った今時の若者であります。
仕事は調理員で、栄養士の資格もあります。
最近の趣味というか、楽しみは携帯小説を読むこと。
ファンタジーや恋愛物、ホラーにコメディ、官能小説も少々。くふふ。
そんな私には、憧れていることがある。
美少年になること。
はまっている携帯小説が大抵、美少年に成長する異世界転生なのだ。
以前から男になりたいと思っていた私は、それらの小説に心を踊らせている。
むさい男ではなく、美しい少女のような少年になりたい。
むさい男ではなく、美しい少女に恋をしたい。
そして、狭い厨房ではなく、広く自分じゃ想像できないような世界を見たい。
まぁ、そんな憧れがあっても、トラックに轢かれる こともない。
それ以前に女であり、社会人だ。
これが現実で、親にそろそろ彼氏を作れと言われる。
既婚者の先輩には合コンや結婚相談所を薦めれ。
友達は結婚や出産の報告が…ぐぬぬ。
リア充爆発しろ。
ごほん。
話がそれてしまったが、私はそんな平凡で平和で、退屈な日々を過ごしていた。
「病院に行く時間だ…」
『年かな。体の丈夫さには自信があったし、まだ若いと思ってたけど』などと考えながら、病院に予約していた時間が迫ってきた為、自室から出て階段を降りようとしていた。
が、手足の震えから誤って足を踏み外した。
これで幼い頃から数えて落ちるのは3回目だった。
うちの階段は特に急でもないが、昔からぬけている私は落ちることがあった。
ちなみに、車にぶつかったのも3回あるため、トラックに轢かれても無事なような気がしていた。
頭を打ち付けながらも『明日も仕事だし、骨折とかまじ勘弁。打撲とかならまだ働けるけど』などと思った私は社畜の鏡である。
そして、階段下で全身からのあまりの痛さに気を失いかけていた。
「どうせなら階段じゃなくて異世界に落ちたい…」
そう言った私は真っ暗な視界に意識を飛ばしたのだった。