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白花香  作者: 桐生スケキヨ
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第013話「お揃いの色」

【Tips:〇一三 隙がないという隙】

・同じ物、あるいは似たようなものを身につけるというのは連帯感が増すものであり、妖精隊の制服もそのひとつ。

敵味方の識別にも役立つし、身分を保証するものにもなる便利なもの。

そしてそれとは別になにかを揃えるというのは、好みによる部分が大きくなる……と思うのだが、どうなのだろうか?

うーん、隙がないが、隙だらけだ。

【〇一三 お揃いの色】


 朝食の席にはパリィとランナの他、クラティアに加えてルシェルもいた。

 クラティアはまだどこか眠たげな顔を見せていたが、食事が進む中でルシェルが言った。


「聞いた人いる? 夕べも、例の脱走があった、っていう」

「えぇっ、本当ですか?」


 驚きの声を上げたのはランナだ。このことは当然、パリィも初耳だった。


「そうなんだよ~。それで夜中に呼ばれて、寝不足。剣士も寝不足には勝てない」

「勝てるよ~。日頃からちゃんとしてないとダメだよクラティア」


 クラティアの軽口に、ランナは頬を膨らませる。


「あはは、そうだね隊長。はい、以後気を付けます」


 ランナに笑顔を見せるクラティアを尻目に、パリィはルシェルに問う。


「それでルシェル様、脱走の詳細はわかっているのですか?」

「剣士候補生が三人。いずれも最終訓練前の子たちね。ガリンガルに見つかって……剣を抜いてきたそうよ」

「え……」


 パリィは言葉を詰まらせる。

 剣士相手に剣を向けた以上、それは立場関係なく命のやりとりとなる。六煌剣士相手に剣を向けるとなれば、それは自殺的な行為と言えることだ。


「結果は聞くまでもなく、全員斬られたよ」


 言ったのはクラティアだ。そして、続ける。


「日頃真面目に練習をしていた人たちだって聞いた。特に不満や問題は口にしていなかった、って」

「三人の関係は?」

「さすがパリィ、鋭いね。三人の内、二人は交友が深かったみたい。一人は、その二人とは無関係」

「なるほど……では何者かの手引きがあるという可能性ね」

「そう、わたしもそう思ったっ」


 と、ルシェルがパリィを指さした。


「ル、ルシェル様?」

「そいつを捕まえない限り、どうやら脱走は続くわね、これ」


 腕組みをして言うルシェルに、ランナは眼を輝かせて聞く。


「心当たりがあるんですね、ルシェル様!」

「残念ながらそれはまだ。クラティアに調べてもらってる最中よ」


 ルシェルに視線を向けられたクラティアは苦笑。


「手がかりがあれば進むんですけどね。相手も狡猾(こうかつ)です、さすがに」

「そうよね。このティーシャを相手にそんなことをするだなんて。わたしには信じられることではないわ」


 パリィの言葉に、となりのランナもうんと頷いた。


「手引きする者がいたとして、よほど情報に疎い人じゃない限り、わたしの可愛い妖精隊から脱走者を出そうなんて思わないだろうけど――万が一の時は、斬らないで捕縛してね」


 ルシェルの言葉に、全員が同意を見せた。


「――あ、そう言えば今日はランナたち、候補生と訓練なんだっけ?」

「はい。このあと昼からの予定です」


 パリィが答えると、ランナも頷いた。


「へぇ、わたしも行きたいところだけど、こっちは夕べのあれでそれどころじゃない、って感じ。残念」

「大丈夫。クラティアの分までわたしとパリィでやってきちゃうから」

「はは、心強いね。任せるよランナ」

「そうね。クラティアの任務も大事だから、あなたはそちらをお願い。わたしも、少し遅れるけど必ず行くから。それまでふたり、よろしくね」

「はい」

「任せてくださいっ」


 ぎゅっと、ランナは両手に拳を作ってルシェルに意気込みを見せていた。



◇ ◇ ◇



 朝食後、クラティアは城内で調べることがあるということでルシェルと共に登城して行った。

 パリィとランナも身支度のためにそれぞれの部屋へと戻っていた。

 パリィは帷子(かたびら)こそ着けないものの、腕に手甲を通した。パリィは訓練時には薄手の手甲を服の内側に付ける。実戦となれば厚手の超硬質鉄鋼製を使うのだが、無骨なのでパリィはあまり付けたくはないと思っている。

 戦闘靴(ブーツ)の紐を締め直し支度を終える。髪を縛ろうかとも思ったが、それはランナを見てから判断しようとした。

 部屋を出て階段まで行き、ランナを待つと彼女はすぐに降りて来た。その手には見慣れない朱と青の装飾布(リボン)が巻き付けられていた。


「待っててくれたのパリィ?」

「ええ」

「えへへ、ありがとう。はい、パリィ、これ」


 ランナは手に巻き付けていた二本の装飾布をほどき、パリィへと差し出す。


「え?」

「わたしとお揃いだよ、ほら」


 ランナが見せた剣の柄の末部には今見せた装飾布と同じ物が付けられていた。


「こうして剣に付けておくとひらひら綺麗だし、髪を縛るのに使ってもいいしね」

「でも――」


 腕くらいの長さのそれは剣に付けたとしても邪魔にはならなそうだった。

 しかし綺麗に編み上げられた装飾布は裁縫の精度も高く、使っている生地のよさも触れただけでわかるほどに上等な物。


「嬉しいけど、もらうには高価すぎるわ」

「それなら平気だよ。これ、わたしが編んだんだもの」

「え? ランナがこれを?」


 驚いた。ランナにこんな才能があったことを、パリィは今はじめて知った。街の職人にも、これほど綺麗に装飾布を編める者はそう多くないはずだ。


「生地はその……えへへ、お城から端材をもらって。だからとてもいい生地なんだ。だからね、もらって。一緒に使おう?」


 笑顔のランナに押されるように、パリィは装飾布(リボン)を受け取ることにした。


「え、えぇ。ありがとう」


 ランナとお揃いの物を付ける。それも手作り。作るあいだはわたしのことを考えてくれていたのだろうかと思っただけで、ランナがとてつもなく愛おしく思えてくる。


「使うのがもったいないくらい」

「えぇっ、使ってよー。これがあれば乱戦になった時にパリィを探しやすいもの」

「ふふ、そうね。使わせてもらうわ。そして、わたしもこれを目印にランナを探せるわね」

「うん」


 乱戦になるということは早々ないのだが、ランナも心のどこかでは迫る大戦を予感しているのかもしれないと思った。そうすると、彼女の無邪気な笑顔が長雨の季節の晴れ間のように、貴重な物に見えてくる。



◇ ◇ ◇



 パリィは移動しつつ、剣の柄に装飾布(リボン)を取り付けた。

 城門を抜け訓練場へと向かう途中、パリィとランナに近づく気配があった。先に気が付いたのはランナ。


「あっ、シリウス」


 聞き慣れない名前を耳にしたパリィはランナの視線を追った。


「え?」


 そこにいたのは薄い紫の外套(マント)を纏う、剣士候補生の男子だった。背丈と雰囲気から、昨日ランナと話していた人物とパリィはすぐに察した。


「ランナ様っ」


 どこかまだ幼さを感じさせる声をさせる彼が小走りにこちらへと寄ってきた。


「様はいいよシリウス。今日はよろしくね」


 言い、ランナはパリィへと体を向ける。


「同じ妖精隊のパリィだよ」

「お名前は聞き及んでいます、パリィ様。紫様の下、剣を学んでいるシリウスです」


 シリウスは淀みなく言い、すっと手を差し出した。無碍に断ることもないので、パリィは握手に応じる。


「はじめまして」


 剣を握り慣れた手だ。かなり練習しているが実戦の経験は乏しいのだろう。力の入り方があまりにも均一すぎている。

 ――この手でランナとも握手したのだろうか。一瞬そんなことが頭をよぎるが、振り払う。


「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ」


 言葉少ない返事を返すと、シリウスの視線が装飾布(リボン)へと下がった。


「あ、この装飾布(リボン)はランナさんが昨日言っていたもの?」

「う、うん」


 もじもじとランナはなぜか恥じらいを見せていた。


「素敵ですね。ランナさん、こういうこともできるなんてすごいです」

「そ、そんなことないからっ、わたしなんかまだまだだよ」


 ――そんなやりとりをして、二人は笑顔を見せ合っていた。

 そんな二人を視界から外すかのように、パリィは誰もいない方へと視線を向ける。

 ――やはり、自分には及ばないところがある。

 自分とランナにある共通点は剣士であるというところと、同じ部隊ということ。それだけのこと。

 自分とは違う。ランナは剣においては天賦の才能を持つが、心は普通の少女。この先男性と恋をするのだろう。愛していくのだろう。そこになんの問題もない。なんの問題もなく、ただ、その相手が自分ではないということだけだ。


「……大丈夫」


 誰にも聞こえないように口の中でそうつぶやき、パリィは指先に装飾布(リボン)を巻き付ける。

 柔らかく滑らかな指触りは、触れたランナの頬、唇を思い起こさせる。

 その中で、パリィは心で繰り返す。

 大丈夫、大丈夫だ――と。

 自らの胸に手を置き、そう繰り返したいた時だった。


「っ!」


 ぞわりと、背中から包み込まれるほどの強い気配を感じ、パリィは振り返る。


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