第六話②「"無能力少女"の追憶 part2」
エレナの家に毎日のように遊ぶようになって、3ヵ月が経過した。
エレナの家に行くと、クッキーやケーキなどのお菓子と紅茶が振る舞われる。それを摘みながらエレナの昔旅をした冒険譚を聞くのがアリーナの日課となっていた。
最初はお菓子目当てであったアリーナも段々とエレナの話を聞くのが楽しみとなり、朝起きるなり、寝癖も直さず走ってエレナの家に通っていた。
エレナの家は、裏路地の奥の奥のそのまた更に奥を抜け周りに家が全く立ち並ばない街の中にも関わらず自然が生い茂る所にポツンと存在していた。外装も苔まみれで「本当に人が住めるのか?」と最初はアリーナも疑ったがすぐ様秘密基地みたいでワクワクしながら入っていったらしい。
エレナの目的であったアリーナの能力の制御も順調に整っていた。アリーナの今の状態は感情エネルギーがそのまま大きな心の波を立てて常時力を発動させている状態である。これを改善する為、少しずつエレナの感覚をアリーナに同調させて感情のエネルギーが起こす波を緩やかに、そしてそれを平常にさせる為の作業をこっそりと行っていた。
それに、アリーナがエモシアを目指すというのならまだしも、余りにもこの年齢の少女が持つには危険な力だ。「持っていてもいい事など無いだろう」と思い、アリーナの力が無くすためにいずれ感情エネルギーが心の波を立たなくさせるまでに波を小さくさせようと考えていた。
だがそれは、アリーナが感度者等に憧れなければ……の話だ。
「かんどうしゃってすごい!!!わたしもなってみたーーい!!!!」
(ま、ままままずい!余りにアリーナちゃんが楽しそうに私の武勇伝を聞いてくれるもんだから<エレナちゃんのエモシア大戦記 〜実話です〜>をはなしすぎてしまったーー!!!)
顔を青ざめながらなんとかアリーナが感動者への関心を"穏便な方法で"無くす事が出来ないかと頭の中で画策するエレナ。
そんなエレナの気も知らずアリーナは
キラキラと純粋な笑顔でエレナに迫る。
「ねぇねぇ!もっときかせてよ!エレナおねーちゃんのぶ、ぶゆーでん?ってやつ!」
「はうわ!!!」と胸に恋の矢を受けたようにその「おねえちゃん」というたった六文字の言葉に逆らえないエレナはまた意気揚々と<エレナちゃんのエモシア大戦記 〜実話です〜>第十三章の続きを話し始めるのであった。
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そしてまた時は過ぎる。
アリーナが9歳の誕生日を迎えた日。
誕生日なのにも関わらずアリーナは今日も元気にエレナの家に遊びに行くのであった。
家に入ると、玄関の前でずっと待っていたであろうエレナが
「"私の"親愛なるラブリー・アリーナちゅあん!!!誕生日おめでとーー!!!!!」
と、手に持ったクラッカーを鳴らしながら盛大に祝ってくれた。
そして、リビングの机には誕生日おめでとう!と書かれたプレート付きのイチゴのショートケーキがホールで置いてあり、「二人分にしては、大きすぎたねっ」なんて笑いながら二人でそれを分けながら食べる事にした。
エレナは誕生日プレゼントに、とアリーナが前からずっと欲しがっていた<エレナちゃんのエモシア大戦記 〜実話です〜>に登場する七色に光る聖なる石がはめ込まれたペンダントをプレゼントしてくれた。
「え!いいの!?これ、とっても大切なものだからさわっちゃだめーっておねーちゃん言ってたのに!」
喜びつつも少し申し訳なさそうにエレナに尋ねるも、「いいんだよぉ〜、アリーナちゃんが欲しいと言うのなら…ん〜あげちゃう!」と、いつもの5倍くらいのテンションの高さで答えてくれた。
「ありがとう、エレナおねーちゃん!いっしょうのたからものにするね!!」眩しく煌めく笑顔に卒倒しそうになるが、辛うじて意識を食いつなぐエレナであった。
「ねぇね!エレナおねーちゃん!わたしにもエレナおねーちゃんのおたんじょうび、おいわいせて?エレナおねーちゃんのほしいものをおしえてよ〜!」そうエレナに尋ねると感涙しながら「いいんだよ、グスッ…アリーナちゃんが生きているだけで……スンッスンッ…私は幸せだからね?」そう返答するエレナにほっぺをプクーっと膨らませながら反論をする。
「だめーっ!ほしいものいってくれなきゃ
だめなの!!人からもらった"おんぎ"はちゃんとかえしなさいってパパもいってたもん!」
それを聞くと、少し真剣な表情をした後
エレナはこう答えた
「……花、かな。青白い花星型のお花。
あの花が私大好きなんだ。」そう、すこし寂しげに語るエレナの答えにアリーナは大興奮!
「わかった!すぐそのお花、とってくるね!」
そう答えた後、猛スピードで家の外へ走っていった。
「…いやいや、私の誕生日五ヶ月後だし!」なんてツッコミを心の中で行なう。
「さて…どうしたものか。」と顎に手を付けるエレナ。
「…なんだか嫌な予感もする。」と、己の直感を
シンジ、アリーナを追いかけてみることにした。
だが、玄関の惨状。
散らばったらクラッカーのゴミを目の当たりにして、「と、とりあえず片付けてから…かな。」と、急いでクラッカーのゴミを片付けるのであった。