とある国の、亡君の騎士11
目覚めないのだ。そうあの人は言った。
ずっと醒めぬ眠りから、あの御方を救いたい。
それが、あの人の望みだった。
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時は流れて2年。王は未だに目覚めない。
眠り姫か。そんな童話が始めに頭に浮かんだ。
姫は王子のキスで目覚めました。なんて文章だったろうか。幼い頃に読んだままの擦れた記憶だ。確かじゃない。それに、眠りについているのは、儚いお姫様じゃなくて、見目麗しい(かどうかは知らないが)王様だ。そんなファンタジーがあってたまるか。いや、あるのかもしれない。だってこの世界はいかにも。
「噂を止める術はない。城下を歩く民の顔があなたの言う様に曇っているというのなら、それが原因でしょう」
エヴィル青年が悲しげに、どこか悔しそうに顔を曇らすのを、私はただ見返すことしかしなかった。
何と言葉をかけよう?そんなこと考えても仕方がないと分かっていた。
昼過ぎの街は様々な格好をした人が道を行き交い、その目に新しい色は興味深いものだったし、温暖な気候であろうこの地域に吹く風は暖かで、思わず微笑みたくなるような陽気を連れてくるものだったけれど、そんなこと知ったことじゃなかった。頭上遥か上の雲が流れて行ったのか、明るい日の射すカフェテリアで、腕を組み、出来る限りの尊大さを醸し出して、言った。
「私が、あなた方に言った言葉の意味を正しく理解してくださっているのであれば、すべきことも分かっているはずです。私はこう言っているのですよ」
どんな上から目線だと心の中で自分自身に突っ込みながらも、早く、早くと急く心のままに言葉を紡ぐ。
「私を利用してくださって結構です。そうでなければ、何が悲しくてわざわざ自分が古の知識を持った者だと言いふらしますか。私は、そこまで愚かではありません」
言いきって、3人を見据えると、驚いたような目線が一気に私に集まった。ちょっと見くびらないでいただきたい。私にだって、考えがあるのだ。
眼前に聳え立つのは、強固な城壁に囲まれた城。無機質さと、重ねた歴史を感じさせる。城下と隔てるように厳つい鉄柵がどんと城門に構えられ、その左右には兵士が2人微動だにせず佇んでいる。
あたしの前を行く3人がそちらへ近づくと、機械仕掛けのような正確さで兵士さんは2人揃って姿勢を正してみせる。
「第1隊です。こちらはご客人。隊長室へのお目通りを願います」
はっ、と一声発して片方が城内へと走り去っていく。うーんこれはなかなか都合の良い展開?
5分と待たずに下りた入場許可に不謹慎ながら感心してしまう。戦時中でもあるまいに、この統率はすばらしいんじゃないだろうか。
そんなこんなで色々と過程はすっ飛ばさせていただくが、王様への謁見はかなった。
国のトップとそう簡単に不審者が会わせてもらえるかって?
大切なことをお忘れだ。私はこの国の住民ではないし、この世界にすら存在していない。
なのになぜ、この世界に「人として」形あるものとして存在しているのか。
空間図書館はただの飾りではない。すべての知識と、歴史と、世界の定理が眠る場所。
要約すると、反則技どんとこい!
王宮魔術師やら大臣様やらに取り囲まれたのはいかにも中世ヨーロッパな調度品が品よく並ぶな応接間。
いぶかしげに見やる彼らににっこりと笑みを送る。
「お初にお目にかかります。ウェルデンツ領キシュターゼ公主が息女、リアナと申します」
品よく清楚に膝をおり、ふわりと笑みを浮かべる。右手を心臓の上に重ねるようにして忠誠の証を示す。
後ろで息をのむ気配がいくつも伝わってきたが、そこはスルー推奨。
「キシュターゼ家のご息女、とは。・・・これは、また。」
どういうことだ、と問う視線が私の後ろの青年たちに向けられたのが分かったが、そう問いたいのは彼らの方だろう。こいつ何言ってんだ!的な視線を背後からビシビシ感じるね。うん。
館主の特権1:「世界」での立場はセルフコントロール可能
俗にいう・・・チートかな!
まぁそんなこんなで、王様へのお目通りがかなったのでした。めでたしめでたし。
とは、やはり都合よくいかないか。
眇めた目線の先には、眠るかのように蒼白の顔で横たわる青年。
どきり、と心臓がはねた。この直観は、外れないのだ。外れるはずがないから。
彼はもうじき、死の運命にある。






