とある国の、亡君の騎士12
血の通わない肌に、絶えた呼吸。
古の呪いなんて物騒なものまで担ぎだして、一体何を考えているんだろう。そんなこと、自問してみたところで私の考えが及ぶ範囲ではないんだけれど。どうしても考えてしまうのだ。
人の命の価値は、そうも簡単に消せるものなんだろうか?
四方を壁に囲まれた小さな部屋に、ポツリと佇む寝台。
周囲の床にはおびただしい数の魔法陣が描かれ、淡く光を帯びている。
近づいてよく見れば、どれも浄化の術の類だとわかる。それも、ごく初歩的なもの。せいぜいが野生の魔物があーなんか嫌かもーぐらいに感じる程度だろうそれにこの国の今を知る。
一歩、また一歩と寝台に歩み寄る私を止める声はかからない。一歩踏み出すごとに強くなる呪縛の糸の残滓が目障りで仕方なく、いつもは意図して消している「魔力」を使う。
ぷつりと切れた糸から術者の残り香が漂う。黒い長い髪。
艶やかな色を持つその人は幼い子どもを胸にいだいて子守唄を口ずさむ。
優しげに見えるその景色に不似合いな鋭い眼差しをして、感情の宿らない色でその子を見つめている。
どうして、どうして。
愛した。愛していた。
あの人だけ。あの人だけよ。
なのに、彼は
女が体を小さく震わせる。口ずさんでいた子守唄はいつの間にかただの嗚咽に変わり、暗く淀んだ瞳だけが意思をもって腕の中に注がれている。
「 私の可愛い子。私の オズワルド 私の子よ。私の・・・・・・ 」
あの人は決して、私を選びはしなかったけれど。
銀色にたなびく光が消える。輝く髪を持つ、眠りの貴人に黒はきっと似合わないだろう。
急に振り返って見せた私に幾人もの視線が注がれる。
「国王様の、お父上の髪もこのように美しい金色だったのでしょうか・・・?」
唐突に場に似つかわしくない質問をした女に訝しげな目を向けつつも、恰幅のいい、穏やかな目をした大臣は律儀に答えをくれる。
「前王様は・・・・その気性にふさわしく、燃えるような赤い髪をしておいででした。現王様のような美しい金の色は、我が王家には前例がないことで御座いました。」
言葉尻が窄んでいく辺り、実直そうな大臣様だ。
私の子。私の。それだけが、そんな言葉が呪いと成る。
無理やりブチブチとちぎっていった魔力の糸の最後の一本が目の前をよぎる瞬間、伸ばした手に力を注ぎこんだ。
これが、真実。くだらない、ちっぽけで、悲しい。
一人の女の悲哀の呪いだ。