たおれる、たおれる
むかしむかし。
飲み食いのことにかけて、めっぽうカンのいい男がおった。
男はまんぷく丸とよばれていた。
飲み食いの集まりがあるとかならずやってくる…が、なに一つもってこない。
手ぶらできては食べて飲んで、そしてかえってゆく。
ある日のこと…。
ひそひそひそと話し合い…。
「こんどまたみんなであつまろうと思う。しかし…」
「まんぷく丸がきてはおもしろくないな…」
「なんとかしてあいつが来ないようにしたい…」
みんなで話し合う。
いろいろと話し合い……話し合い……話し合い…
ひみつの宴会はとおくはなれた山小屋で行うこととなった。
そして、ひみつの宴会当日…。
とおい山小屋にあつまった。みんな飲みもの、食べものをもちよった。
「さぁ、みんなそろったな?…それじゃあ!」
戸をかたく閉め、かんぬきをした。
「ここまですれば…いくらまんぷく丸でもやってくることはあるまい」
「今日はたらふく食べようぜ!」
「そうだな…!わっはっは」
みんながいろりに鍋をかけた。
やがて、ぐつぐつと音がする。いいにおいが小屋中にひろがる。
「そぉら、もうすぐだぁ…」
「ふひひ、はやく食べたいぜ~」
トン、トン……トン、トン
だれかが戸を叩いている。…外からだ。
「たおれそうだ…たおれそうだ…」
おどろいてみんな顔を見合わせる。
「その声……まんぷく丸……か?」
「よくここがわかったな…犬なみに鼻がきくやつだ」
「しかし、たおれるというからには……酒でももってきたのか?」
「酒ならありがたいぞ」
「…いれてやるか」
「そうだな…」
というわけで、かんぬきをはずし、がらっと戸をあけた。
しかし、まんぷく丸はなにももっておらん。
す~っとはいってきて、ろばたにどんと座るまんぷく丸。
みんなはあわててまんぷく丸にきいた。
「おい、まんぷく丸! なにがたおれるだ。手ぶらじゃあないか!」
「…ああ、それはな…」
まんぷく丸がお腹をさすって笑いながらいった。
「おなかが空いて……今にもたおれる、という意味だったのさ」