第二話「死に様ってなに?」
──クロードとの事件の翌日。
アリーナの家は2階建ての一軒家である。そして、その2階の1番日当たりのいい所に位置する階段を昇ってすぐ右を向き、廊下を渡った先の右側がアリーナの部屋だ。
そして、朝日に照らされながら枕を抱えて悩める少女がこの部屋にいた。
「うぅ……あの時の誘い、断っちゃったけど……ほんとに、あれでよかったのかな……」
彼女は昨日の、レクスという少年から発せられた奇想天外な提案「俺と最高の死に様を目指さないか?」という提案についての返答が「すみません、遠慮しておきます。」だったことについて酷く悩んでいた。
そんな悩める彼女を他所に、下の階から母親の声が響く
「アリーナ!朝ご飯!!早く来なさい!!」
何故、お母さんというものは直接言いに来ず、下の階から大きな声を出して呼ぶのだろうか。
その方が疲れるだろうに。心の中で軽く愚痴を零しつつも「今行くーー!!」と、2階から返事をするのであった。
パタパタパタと足音を立てながら下の階に降りると……あまり信じたくない光景が目に移り
思わずフリーズしてしまった。
「な、な、なんで…あなたがここに?」
アリーナの家族は父、母、アリーナ、妹の4人家族である。したがって、四角い大きなテーブルには4つしか用意されてなく、誰が座るのかは事前に家族内で決めてある。しかし、今日はアリーナが座っている席に当たり前かのように座り、ガツガツむしゃむしゃと茶碗に盛られている米を食らっている175cm位の男が存在していた。一通り口の中に入っている食べ物を飲み込んだ後…先程の耳障りだと感じた母親より大きい声で会話をしてきた。
「よォ!!!!昨日ぶりだな!!!!
最高の死に様日和だ!!!!!」
「ほんと〜〜に……さいあく。」
アリーナの最悪な一日が幕を開けたのだった。
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一通り絶望し終わったあと、「なってしまったものは仕方が無い」と開き直る事にして、普段座り慣れない"私の席だったもの"の向かい側のお父さんの席に腰掛けた。
とりあえず手を揃えて「いただきます。」は言っておく。
そうするとお母さんは笑顔で元気よく「はい、どうぞ!」と返してくれる。運がいい事に、お父さんと"アリス"は、既に出て行ったあとらしい。
ここまではいい。
だが!!!
「アリーナの母上殿!この、唐揚げのおかわりはいただけるか!!!」と、綺麗になった皿をお母さんに見せつける。
「あらあら、レックスさん!家はお父さんが40過ぎてからこういう大食らいが居なくなって寂しかったのよ〜、ほら!用意してあるから、たーんと食べてちょうだいな!」
そう言うと、どう考えても調子に乗って作り過ぎただろと言わんばかりの山のように積み重なった唐揚げを台所から持ってくる。
「うひょ〜〜ありがとうございます!!!母上殿の作る料理は、俺が冒険して食べてきた食事の中でも正に"絶品"と言えるでしょうな!!!
はーーはっはっはっはっ!!!!!」
「もぉ〜、お世辞が上手いんですから!」と、デレデレしている実母を目の当たりにして実の娘である私は(何故、この異物に対して順応している!?私の母は……)と、心の中でツッコミを入れつつご飯を静かに食べ進める。
そして、いい加減この男の存在に耐え切れなくなった私は、遂にレクスに対して口を開く。
「で、なんで私ん家にいるんですか???」と
少し強い言い方で尋ねてみる。
すると、相変わらず元気な声で答えてくれた
「アリーナ、お前をまた誘いに来たんだよ!
俺と一緒に最高の死に様を……」そう言切る前に、私は食い気味に、「お断りします。」と一蹴した。
「えええ!なんでだよ!絶対お前となら俺の求める最高の死に様に出会えると思ったのに!」
と、駄々をこねるようにそう反論するレクス。
「そもそも!最高の死に様ってなんですか!!
そんな訳の分からないもの嫌に決まってるじゃないですかぁぁぁ!!!」と、頭を抱えながら負けじと反論をしてみる。
それに対して、レクスは急に真面目な雰囲気になり、答える。
「お前にとってのやりたい事ってなんだ?」
その問いに対して目を丸くしながらも私は
「エ、エモシアになる事…です。」と昨日"あんな泣き言"を言ってしまった手前少しうつむき加減に言ってしまった。ほんと情けない。
その返答に目を輝かせながら豪快に立ち上がり、その男は指さして言ってきた
「それだ!!死に様ってのはつまり…どう生きてきたかって事だ、生き様を全部突っ込んだ最後の土壇場の一発!それが、死に様って奴なんだよ!!」
「お前のそのエモシアになりたいって熱い決意と熱意なら…最高の死に様に相応しい舞台が作れるんじゃないかと思って…俺ワクワクしてよ!
なぁ、頼むよ…お前にしか頼めねぇんだ……」
昨日と同じようにまた最高の笑顔で手を前に突き出してくる。
「俺と、最高の死に様って奴を目指さねぇか?」
「死に様とは…生き様の全て。」
思ったよりもちゃんとした返しが飛んできて少し驚く。でも、そして…同時に……ワクワクしてしまった。この男が目指している最高の死に様という奴に、そして私と一緒なら叶えられると信じて疑わないその真っ直ぐな目に……。
正直、「負けた〜〜」と思った。この男の熱意と好奇心に…でも、それを失ったら…最高の生き様なんて夢のまた夢なのだろう。
なにしろ私は…"感動者"なのだから。
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パシッと手を掴み、アリーナは勇気を振り絞り宣言する。
「……私でいいなら。で、でもでも!後悔しても…し、知らないんだからねっ!!」
「あぁ!安心しろ、俺は人生で後悔したことなんて……一度もねぇっ!!!」
こうして、"最強のドラゴン使い"と呼ばれた男と"無能力少女"と呼ばれた少女の…奇妙なタッグがここに誕生した。