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とある国の、亡君の騎士8



人が、人と繋がるのが少し、眩しい。



















「不安、でしょうか」




誰に顔を向けるでもなく呟いた。どんよりと空を覆う雲のように、人の笑顔を陰らせる影。それが全部、ただ一つの方向に向かって伸びているように思えてならない。その原因は、あの騎士さんの願いにも重なるんだろう。





一口、水分を含み口を潤して、カップを卓上のソーサーへと戻す。陶器のぶつかる音が、不自然な空白を落とした茶会に冷たく響いた。






なんだかな、人の縁って言うのは本当に不思議だ。複雑に絡み合っているかと思えば、その実いとも簡単に本質に手が触れたりする。






「なんでしょう、わたしあまり言葉をうまく使える方でないのですが、それでも分かりました。この街の、この国の不自然な闇はすべて人の感情なのだろうな、って」





「・・・・・・なにを」




合間に言葉を挟んできたイルノ青年にやんわりと笑んで見せる。




ただ、それに気づけるのだろうか。その時、その場面、今だって時にそれがそうなのだと理解することは本当に難しい。それが、当事者であればこそ。



場違いな感情だけど、少し羨ましくもあるんだ。けどきっとそれは不幸なんでしょう?





「教えていただけませんか?この国の闇を」




第三者としてしか、私はここに立てない。だから、見えるものもあるんだって信じたい。せめて、今回はビギナーズラックってなことで、どうにかならないかな。なんて思ってみたり。




会話の合間を縫って、中身が空となったカップを手に取り、持ち上げる。




「ちょ、」

「危ない・・!」




手に持ったカップを体の横にスイと持っていき、ぱ、と手を離す。そんな奇行に構わず、咄嗟に手を出して庇おうとしてくれたであろう青年2人をすり抜けて、カップは下へと落ちていく。手の中に残るのは、確かにあったという残滓だけ。足りないのは、戻す術だけ。




迷わず地面へと落ちて、パカン、となんとも空しい音を立てて破片が飛んだ。それを、身をかがめて拾い上げ、テーブル上へと、見える位置まで戻したそこに破片はない。ふふふ、間違ってもここでよっこらしょ、なんて言っちゃいけないな。



なにをしてんだ、この女。とでも言いたげな、いやそれ以前にこの状況への対応がとれないでいる彼らに向けて言う。




「私は、医術師です」





白磁の鈍い輝きを宿したカップが、何事もなかったように私の手の中に収まっていた。













ここは、残された知識が年月とともに風化して、それを使う能力が息絶えた、そんな場所だ。



そして、私はただ唯一、知識と共にある。繋げるために、ただ在る。





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