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白花香  作者: 桐生スケキヨ
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第019話「届く想い」

【Tips:〇一九 行動力】

・行動力のある人間というのは結果を出しやすい。

成功か失敗かはともかくとして、なにかをしたことに対しての結果というのは残る。

あとで振り返ると後悔するものもあったり、よくやったと褒めたくなるものだったり。

ランナのような思い切りと行動力のある人間は、おそらく褒めたくなることの方が多い気がする。


【〇一九 届く想い】


 同時に、ランナは寝台に手を乗せ、体を乗り出してくる。


「ランナ?」

「鈍いなんて……パリィの方だよ。どうしてこんなに……パリィはどうして気が付いてくれないの?」

「気が付いているわ。だから行きなさいって。わたしのことなんて放っておいていいのだから」

「そうじゃないよ! 全然気が付いてないよパリィ!」

「え?」

「気が付いていたら……気が付いていたら、放っておいていいなんて言わないもの。なにを言ってるのパリィ?」

「なにをって、ランナ、あなたはシリウスが気になるんでしょう?」

「ならないよっ。訓練があるから話していただけなのに、どうしてそんな風に考えたのパリィ? わたしのことなんてどうでもいいの?」

「なにを……どうでも良いだなんて」

「じゃあどうしても今日も一緒に帰ってくれなかったの……あの時、寝たふりをしていたわたしにキスしてくれたのは、なんなのパリィ?」


 その言葉に、パリィの心臓は握られたように詰まった。


「えっ」

「あの時、すごく嬉しかった。だからパリィはわたしの気持ちに気が付いていると思ったのに……それから急にパリィが遠くなってて……どうしたの?」

「ラ、ランナなにを――」


 なにを言っているのだろうか。

 彼女の言葉の意味が、パリィは言葉通りに理解できないでいた。


「わたしの気持ちはどうでもいいの? わたし、ずっとパリィが好きだったのに」


 パリィが見つめるランナの瞳に、じわりと涙が浮かぶ。


「ずっと一緒にいたから、パリィのことは姉妹のように思ってた。家族だって」


 それはパリィも同じだ。そう同意を口にしようとしたが、ランナの言葉が速い。


「でもそうじゃないって……そうじゃないって最近気が付いて……前回の任務は、任務なのに嬉しかった。パリィと二人で行けるって。一緒に白花を見た時、本当は言おうと思った……パリィが大好きって……でも、そんなこと言ったらパリィに笑われちゃうと思って……」


 ランナの涙が零れ、その頬を伝う。


「でも、気持ちを、抑え切れない……パリィが好き……一瞬でも他を見るのが嫌。ずっとわたしを見ていて欲しい、ずっと傍にいて欲しい、わたしに触れて、微笑んで、名前を呼んで欲しい、ランナ、ランナって……何を言ってもいいから、声をかけて欲しい、話しかけて欲しい、欲しいよ、パリィ、パリィ……」


 涙で声を濡らし、名前を呼ぶランナを、パリィは思わず抱き寄せていた。

 よほどの不意を突かれたのかランナは無抵抗だった。


「パリィ……?」

「……ごめんなさい」

「パリィ? 震えてるよ?」

「……ランナにそんな思いをさせていたなんて……ごめんなさい、わたし、つまらないことばかり考えていて……本当に」

「どうしたのパリィ? 泣いてるの?」


 ランナを抱きしめながら、パリィは涙を流していた。

 ランナの気持ちに気付かず、寂しい思いをさせていたこと。自分の気持ちばかりを考え、ランナのことをわかろうとしていなかったこと。結果として、それらがランナを傷つけていたことに。


「本当に、ごめんなさいランナ」

「どうしたのパリィ?」


 ランナの声はどこまでも優しい。


「謝らなくっても……いいから。わたしこそごめんね、変なこと言って。だから泣かないでパリィ」


 この優しさに惹かれたのだろうか。

 いつも近くにいて、辛い時、駄目になりそうな時に励ましてくれた声。

 共に苦難を越え、喜びを分かち合った声。

 耳を澄ますと、パリィはいつも聞くことができた。


◇ ◇ ◇


『パリィ。ねぇパリィ。見て見て』

『聞いてパリィ、わたしね――』

『大丈夫だよ、パリィ』

『ありがとうね、パリィ』


◇ ◇ ◇


 耳の奥から蘇る声と、今聞こえている声に、パリィは応える。


「あなたが好き、ランナ。わたしは、あなたが好きなの」

「パ、パリィ? む、無理にそんなこと言わないでいいんだよ?」

「無理なんかじゃない。もう、言わないでいる方が無理。あなたが好き。家族とか、姉妹とかじゃない。わたしは、愛しているのランナ、あなたを」


 ぎゅっと、ランナを抱きしめる腕に力が入った。


「あっ」


 ランナが吐息を漏らす。

 それでも腕の力は緩まなかった。


「もうランナ、あなたを離さない。気持ちを隠したり、逃げたりもしない……あなたが好き、大好き。ずっと、こうして抱きしめたかった」


 ランナのすぐそばで息を吸うと、彼女が使っている香の香りがした。


「ランナ、いい香り……」

「う、うん。なんの香りかわかる?」

「ランナの香り」

「ふふ、もう。これ、紫瞳花(しとうか)だよ」

「え?」

「紫の花。わたしの戦闘香の香り。ずっとパリィにわたしを見ていて欲しいから。あなたの瞳と同じ色の花の香りにしたんだよ」

「ランナ……」


 体を離し、じっとランナを見つめる。


「言ったでしょう? パリィが絶対に選ばない香りだよ、って」

「あなたは――」

「わたしも大好きなんだよ。パリィのことが。わたしだって、ずっと思っていたんだもの。あなたを抱きしめたい、わたしだけのものにしたいって。だから――もう」


 名を呼び返すよりも早く、ランナの唇がパリィの唇に重ねられた。


「ラン――」


 体重をかけられ、強く抱きしめられる。

 パリィも気持ちを返すように、強く抱きしめ返した。


「んっ。パリィ……好き」


 ランナの手がパリィの頬に触れる。驚きに一瞬、唇が緩んだ。

 その隙をつくように、ランナの感触が口内へと進んでくる。

 ぞわりと背筋が立つような甘い味と感触に、パリィは体から力が抜け落ちた。


「はぁ……あっ……ランナ……」

「パリィ……もう、どうして籠手と剣帯なんか着けてるの。堅いよ」

「だってこれは……死のうとして」

「え?」

「ランナに思いが届かないのなら、死のうと思って。支度をしたの」

「馬鹿」

「ごめんなさい」

「じゃあもう、その支度はいらないよね」

「ラ、ランナ?」


 ランナの手がパリィの剣帯を素早く外した。どすんと、寝台の上に剣帯が落ちる。


「これもいらない」


 上の外套(マント)を手早く外し、籠手も外す。


「ランナ、どうしてこんなに慣れてるの?」

「自分のを外すのも、パリィのを外すのも同じでしょう?」

「本当に? 他の人にもしているんじゃなくて?」

「もう、怒るよ?」

「ふふ、ごめんなさい。でもこんなことをされたら……」

「ドキドキする?」

「……うん」

「じゃあ――聞かせて」

「え」


 ランナはそう言うと、パリィの胸の間に顔を埋めてきた。


「ラン……ナ……」

「うん、ドキドキしてる音が聞こえるし……パリィ、柔らかい」


 ぐりぐりと、ランナは小動物のように頭を擦りつける。


「ランナ、ちょ、ちょっと――」


 くすぐったさと恥ずかしさに体が反りそうになったが、ランナが背中に回していた手がそれを阻む。


「駄目。逃げないで。もう、パリィはわたしのなんだから」

「あっ」


 ランナのかけた体重によって体勢が崩れ、パリィは押し倒された。


「パリィ、本当に綺麗。紫の瞳も、この栗色の髪も。全部好きだよ。ずっと傍で見ていてくれて……優しくしてくれて、強くてかっこよくて……あなたが大好き」

「ランナ……あっ」


 ランナの唇が首筋に這う。

 柔らかなその感触は、でも熱い。ランナの興奮が伝染してくるように、パリィの胸の奥も熱を帯び始め、それが全身に広がっていく。

 互いに、無言のまま唇を重ね、互いの感触を確かめ合う。

 少しの距離ももどかしいほどに強く抱きしめる。


「ラ、ランナ、わたし――」

「うん、わたしも――」


 ランナの指先が、パリィの装束の胸元にかけられた。


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