砂糖菓子
砂糖菓子は甘い。
口の中でほろりと崩れ、舌の先で優しく溶けて甘美な後味を残すそれはまるでそう、姉様のよう――。
「姉様、姉様」
そう呼びかけると、姉様はお裁縫をしていた手を止めて、
「なぁに、紗代」
と優しく微笑みながら、私の頭を撫でてくれる。
どんな時でも姉様は私が声を掛けると手を止めて、私の話をちゃんと聞いてくれる。私は姉様のこういう所が好きだ。
「姉様、お砂糖は甘いわ」
「そうね」
「だから、姉様も一緒に食べましょう?」
そう言って私は先日、お父様から貰った小さな巾着袋から小さくて真っ白で可愛らしい砂糖菓子をひとつ取り出す。
私達のお父様は多忙な人で何分あまり家にはいないため、時折家に帰って来ては、異国のお菓子やご本、それに「びいどろ」や自鳴琴などの、様々な珍しいものを私達にくれる。この砂糖菓子もその内の一つで、その白く小さな宝石を口へと含めば、舌先から口内へと甘さが広がって、私はとても幸せな気分になるのだ。
だから、それを姉様にも味わってもらおうと思ったのだけれども、私がそれを差し出すと、姉様は少し困ったような顔をしたあと、小さく首を振り、
「食べられないわ」
と言って可愛らしく笑った。
白磁のように白い肌を桜色に染め、伏し目がちに俯いて困ったかのように微笑むその様は、どちらかというと可愛らしいというよりは、美しいと形容するのが正しいのかもしれない。けれど、姉様と七つも年が離れているのに、私が毎度毎度姉様を見る度に可愛らしいと思ってしまうのは、やはり姉様の内面がとても可愛らしい人なのだからだと思う。
「どうして?」
と食べられない理由を尋ねれば、姉様は小さな砂糖菓子をちらりと見たのち、
「……だってあまりにも可愛らしくて」
とはにかみながら、鈴の鳴るような声で可愛らしくそう答える。
砂糖菓子が可愛らしいだなんて、そんな。
私にしてみれば、こんなに真っ白で可愛らしい菓子なんかよりも、姉様の方がもっと真っ白でもっと愛らしく思えるのに。
「……なら、」
あまりに姉様が可愛らしい事をおっしゃったものだから、私は少し姉様に意地悪したくなって、
「紗代も食べないわ。姉様が食べないというのなら、紗代もたーべないっ」
と頬を膨らませてそっぽを向けば、姉様はちょっと困った顔をなさって、
「食べるわ、食べる。だからそんな事は言わないで、ね?せっかくお父様が遠いところまで行って買って来てくださったのだから、食べてくれないとお父様が悲しむわ。ほら、私にも一口ちょうだい?」
と長い御髪をかきあげて、桜貝のような薄桃色の唇を小さく開く。そうして私が先程の砂糖菓子を差し上げれば、姉様はゆっくりとそれを咀嚼したのち、一言、
「……美味しい」
と言って微笑んだ。そしてそんな姉様の姿に微笑みつつ、指先についた砂糖を舐め取れば、口の中には小さく甘みが広がって、私の顔は思わず綻ぶ。
「紗代ったらもう、指を舐めるなんてはしたないわ」
そう微笑みながら軽く私を窘める姉様の声を右から左へと聞き流しつつ、笑顔で砂糖菓子をひとつ口に含めば、小さな甘みと共に一瞬、カラメルの苦みが広がる。
「……っ」
それは気にする必要のないほど、本当に小さな苦みであったのだけれども。
「?……紗枝、どうかしたの?」
「…ううん、何でもない」
何だか姉様との幸せな時間に一瞬、水を差されたような気がして、私はこの一瞬よぎった苦みを拭い去ろうと、新たな砂糖菓子に手を伸ばすのだった。