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第13話「世界平和を願う者たち」(9)


「……彼の宿している能力、それは魔力暴走の影響――すなわち魔災の影響なのではないか?」


 黒猫ティアマットがまっすぐとトレイスを見つめ、そう告げる。

 ヴィルフィ、ティアルム、リスター、トレイスと続く可能性の流れが、そこにいる者たち全員に一つの結論を芽生えさせた。

 黒猫の金色の瞳にじっと見つめられているトレイスは、深刻そうな面持ちで口を開く。


「……つまりあなたたちの言いたいことは、魔災の影響を生まれながらにして受けたリートが、他ならぬ魔災の元凶である、と?」


「むやみに主語を大きくしないことだ。私”は”そう思ったがな。だがこれに反論できる決定的な証拠を突き付けられる者はいるのか?」


 ティアマットが視線を移し、横にじっと座っているリスターを見上げる。彼女も先程まで浮かべていた驚きの笑みを消して、徹底的に証拠を探ろうとしていた。

 だがしばらく考えても見つからなかったのだろう、リスターは一息笑みを浮かべて、してやられたと言わんばかりに手のひらを上に向ける。

 そしてティアマットは他の人物たちも一人ひとり見つめていく。根拠を持って反論できる者は誰一人としていなかった。

 ティアマットは自らの仕事を終えたと言わんばかりに、ソファーで丸くなりながら、後は任せたぞという目線をヴィルフィに向けている。彼女はため息を一つ吐きながら、彼の話題を続ける事にした。


「……トレイス、一つ聞きてえ事がある。リートが他の奴と違うと決定的に言える能力は何だ?」


 突如話を振られたトレイス。しかし自分たちが少しずつ真相に近付いているかもしれないという意識に、驚きよりも突き詰めたいという意志がまさっていた。


「リートの特殊能力は大きく分けて二つ。一つは無尽蔵の魔力、もう一つは無詠唱で魔法を発動できること」


「魔力が無限ってところはどうか分かんねえけど、無詠唱っていう点では少し心当たりがある」


 ヴィルフィはふと椅子から立ち上がり、自身の太ももに隠していたナイフを取り出す。そしてそのナイフの刃先を右の手のひらに添えて、他の者たちへ見せびらかすように、すっとナイフで切った。

 傷口が徐々に赤い線へと変わっていき、ヴィルフィの手のひらを赤い血がだらだらと流れていく。しかしその流れてく血は、まるで滝壺に落ちようとしている流水が霧散するように、途中で火の粉へと変わっていき蒸発してしまう。さらにその炎は傷口まで燃え広がっていき、ようやく炎が小さくなり手のひらが見えてきた頃には、傷口がどこかに消えてしまっていた。

 そしてその間、彼女はずっと無言だったのだ。これが意味することとは――


「……モンスターの魔法や魔力暴走による能力は、基本的に詠唱を必要としないよな。アタシに宿った再生能力レストアだって、別にアタシが何か特訓したわけじゃねえ。だとしたらあいつの能力は何なのか、ほとんど証明できてるはずだ」


「……魔災の影響で発動した能力の証拠になる、ということを言いたいんだね」


 トレイスがヴィルフィの、或いはここにいる者の言わんとしている事を代表して伝える。


「そういうこった」


 理想通りの答えが返ってきて、一仕事終えたようにまた椅子へ座るヴィルフィ。

 ヴィルフィの能力は魔災によって直接生まれた訳ではない。しかし彼女は世界の底で高濃度の魔力を浴び続けることによって、この能力を発動させたのだ。これが証明するのは、魔力の影響が人間にも及ぶことだ。

 そしてこの世界のモンスターは無詠唱で魔法を発動し、魔災の影響で特殊能力を得る。その特殊能力はもちろん、何かを唱えて発動するものではない。ここから導かれることは、リートの能力が魔災に関係する可能性が高いということだ。

 彼女はこの場にいる人物たちに、リートの能力の異常性、そして魔災との関連性を証明することが出来たのだ。


「……傑作だなあ、あれほど”最強無欠の賢者”なんて国民が慕っていた少年が、モンスターと似たような能力を持っているのだから」


 リスターが嘲笑しながら、少し声を低くしてぽつりと呟く。


「ま、迫害されないだけマシだったんじゃねえか? アイツの周りには良い仲間がいるんだろ?」


 ヴィルフィはトレイスの方に視点を向ける。

 賢者一行が魔女の森にやってきてヴィルフィと対峙した時、賢者リートは三人の仲間に囲まれていた。うち一人は忘れてしまったが、一人は自分にとどめを刺した弓使いの少女、そしてもう一人は目の前にいるトレイスだ。

 彼女たちがリートとどのような関係性かはヴィルフィの知る由もないが、世界を滅ぼそうとしている魔女の討伐に向かう仲間だ、それなりの信頼関係はあるのだろう。

 ヴィルフィがそう推測する中、トレイスは無表情から少しだけ困ったような表情へと変わっていた。


「真実がどうあれ、あなたはリートが魔災の元凶であると結論付けている」


「そうだな」


「……じゃあ、あなたはリートを殺そうとしているの?」


 トレイスの表情は、警戒か、寂しさか、どちらにせよ良くない感情が少しだけ入り混じっていた。彼女の表情をずっと観察してきたヴィルフィにこそ分かるものだが、彼女は無表情でありながら、心の奥底では揺さぶられるような感情を持っているのだ。ニヤニヤと笑みを浮かべているリスターの方がよっぽど、仮面を被っているようで得体が知れなかった。

 ヴィルフィは彼女の問いに対して、少しだけ考える。彼女はきっと自らと同じ、世界平和を願っている存在かもしれないという事を探っているのだ。


「殺しはしねえよ。アタシがぶっ殺してやりたいのは、女神だけだ」


 ヴィルフィは淡々とした口調でトレイスの推論を否定する。

 彼女の目的は魔災を消して世界平和をもたらすことではない。ゆえにリートを殺すというのも完全に間違っている。自分はただ、女神の首を狙っているだけだった。 


「あなたはどうして女神に執着しているの? 女神を殺したところで、魔災の根本的な解決にはならない」


 ただヴィルフィはトレイスの問いに対して、かなり困っていた。

 自分と女神の因縁を語るには、ヴィルフィとしての話ではなく、前世であるコトノとしての話をしなければいけない。

 彼女が前世で恋心を抱いていた同級生の男子リート――いいや、ネムを”意図的に”殺したのがあの女神だ。どんな理由があれ、理不尽の中で頑張って生きていこうとしていた彼の未来を奪ったのは、ヴィルフィにとって許せないことだった。

 だがトレイスの様子を見るに、リートはまだ自分の前世の事を彼女に話していない。こちらから必要以上に語るのは、リートの個人情報を漏らしているようで気持ちが悪かった。


「……アタシを世界の敵にした奴が気に食わねえってだけだよ」


 あくまで自らの敵が女神であることさえ伝われば良いと、ヴィルフィは最低限の事だけをトレイスに答える。

 そしてこれは別に嘘ではなかった。女神がヴィルフィのことを世界の敵にしたのは事実で、だからこそ彼女は世界から――少なくとも王国や教団から命を狙われている。それに女神の手のひらの上で踊らされていたという事実も、正直に言って彼女は気に入らない。


「それより一つ勘違いしているようだから言っておくけどよ、アタシは別に世界平和とか望んじゃいねえからな。気に入らねえ奴をぶん殴るだけだ」


 まるでチンピラのような発言に心の中で苦笑しつつ、ヴィルフィはトレイスに対してそう釘を差した。


「……それは分かった。あなたの目的と私たちの世界平和という目的が重なることを願ってる」


「だといいな」


 トレイスの口角が少しだけ上がったような気がした。ヴィルフィか、あるいはリスターにしか分からない程度だろうが、それでも彼女は微笑んでいるように見えたのだ。


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