第一話「"無能ちゃん"と"ドラゴン使い"」
──惑星「ヴァルディス」。
その空に浮かぶ大陸「ドラヴァニア」には、
「フィルダリア」「リヴァネス」「ノクシア」「ヴァルモレア」「ヴォルトラーデ」を筆頭とする五つの大国が存在していた。
これは、騎士の国フィルダリアの首都「ミラディア」でのお話。
「今日こそは」と息を飲み、「波動連はどうれん」の大きな扉を開く少女が一人いた。
彼女の名前は「アリーナ」、綺麗な金髪を大きな白いぽんぽんが付いた髪飾りで髪を束ねてツーサイドアップで仕上げる大きな赤い目をした17歳の女の子。
フリルたっぷりの赤いドレスに身を包んだ彼女が扉を開けると、真昼間からお酒を飲み、机を囲んでいた酒臭い荒くれたガタイのいい男2人がアリーナの姿を見つけてゲラゲラと笑い始めた。
「ぎゃははは!!誰かと思えば、またあの無能ちゃんじゃねぇか!!!」一人のまるで、どこかの世紀末を彷彿とさせるようなリーゼント頭男が笑う。
もう一人の栗頭の男がアリーナに近づき、バカにしたような顔でこう告げる。
「今日はどうしたのかな〜?ミルクでも飲みに来たのかな〜???まさか、能力も使えない癖にクエストを受けに来たわけじゃないんだろ?」
アリーナはそんな男達をキッと睨みつけ、
「きょ、今日こそは!クエストをクリアして、正式にエモシアになるために来たんです……どいてください!」と、怒りのままに叫び、クエストカウンターの方にズカズカと歩いていった。
「あ、あら…また来たのね。アリーナちゃん。」
困ったように小さな声でそうつぶやく、背筋を伸ばしながらキチンと立ってる茶髪ショートヘアのお姉さんこそ、不運にも今回アリーナの受け付けをすることになったクエストカウンターの受付嬢である。
スフレに対してアリーナは頭を下げた。
「お願いします、エモシア認定試験の最終クエスト、<ゴブリン退治>を受けさせて下さい!」
何度も聞いたその台詞に対して呆れながらもクエストを受ける為の書類をスフレのすぐ手元の引き出しから出し、スフレは告げる。
「では、アリーナ様の感動者かんどうしゃとしての適正を調べさせていただきますね。」
──感動者の源となるものは感情である。
人間の強い感情が「感情エネルギー」として身体や魂に蓄積される。喜び、怒り、悲しみ、恐怖など、感情の種類によって色や性質が異なり、それを自在に引き出し、操るのが「感動者かんどうしゃ」である。
感情エネルギーは「心の波動」として世界に影響を与え、それが物質の振動や元素の状態に作用し、雷や氷、炎などの形で表現される。しかし、心の波動が何をもたらすのかは人それぞれである。
そして、ドラゴンやゴブリン等のクリーチャーが蔓延る世界に対抗する為に波動連はどうれんと呼ばれる教会を設立。感動者では無い人々を支える為に波動連で働く感動者達こそ「エモシア」である。
そして今、アリーナがその感情エネルギーを使ってどのような現象が起きるのかを今試そうとしているのであった。
ふぅーー…っと力を抜き両手を前にかざし
「ふんっっっ!!!」と勢いよく力を込めるもほっぺを膨らませ、手をプルプルさせるだけのアリーナを見て先程絡んで来た荒くれ男も大笑いし始め、それを見たスフレも額に手を当て呆れたようにため息をこぼす。
「うははははは!!!!!流石無能ちゃん!感動者の癖して何も効果を出せない落ちこぼれ!!」アリーナを指差して笑う。
"無能ちゃん"、感動者の適性検査を合格したにも関わらず何の力も開花しなかった"無能力少女"。
そんな彼女を嘲笑する為に出来たあだ名が
通称"無能ちゃん"だ。
「…アリーナ様の現在の能力では、D級難易度<ゴブリン退治>のクエストを受注する事は出来ません。」冷酷にも、淡々と事実をアリーナに告げた。
「それでも、それでも私は……」
自分の"無力さ"を噛み締めながら、涙を浮かべ、拳を握るアリーナ。
「では、本クエストの適正無しと見なして今回はお見送りを……」
と、スフレが告げようとしたその時
「待ちたまえ!!!!」と、果敢な声が聞こえる。
ストレートに靡く黒色の髪、鋭利な顎、そしてハンサムな顔立ち、歯も真っ白でピカピカと反射している彼この名こそ
「きゃ〜〜〜っ!クロード様ぁ〜〜!!」
目をハートにしながら甲高い黄色い声を挙げる
スフレに対して挨拶代わりのウィンクをするクロード
先程の荒くれ者達も目を見開く
「おいおい!あいつぁ!この世で最もやべぇとされてる最古の感動者…ドラゴン使いのクロードじゃあねぇか!!!」
「そう、僕こそ唯一無二のドラゴン使い…クロード様、さ!☆」と、多分お決まりの決めポーズである人差し指を天に突き刺すポーズを颯爽と決め、波動連にいる女性全てから黄色い声援を掻っ攫う
(こ、この人が…あの伝説と呼ばれている今は一人しか存在していないと言うあの…ドラゴン使いさん!?)始めてみる使い手に驚き、目を見張るアリーナ
一通り、女性達に手を振り返した後、アリーナの方に近づくクロード
「大丈夫かい?レディ…よければ
この僕に、君のクエストを手伝わせて貰えないかい?」キラリンっと真っ白な歯をこれでもかと見せつけウィンクをする。
「えっ、い、いいんですか……!? 私、能力も出せない“無能ちゃん”で……それに、このクエストも……」
自虐をしながら下を向いていくアリーナ。
「困っているレディを…放っては置けないから、ねっ!」また周囲に見せつけるようにウィンクをするクロードに更に黄色い声援はあがる。
「確か、B級以上のエモシア立ち会いの元ならエモシアでない感動者のクエストにも同行していい…というルールだったよね?スフレちゃんっ☆」
「は、はいぃっ!! 今すぐ準備して参りますぅぅぅぅぅぅ!!」
歓喜のスフレがカウンター奥へ駆け込むのを見届け、クロードは再びアリーナに微笑む。
「あ、あの!ありがとうございます!ドラゴン使いさんと一緒なら心強です!」
「さあ、行こうか──僕たちの冒険へ。
《ドラゴン使い》と《無能力少女》が織りなす、ちょっぴり不思議な物語の始まりさ!」