表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

嘘吐きの悪魔

作者: 小雨川蛙

 

 あるところに嘘が大好きな悪魔がいた。

 彼は多くの人を騙し、弄んでいた。

 そんな彼がある日、今にも息絶えて死にそうな乞食と出会った。

 その乞食は目を閉じながら呪詛を唱えていた。

「悔しい。悔しい」

 実に甘美な言葉だ。

 悪魔はうっとりとその言葉を聞いていると乞食は尚も言った。

「何がこの世は平等だ」

 悪魔はちらりと乞食の脳の中を覗いた。

 そこにはあまりにも悲惨な乞食の人生が克明に刻まれていた。

 生まれた頃より両親を知らず、盗みで生計を立てていた。

 しかし、そんな生活であるが故に多くの人々から疎まれ暴力を振るわれた。

 そんな中、乞食は幾たびも思ったのだ。

 この世は不平等だ、と。

 反対に言えば、その事実だけが乞食が縋れる唯一の本当だったのだ。

 故に彼は今も呪詛の言葉を吐いている。

 その事実に縋りながら。

 自身のしてきた悪行を必死に正当化しながら。

 悪魔は残酷な笑みを浮かべる。

 その希望を刈り取ってやろう。

 慈悲もなく。

 残酷に。


 あくる日から人間の世界に貧富の差がなくなった。

 まるで元からそうであったように。

 いや、人間と言うものの差がなくなってしまったのだ。

 能力も、思想も、そしてその生きざまさえも。

 そんな中で悪魔は「こんなはずでは」と絶望していた。

 そう。

 悪魔はあの乞食を絶望させるためだけに、彼が縋っていた『不平等』という概念を『嘘』にしてしまったのだ。

 故に世界は完全なる『平等』なものに変わってしまったのだ。

 人々の中から『嘘』という概念が消えた。

 何せ、嘘とは誰かを出し抜くためのものであるから。

 平等な世界では存在しえないのだ。


 こうして悪魔は自らを正当化する乞食の魂と引き換えに全ての人間に平等を与えることになってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ