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白花香  作者: 桐生スケキヨ
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第017話「理解者は心を押す」

【Tips:〇一七 できた人間】

・白様も大概な人間かと思ったら……なんという人なのか。

慈愛を持つと殺気は消えるというようだが、この白様も恐らく殺気というものからは遠い、そんな人なのかもしれない。

むしろ逆におそろしい……。


【〇一七 理解者は心を押す】


 てっきり、勝手に六煌剣技を使ったことを咎められると思っていたからだ。


「少し座りましょう」

「は、はい……」


 ルシェルに促され、パリィはランナたちとは少し離れた場所にある椅子にかけた。ルシェルも座る。


「体重の移動方法ね。レビュンは小指を使うでしょう? わたしは薬指を使うの。こっちの方が小指よりも少しだけ速くできる気がして」

「え」

「今度試してみて」


 パリィはたまらず、腰を上げた。


「ルシェル様、わたし――」


 ルシェルはパリィをなだめるように、ゆっくりと言う。


「大丈夫よ。あなたはなにも悪いことなんてしていない。誰もあなたを責めたりなんかしない。だからあなたもあなたを責めないで。あなたの剣は正しかったわ」

「でも――」

「完全に殺気を消したものね。あの戦闘の中、あそこまで殺気を消せるのは今までの訓練と経験の賜物ね」


 パリィが一番恐怖を感じていたことを、ルシェルは軽く、そう話した。


「そう……なのですか?」

「殺気は相手に気取られて対応されちゃうでしょう? だけどあの時のパリィは、相手を楽にしてあげよう、みたいな感覚になってたんじゃないかな」


 その通りだとパリィは思った。


「そうすると、相手は殺気を感じないから対応が遅れる。そしてこちらは余分な力が抜けるから本来の、あるいは本来以上の行動ができるようになる……って、わたしも先代から聞いたんだけどね。なかなかに難しいものよ」


 にこりとルシェルは微笑んだ。

 だが、パリィにはやはり気にかかることがあった。その境地に至ったことは喜ぶべきことなのかもしれない。しかし至った動機が、認めがたいものなのだ。


「でも、わたしは……あの時、シリウスを殺そうとしていました。訓練なのだから殺意を持つのは当然です。でも、殺したい理由が……」

「ランナのことでしょう?」


 パリィはハッと息を飲んだ。


「迷っているようね、あの子のことで」


 ルシェルの声は先ほどまでとは違い、真剣なものになっていたのを、パリィはすぐに感じ取った。

 だから、パリィは覚悟を決めて口にした。


「ランナのことが――」


 するとパリィの言葉を、ルシェルの手が遮った。


「待った。その先は、わたしに言わないで」

「ルシェル様……」

「大事な言葉でしょう?」


 ルシェルの声色に優しさが戻る。


「それは一番最初に、ランナに聞かせてあげなさい。もう、パリィは真面目過ぎる。そんなに悩まなくてもいいことじゃない」

「でも――わたしは妖精隊の剣士。ランナは隊長です。六煌剣を継ぐことにだってなるかもしれない。それにわたしもランナも……女同士ですし……」


 ぎゅっと、パリィは無意識に拳を握りしめていた。

 不安を抑え込んでいた堰に亀裂が入り、そこから溢れ出したように、言葉が繋がる。


「あのっ、でもそれなのに諦められていなくて、このままでいようと思ったのに出来なくて、シリウスがランナと話しているのを見ただけでわたし……殺したくなるくらいに……! わたしは自分勝手の酷い人間で、大事な剣だって私欲のために使ってしまいそうになって、こんなわたしじゃランナの傍にいる資格なんてないって思えて――」


 いつの間にか地面を見てしまっていたパリィの肩を、ルシェルは優しく掴んだ。


「パリィ。落ち着いて。わたしを見てパリィ」

「本当にわたしは……ダメなんです」

「ダメなんかじゃないわ。あなたは優秀。それに、さっきも言ったけど真面目過ぎるからそう考えちゃうだけ。もっと簡単に考えましょ。ね?」

「簡単に……」


 気が付くと、眼が熱くなっていた。涙が流れているのかもしれないと、パリィは思った。


「簡単になんて……できません」

「パリィ? 剣士は不可能を口にしないものよ。しっかりして」


 ルシェルの声は力強い。


「自信を持って。あなたはまだなにもしていないじゃない。それで諦めるとか、そんなことでいいの? わたしの知るパリィはそんなに弱い子ではないわ」

「ルシェル様……」

「だから、しっかりと踏み込んで、見極めなさい。諦めたり泣いたりするのはそれから。あなたの気持ちは、あなたのものだもの。誰になにかを言われることや、気にすることもないわ」


 と、ルシェルはパリィの手を握った。少しだけ冷たいルシェルの手の感触に、パリィも冷静さを取り戻すことができた。

 そしてようやく、ルシェルが自分を勇気づけてくれているということに気が付く。


「あ、ありがとうございます、ルシェル様」

「ううん。あなたの伸びしろも見ることができたし、よかったわ。ランナのこともしっかりとやるのよ」

「それは……」


 しかしながら、パリィの迷いが完全に消えたわけではない。

 するとルシェルは軽く握った拳の甲で、パリィの胸をぽんと叩く。


「迷うのも貴方の心。だけど決めるのも、あなたの心だから」


 そしてランナや候補生たちを呼び集め、この日の訓練は解散となった。


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