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白花香  作者: 桐生スケキヨ
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第015話「不仲」

【Tips:〇一五 意味深な会話】

・立場の同じもの同士となっても、腹の探り合いになる。

単刀直入に聞ければいいことも、前置きや理由が必要だったりと、なにかとめんどくさくなりがち。

しかし我らが白様は紫様に臆することなく、いろいろと聞き出す。

紫様も案外話したいのだろう、たぶん、これはそういう人なんだ。

【〇一五 不仲】


 城内の訓練場は広く、外周が塀に覆われている。

 周囲からの秘匿性も高いため六煌剣士の訓練や、今回のような手合わせを行うという実戦に近い訓練にはこの場所が推奨されていた。

 パリィとランナは場に降りるなり、とんとんとつま先で地面を軽く小突く。

 土の状態の確認。剣士たちは慣れた場であっても、そうでなくても、足を着く場の状態は常に確認する。ふたりとも無意識の所作。

 意識は完全に戦闘へと向く。


「どう?」


 戦闘の前、ランナはいつもパリィにそう尋ねる。


「問題ないわ」


 体調、状況、装備、その他の要素に問題はないという意志を伝える。

 訓練だからこそ実戦と同じようにやる。

 ひとたび戦いの場に足を踏み入れたのならば、そこに迷いや悩みは存在しない。

 しばらくの後、ふたりの前には八人の剣士候補生が立ち並んだ。

 少し離れた所にはガリンガルの姿もある。

 緊張感に満たされた空気の中、シリウスが候補生を代表して言う。


「それでは、お手合わせをお願いいたします」

「こちらこそ」


 しきたりに習い、手合わせをする全員が一度頭を下げる。

 剣士候補生は訓練と言えど実剣を使う。このために怪我はもちろん、命を落とす事故もそう少ないことではない。

 真剣なまなざしを向け合う剣士たちをガリンガルは穏やかな視線で眺めている。

 その隣に、音もなくルシェルが姿を現した。


「遅いぞ白」

「ごめんなさい。これでも忙しくてね」


 ふたりは視線を合わせることはない。


「なにか嗅ぎ回せているらしいな」

「ええ。これ以上、脱走者を出すわけにはいかないもの。あなただって、そう思ってるんでしょう?」

「当たり前だ。ティーシャはじまって以来のこの醜態、看過できるはずなかろう」

「……なにか掴んでるの?」

「貴様とそう変わりはない。外商の一時的封鎖はすでに手を打ってある」

「それなら先に言ってよ。あなたもレヴィンも、どうしてそう報告が遅いのかしら」

「ふん、俺はレヴとは違い、言うべきことは言う。妖精は外商の連中を当たらせているのか?」

「そうね。一応は。本命は別にあるかな、とは思ってるけど」


 目を合わせないルシェルが口元に笑みを浮かべる。すると、ガリンガルは微かな興味を示し、ルシェルを見た。


「ほう?」

「案外、もっと近いところが火元だったりするんじゃないか、ってね。まぁ……当たって欲しくはない予想だけど」

「ふふっ、相変わらずに恐ろしい剣士だな、貴様は。可能性を最優先に、情を捨てて思考できるのだからな。斬り合いなら元寄り、腹の探り合いにおいてな」

「あなたほどではないわ」


 つぶやくように言うと、ルシェルはある種覚悟を決めた面持ちとなり、口を開く。


「ねぇ。マリエア様の件は――あなたなの?」

「なんの話だ?」

「とぼけないでよ。これは妖精隊にも言わないわ。今朝、レビュンが城に来ているのを見たわ。謁見があったんでしょう? もう内々には決まってる、関係者には。そうじゃないの?」

「ふふっ、大した想像力だな白。なんだ? 俺がマリエア様を得れば、レビュンが空くという算段か?」

「……あなたのそういう下卑た考えは昔からね。けど、そうじゃないわ。あなたに肩入れする強行派が気になるっていう話よ。全面戦争だけは避けなさいよ」

「ふん。穏健派とやらの日和見外交がこの有様を招いているのだろう? 脱走だなどと、六煌剣士始まって以来の汚点だ。俺はティーシャを正しい姿へと導く。玉座に座すだけの政治を行うつもりない。剣士王としてな」


 自信に満ちたガリンガルの言葉に、ルシェルは確信を得た。


「……ガリンガル、あなた本当に」


 時期国王――王女マリエアを娶るのはこの男だ。


「おっと、俺としたことがくだらん妄言を口にしてしまったな」


 こちらの心の中をのぞき込むような視線――ルシェルはガリンガルが時折見せるこの視線に対する嫌悪感はどうしても消せない。

 ――マリエア王女との交際疑惑が持ち上がったレビュン。実際に彼が王女とどのような関係であったのかは定かではないが、ルシェルが知る限り王女がレビュンを見る目は明らかに恋心を見せていた。

 自分とレビュンの関係が変わりはじめたのは、お互いが六煌剣士になってからだ。しかし、その時期はちょうど、レビュンとマリエア王女の話が出た頃とも重なる。

 ――よかったなルシェル、おまえのレビュンの隣が空いて。

 ガリンガルは強くそう決めつける視線でルシェルを見る。


「……本当に妄言ね」


 ルシェルが鼻で笑いそう答えると、ガリンガルは顔をほころばせた。


「ふふっ、ああ、自分でもどうかしてると思うほどにな。――そろそろはじまるようだ」

「そうね。しっかり鍛えてある?」

「大した資質の者はおらんな。その点で言えば貴様が羨ましい。俺の下は全員真面目ではあるが資質がない。どれだけ鍛えても六煌剣を持つに相応しい者はおらん。この手合わせをもって、力の差に絶望してくれればよいのだがな」

「もう少し弟子を愛せないの?」

「役割としきたりであいつらを鍛えているにすぎない。おまえほど、力のない者に感情を注ぐなどはできん」

「……困った人ね」


 ルシェルがそうつぶやくと同時、訓練場の空気が一変した。


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