第七話②「忍び寄る影」
「すげええええ!!!!!」と街中に野太い豪快な声が響いた。
どうやらその正体はある金髪少女の家から
発せられたようだ。
「お、お、お前!"心が読める"って……本当か!?なんだそれは!!最高じゃないか!!!」興奮しながら迫るレクス。
「はぁ……まぁ、できますけど?」
と、「まぁ、当たり前でしょ?」みたいな"演技"をしながらとても満足気だ。
「うおおおお!!!じゃあ、俺の心も読めるって事か!?そうなんだよな!?」
「あーー……うん、まぁ出来ますけどーー…。」
少し顔をひきつりながら目線を横にそらす。
勿論、アリーナがレクスの心を読む事は"可能"ではある。
ただ、断じて"やりたくはない"。
ガンゾーからの助言で自分の目的を思い出したあの日から、アリーナの能力は頗る調子がいい。だからこそ、レクスの心の声も偶然入ってはきた。
しかし、その声の正体は「うおおおおおおお!!!!!!腹が減った!!!!!」だの「冒険!!!!冒険がしたいぞ!!!!!」だの「死に様はどこだーー!!!!!!!」だのと…
──鼓膜が破れそうな程"うっさい"。
4年前感動者の適性検査合格の日、罵詈雑言の嵐から無意識の心の声を"ミュート"する機能を手に入れたアリーナは、ハッキリとした自分の意思でレクスの声を"着信拒否"していた。
「なぁなぁ!!!!教えてくれよ!!!!!!
俺はどんな事を考えてるんだよ!!!!!」
と鼻をふんすこ鳴らしながらアリーナの肩を
揺らすレクス。
「な、なーいしょっ。」と、遠い目をしながら
レクスにブンブン上半身を揺さぶられるアリーナなのであった。
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別にアリーナの家に居ても始まらないと、アリーナとレクスは外に出る事にした。
お母さんから出されるお昼ご飯とデザートをたらふくご馳走になったレクスはお腹をさすりながら「お!あそこの屋台美味そうだなー!」と
一人たこ焼き屋さんの方へ走っていった。
「ま、まだ食うのか…あの男は……」とレクスを
ジト……と見つめていると、背後から自分を呼ぶ声が聞こえて振り返る。
「よォ!アリーナ!その後、調子はどうだ!」
と、その姿はガンゾーであった。
「あ、ええと……」と、名前が分からずあたふたするアリーナ。
「あぁ、名乗ってなかったか?俺の名前はガンゾーだ!そういやちゃんと話したのも昨日が初めてだったもんなぁ」と、自己紹介をしてくれた。
「ガンゾーさん!昨日は、本当に…本当にありがとうございました!!」
と、深々と一礼。
「あなたのお陰で私、大切な事を沢山思い出せたんです!」
キラキラと爽やかな笑顔で言われ、ガンゾーも少し照れくさそうにした。
「ま、まぁよ!助けになったなら良かったぜ!
……今まで、"無能ちゃん"なんて茶化してすまなかったな。」
申し訳なさそうに下を見ながら謝るガンゾーに
焦って手を横に振る。
「い、いいんですよ!そんな……
それにその呼び方ちょっと気に入ってるんですよ!無能力少女より、可愛くないですか?」
「そ、そうか……?」
と、困惑しながら頬をかくガンゾー。
「おーーーい!」とたこ焼きのタッパーを2つ持って駆け寄るレクス。
「あ、レクスさん!ほら、ガンゾーさんも行きましょう!」
と、ガンゾーの方向を向く。
──ピタッと、ガンゾーは空を見ながら銃でも撃たれたかのように止まっていた。
「……クロード、様。」
ガンゾーは機械のようにそう呟く。
「……え?」
アリーナはガンゾーが心配になり、顔を覗き込む。
──突然、ガンゾー両手でガシッと首を掴まれ、押し倒された。
きゅうううう……っと甲高い音を立てながら
アリーナの首を絞めるガンゾー。
「殺せ、アリーナを殺せ。」
目が虚ろになりながら先程のように呟く。
「い、いったい……なんでっ」
その真相を知るために、アリーナはガンゾーの感情を覗いてみる。
それはまるで、空っぽ。
いや、感情を握りつぶされ、出力されない。
そんな感覚がアリーナに伝わってきた。
「……っ。これは、ガンゾー、さんの……
意思じゃないッッ!」
首を掴んでいる手を振りほどこうとするが、
ビクともしない。
「殺せ、アリーナを殺せ。」
まるで、感情のないロボットの様に淡々と
アリーナの首を絞め続ける。
「アリーナ……ッ!!!」
そう呟きながらガンゾーに向けて超スピードで接近するレクス。
「──爆炎竜のォ……」
拳に力を込めながらガンゾーの頭部に、炎を纏い殴り掛かるレクス。
それを見て慌ててアリーナは叫ぶ。
「……ま、って!!!」
必死の声に驚きながら
「んえ?」と鳴き、力が抜ける。
──炎が消えた拳がそのままの速度でガンゾーの頭部に直撃した。
バタンと倒れるガンゾーに慌てて駆け寄るアリーナ。
「脈は……ある。息もしてる。
よかったぁ……気を失ってるだけみたい。」
安心してほっとするアリーナ。
「おいおい、こりゃあどういう状況だ?」
頭を掻きながアリーナに尋ねるレクス。
「誰かに、操られてたみたいだった。
それに……ガンゾーさんが言ってた言葉……
クロード?」
ガンゾーを見ながら顎を親指と人差し指で挟みながら「むぅ…」と唸るアリーナ。
「クロード?誰だっけそいつ」
ととぼけた声でたこ焼きを摘むレクス。
「ほら!私を襲ってた"催眠使い"のクソナルシスト野郎ですよ!!ドラゴン使いを名乗ってた!」
それを聞いて手の平をポンと叩くレクス。
「あ〜〜!あの美味いドラゴンを飼ってた飼い主か!!
でも、あいつはギアドに捕まってるはずだろ?」
疑問を述べるレクス。
その時、四方八方から続々と住民たちがゾンビのようにアリーナの周りに群がってきた。
「……殺せ、アリーナ…殺せ。」
声を揃えながらアリーナに近づく住民達。
「ひえぇ…っ、なになに!?どういう事ぉぉー!!」とアリーナの声がこだまする。
「こりゃあ、のんびりはしてらん無さそう……だな。」
バクバクバクっとたこ焼きを音速で平らげた後、アリーナの腕をガッと掴むレクス。
「……んええ??」
と、状況が飲み込めないアリーナ。
「……ごくっ。逃げっぞ!!」
そう言うと、アリーナを肩に担ぐ。
「ええ、これってまさか……」
「背中握ってろよ!!!」
そう言うと、地面を蹴り、凄い速度で空中に跳び上がるのであった。