第008話「噂話」
【Tips:〇〇八 裏方もいる】
・妖精隊にも常識人はいる。
その人物の登場なのですが、もってくる話題がなんとも危なっかしい。
主計課のような役割も担っているようなので事務方でもある一方、諜報っぽいこともしているこの万能感。
やはり、剣士は全員ただものではないようだ……。
【〇〇八 噂話】
浴場へと向かう途中。
「やぁパリィ、お帰りなさい。任務は無事に達成ってところ?」
「えぇ、おかげさまで。情報通りだったわクラティア」
肩口で切り揃えられたクラティアの濃紺の髪はまだ水気を含んでいるように見えた。
「まさかあんな所で取引されていたなんてね。酒場に仕入れる物品に偽装するなんて」
「それだけ必死なのかもしれないわ」
「こちらにはいい迷惑。ティーシャが薬に汚染なんてされてたまるものですか、ってね」
ふふふと、クラティアは機嫌良さそうに笑う。
「これからお風呂? ランナは一緒じゃないの?」
「あとから来るそうよ」
「相変わらずに仲良いわね。見ていると安心、あなたたちって」
「そう?」
「端から見ていると姉妹のようにも見えるくらいに」
「姉妹?」
「ふふ、まぁ冗談が半分。――ねぇ、それより聞いた?」
クラティアが声を潜める。
「脱走の話かしら?」
「そう。耳が早いじゃない。今、うちからメリアとルリスカが調査に入ってる」
「早いわね。ルシェル様から?」
「もちろん。外国からの接触がある可能性から洗ってるから行動範囲が広くなってね。遠出してもらってるよ」
「あのふたりは足も速いものね、適役だわ」
「そうね。けど、厄介じゃない? 外国からの接触なると、東国連合っていうのもいよいよ現実味が出てくる気配もあるし。そのためにティーシャに探りを入れてるのかもしれない」
「そうなると戦争も遠くはなさそうね」
パリィの言葉にクラティアは肩をすくめる。
「抑止効果も度が過ぎると逆効果なのかも。けどねパリィ、戦争よりも驚く話があるんだ」
「まさか」
そんなものがあると言う表情のパリィクラティアはにこりと笑み、耳に唇を近づけて囁く。
「次期国王」
「っ!?」
クラティアが口にした単語にパリィは思わず息を飲んだ。
「決まったの?」
「内々にはっていうのが噂。六煌剣士様からの選出らしいってね」
「えっ、じゃあ黒様が?」
「しっ、声が大きいよパリィ」
「ごめんなさい」
「そこまではわからない。だけど……黒様ではない可能性が高いかな。わたしたちとしては複雑なところよね、これ。次期国王ということは、つまり現王女様の――ね?」
クラティアはぽんとパリィの肩を叩く。
「クラティア?」
「わたしたちがどうこう言えることじゃないでしょ。王女様だって言えることじゃない」
「わかってるわ」
「どうなろうとも、しっかりとランナを守りなさいよ、あなたは」
「なにを――」
問うパリィにクラティアは背を向けながら言う。
「ふふっ。彼女を守るっていうことは、妖精隊を守るってことだから。じゃ、わたしは少し休ませてもらおうかな。あ、そうそう、今日のおやつは少し奮発しておいたから。ランナと一緒に楽しみなさいね」
「え、えぇ……」
言うだけ言うと、クラティアはさっさと行ってしまう。
事務方の仕事を多くこなしているためか情報も早い。彼女がもたらした次期国王の話は決して城内に囁かれる「噂」という範疇ではないだろうと、パリィは思った。




