とある国の、亡君の騎士6
滑らかで白くみえた腕が落ちたリンゴを掴んでこちらに差し出される。
いかにも優男然とした顔に似合いの笑みを浮かべた青年だった。
「あ、すみません」
ここで謝ってしまうのが日本人の性というやつだろう。
なんで謝るの?と聞かれることはや数十回。世界渡りの度に不思議そうに首を傾げられることに気が付き、そこはぐっと耐えて笑顔を見せるのが正解だということを学んだのに。
だから無意識の習慣は怖い。
取りつくろう様に笑んで見せたわたしの考えなんて知る由もないだろう青年は愛想よく微笑んだままだ。
「憂いが綺麗に見える女性は素敵だけどね。その肌に傷がつくことがあっては大事だから。気をつけて」
なんというタラシ文句だ。出身地では聞いたことがないような仄かに寒い言葉の羅列に呆気にとられてしまい、とっさに言葉が出てこない。とそれを代弁するかのように大きなため息が割り込んで来た。
「お前よくそんな言葉がすらすら出てくるね。俺ちょっと信じられない」
「エヴィル。悪ふざけが過ぎます。出会った女性を片っ端から口説くのは止めなさい」
この軟派な青年と同じぐらいの年だろう、連れと思われる青年2人から、一方は呆れたように、もう一方は窘めるように声がかかった。なるほど。心底軟派な気質の青年のようだ。まぁ知ったことじゃないが。
そんな言葉に堪えた様子もなく、エヴィルと呼ばれた青年は両手を上げて降参のポーズをとって見せた後、鼻で笑った。
「まぁまぁ、ジャンもイルノも女っ気がないからってそう僻まずともいいのに」
なんというか、あからさまに人を苛立たせる言動だが、まぁこの程度の言葉に乗せられる事もないだろうなぁとふと視線を移せば、後ろの2人は分かりやすく青筋を立てて顔を引きつらせている。・・・・いくらなんでも乗せられやすすぎじゃないだろうか。でも軟派青年の態度を見る限りはそれを目的としているようにもなんとなく、思えた。ようは仲良しなのだろう。
そんな彼らを見てふと何かが頭の隅に引っ掛かった。
見覚えがある。
彼らの纏う揃いの衣装。濃紺を基調とした軍服、とでもいうのだろうか。
左肩の飾りで背を覆うマント式の布を留めてあり、鎖骨付近から横腹に斜めに流れる合わせ部分から、一体どのように着脱するのか全く想像できないこの衣装。右腕にこれまた不思議な色合いのラインストーンか宝石かという石が付けられている。きっと偉い人ほど多いという勲章的なものなのだろうと、乏しい知識で認識していたそれは、彼らの纏う衣装にも付けられていた。
つい最近。身近で見た彼の衣装にも同じようにそれがあった。
目の前にいる青年たちのそれに比べて幾つか大きいものが並んでいた気がするけれど。
そう。そう、だ。
わたしがゲームか何かの登場人物ならここで頭上にびっくりマークもとい「!」というのが浮かんでいただろう。まさにビビットきた。
「スヴェルデンさんと同じ格好だ」
そうそう。なんか見覚えがあってこう、ね。ここまで来てるのに!っていう感覚が気持ち悪かったのだ。
あぁこれですっきりした。もやもやが解消してすがすがしく笑ってしまったわたしをどう見たのか、青年たちがまじまじと見つめてくる。
「「「隊長の知り合い?」」」
あ、もしかしてこれは当たりですか。
出来すぎた偶然は、時々仕組まれたみたいに落ちてくる。