第006話「出会いの記憶」
【Tips:〇〇六 やばい試練】
・剣士の資格を得る試験は様々であるが、パリィとランナに課せられたのは猛獣討伐だったらしい。
まるで成人式の儀式である。
この人外の力を持つ剣士たちに与えられる任務もまた過酷なものだろうが、剣士になるために与えられる試練も想像を絶するものが多く、よくもまぁ、と言ったところだが、実力を見るとそれも納得(?)できてしまえるような?
【〇〇六 出会いの記憶】
――物心が辛うじてついた頃、パリィは先代の露霧の白に拾われるようにこの王国へとやってきた。
パリィのいた村は当時治安を乱していた盗賊団の略奪を受け、焼かれたのだ。両親と家族をそこで殺されたパリィはひとり、拾った剣を持って自分をさらおうとした盗賊のひとりを殺した。
無我夢中で、その時のことは今も思い出せない。ただ、恐怖と憎しみに任せて人の命を殺めたということと、それでも家族も村も元通りにはならなかったというむなしさに、パリィは心を閉ざした。
先代の露霧の白は彼女のような孤児を集め、仕事を斡旋していた。中でも剣の才覚のある者は剣士候補生として育てることにしていた。
自分より二期上には当時から「妖精剣士」と呼ばれる天才、ルシェルがいた。彼女は先代が集めた孤児たちのよき姉のような立場で皆に分け隔てなく明るく優しく接していたのだが、そんなルシェルにも、パリィは心を開くことはなかった。
剣士候補生としての修行は、卒業訓練をもってひとつの区切りを迎える。実戦の任務に赴けるようになる。
パリィはその時に出会った。
「わたしはランナ、よろしくね。一緒に頑張ろっ」
「…………」
天真爛漫な笑顔に、パリィは戸惑いを覚えた。候補生の仲に馴染むことはなく、いつもひとりでいたパリィはどこか警戒されているという自覚があったにも関わらず、ランナは無防備にも近づいていた。
パリィはそんなランナを煩わしく思い、無視をした。
それでも、ランナはパリィにまとわりつく。
「ねぇねぇ、すごく強いんだってね。みんな言ってるんだよ。わたしも、この前の手合わせを見ていたんだけど、本当にすごかった。剣倒立も綺麗だし、本当にすごいよね」
すごいすごいと、語彙の狭い子だとパリィは思った。だからか、気の迷いからひと言を彼女に返してしまった。
「別に、すごくなんてないわ」
するとランナはパッと顔をほころばせ、花が咲いたような笑顔を見せたのだ。
「わっ」
「な、なに?」
「ううん、話してくれた、って。嬉しくなったの。えへへ、ありがとうねパリィ」
この時、ランナの方から名乗ってもいないのに自分の名前を呼ばれたことに驚いた。
「え?」
するとランナはハッと目を見開くと、両手を顔のまえでぱたぱたと交差させながら弁明を図る。
「あ、こ、これはその……ごめんなさいっ。あ、あの、本当はずっとお話したくって、でも機会がなくって、その……ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
先ほどの笑顔が消え、とてもよくないことをしてしまったと慌てるランナの顔がおもしろく、パリィは思わず笑ってしまった。
「ふふっ……」
「あっ」
パリィがはじめて見せた微笑みに、ランナはさらに驚いた。
「あなた、変わってるのね」
「そんなことないよぉ」
それがふたりの初めての会話だった。
それから、パリィはランナと共に卒業訓練を終える。課題はティーシャの北部山岳に住む巨獣の討伐だった。
雪山という過酷な環境下ということもあり、彼女たちを含んだ五人の組は、ふたりを残して全滅。パリィも死を覚悟する大けがを負い諦めかけるも、ランナは諦めなかった。
「諦めないでパリィ!」
「ラ、ランナ……あなたは逃げなさい、まだ今なら……」
パリィは巨獣――大型の灰牙熊の攻撃を受け、左肩と脇腹、右内腿から多量の出血をしていた。ランナも無傷ではなく、首筋に一撃を受け剣士装束を血に染めていたのだ。
立っていることも辛い出血量であるにも関わらず、ランナは両手に剣を握り、灰牙熊と対峙している。
毅然と、まだ闘争心の燃える瞳に殺意を込め、敵を見据えていた。
「逃げないよパリィ。わたしは逃げない。逃げても、行く場所なんてないんだもの。わたしは剣士になる。剣士になって、大切な人を守りたい」
守るという言葉にパリィは強い違和感を覚えた。
自分が剣士になろうと思ったことは、ただの流れのようなもので、ランナのように決意めいたものがあるわけではなかった。
「だからわたしは逃げない。ここで死ぬことなんてしない、絶対に生きて帰るっ。あなたとふたりで帰るの。こいつを倒して、あなたと一緒に、六煌剣士を目指したいの!」
吹雪いてきた中でもそのランナの声はパリィにはっきりと聞こえ、心にまで響いた。
「一緒に……? わたしと……?」
「うんっ。だってパリィは、いつもがんばってるんだもの。朝早くとか、夜遅くとか。誰も知らないところですごくがんばってるの、わたし知ってる。そんなパリィと、わたしも一緒にがんばりたいの」
「っ!」
パリィの自主訓練は、単に負けず嫌いな性格によるものであった。人知れずしていたのは人目が苦手だったからというのもある。
それを、ランナは真摯な努力と受け止めていたのだ。
「ランナ、わたしはランナが思っているような人間じゃないの。ここの他に行く場所もあないからいるだけの……」
「それならここを居場所にして欲しい。一緒にがんばろうよ。パリィだって悲しい思いをしたんでしょう? もうそんな思いを誰もしなくていいように、一緒に強くなろうよ、パリィ。パリィとなら、わたし、できる気がするもの」
「ここ……居場所……」
肩越しに顔を見せたランナは笑顔だった。
その笑顔は不思議な自信に満ちているようで、今の危機的状況などはまるでないことのような、そんな気分にさせられる力があった。
そして、パリィはそのランナの笑顔に未来を見ることができたような気がした。
この子と一緒にいることができたら――もしかしたら自分が知らない、本当に欲しい物が見つかるような、そんな気がした。
だが――吹雪の中でもその顔には汗が浮かび、明らかに血色が悪い。
「ランナ、あなた……」
そうつぶやいた時、パリィは無意識のうちに立ち上がっていた。
体を地べたに縛り付けるような痛みが、なぜか力になるようにすら感じられた。
「パ、パリィ?」
「あなたひとりじゃ無理でしょ。――一緒とかできないかもしれないし、剣士になれるかはわからない……だけど、あなたとなら、わたしも見つけられるかもしれないって、今思ったから」
生きたいと思うと、溢れた心が傷を塞ぐかのように痛みを引かせた。朦朧としそうな意識も明瞭になる。
「パリィ……っ」
ランナの顔にも赤味が戻る。
「ありがとう、パリィ。それじゃあ――」
「うん。倒して、帰りましょう」
「うんっ!」
その後、ランナとパリィは灰牙熊を仕留め、剣士任務を受ける資格を得るに至った。




