表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/247

第9話「預言者と魔女」(6)


「厄災の魔女よ、どうしてここに来た!」


 先代預言者であり教団の管理者である男、ザペルは憎きヴィルフィの事を睨む。

 年齢は既に五〇歳を上回っているだろうか。この世界の平均寿命はヴィルフィの元々いた世界よりも低いため、まだ中年を過ぎた辺りほどの相貌だが、既に足腰を悪くして杖をついている。


「……お前が、先代の預言者だな? アンタの娘に少し用があってな」


「ティアルムに……? 貴様、まさか預言者を殺すことでこの国を転覆させようとしているのではあるまいな!?」


「あー、そういう物騒な話じゃねえんだけどさ。……まあいいや、アンタにも少し聞きたいことがあるんだった」


 ヴィルフィは床に倒れて困惑した表情を浮かべているティアルムに対し、逃げられないように警戒を忘れず、目線だけはザペルの方へと向けた。

 今のティアルムは決してヴィルフィに抵抗するだけの力は残っていない。もし仮に抵抗したとしても、ヴィルフィの創り出した火炎球によって即座の対処が可能だ。あちらが魔法攻撃を行うのであれば、詠唱が必要な分こちらが有利である。


「なあ元預言者サマよ。かつて女神に仕えていた龍の話は知ってるな?」


 ヴィルフィは先程ティアルムにしたティアマットの話を、再びザペルへと行った。

 彼が女神と一緒にいた龍の事を知っているのは、ティアルムから確認済みだ。知らないふりを貫き通すことは無駄だという事も織り込んで、ザペルに対して女神の龍ティアマットの話を続ける。

 ザペルも心当たりがあったのか、ヴィルフィの話を魔女の戯言だろうという表情ではなく、なぜそれを知っているという訝しげな表情へと変わった。


「そしてとある事情で女神と別れることになった龍は、この世界の地下に封印される事になった。その龍の名は、ティアマットだ」


 ヴィルフィが語り終える頃には、ザペルは既にその魔女と”話し合い”をするべきだと判断していた。

 この魔女は、女神やその龍に関する情報を握っている。即ち自分たちよりも世界のあり方を知っているということだ。

 ザペルは一つ息を大きく吐き出し、杖から少しだけ重心を離してヴィルフィの方を真っ直ぐ見つめる。


「聖龍ティアマット……女神様の天啓で聞いたことがある。だがお前はどこでそれを?」


「女神サマの天啓でアタシが生きてることくらいは知ってたんだろ? アタシは魔女の森で魔災による崩壊現象に巻き込まれた。その時に世界の底で出会ったのさ」


「なるほどな、お前の言葉は確かに私にも心当たりがある。……だがもう一つ聞こう、我々にその話をして、一体どうするつもりだ?」


 ザペルが訝しげにそう尋ねる。ヴィルフィにとってここからが本題だった。


「女神の天啓でアンタの娘が聞いたとおり、アタシが世界を滅ぼす魔災の原因である可能性はある。違うって言いたいところだけど、アタシはそれを否定するための根拠を持っていない。でもここでまた一つ、新たな証言を手に入れることができたんだよ。――聖龍ティアマットは、アタシを魔災の原因ではないと言っている」


「――な、なんだと!?」


「どちらが正しいか、アンタらの立場でどうこう言えないのはわかる。だからアタシはティアマットと、女神に直接会いてえんだ」


「女神様と直接会うだと? そんな事が本当に出来るのか!?」


「現にアンタが聞いた聖龍は、女神と直接やり取りをしていた。だが今のティアマットは力を封印されてるから、女神に会うことができねえ」


「そ、そんなことが……」


 ザペルは自らが明らかに動揺していることを感じていた。

 もちろんこの魔女が言っていることは嘘八百で、全て信じるに値しないとすれば、容赦なく教団兵を突きつけているところだ。彼女さえ殺してしまえば、この世界の平穏は取り戻されるはずなのだから。

 しかし彼女が言った聖龍ティアマット――それは彼女が実際に会っていなければ分からないはずの存在だった。なにせ神話にも記録されていない存在で、自分も女神の天啓により知っているだけなのだから。

 民衆に語り継がれておらず、歴史にも登場していない聖龍の名前を答えられるのは、この世界でただ一人、ザペルだけのはずだった。

 だからこそ、この魔女の証言には信憑性が生まれてしまうのだ。ザペル以外が知らないはずの情報を、厄災の魔女が知っていることで。

 ザペルはヴィルフィの方を睨む。彼女はティアルムこそ人質に取っているが、別にこちらへ敵対心を抱いている訳ではなかった。


「……聖龍ティアマットのことは、残念ながら私には”いた”という以上の事は分からない」


 ザペルは観念して、ヴィルフィに自身が何の情報を持っていない事を告げる。

 どちらにせよ自分が今するべきことは、愛娘まなむすめであるティアルムを救出することだ。彼女は魔女の生み出した魔法球で、いつでも攻撃される立ち位置にある。下手に刺激をしない方が良いだろう。


「女神サマのみぞ知る、ってやつか」


「ああ、そうだ。我々はあくまで預言者、女神様からの天啓を受ける存在だ。女神様のお告げ以上の事は知らない」


「……ま、それは本当だろうな。直接女神に聞いてみないと分からねえってことか」


 ヴィルフィは少し残念そうに、大きくため息を吐いた。

 結局得られた情報は、ティアマットの能力を取り戻すための方法は、教団側も知らないということだけだ。教団の本部に殴り込むという自殺行為をした割には、得られたものが少なすぎる。

 だがヴィルフィにはもう一つ、この教団本部に乗り込んだ理由があった。そしてそれは、目の前にいるザペルが握っているはずだ。


「じゃあ、もう一つ聞かせてくれ、元預言者サマ。これはアンタにしか聞けねえことだ」


「……なんだ?」


 ヴィルフィは魔女の森を抜け出して、猫の姿になったティアマットと見上げた星空を思い出す。


「――ガラリエ、って名前に聞き覚えはあるか?」


 その星空でヴィルフィの瞳に映った、我が最高の師匠の顔を浮かべたことを。


「……な、お前がどうしてその名前を!?」


「やっぱり聞き覚えがあるんだな。っていうか聞き覚えがなかったら、ここでぶっ殺している所だったぜ」


 ヴィルフィは少し怒りを孕んだような、そしてどこか安堵したような声色でそう告げる。

 ガラリエはヴィルフィが魔女の森へ家出する頃には、既にその森で住んでしばらく経っていた。

 しかしその前には、ガラリエは王都で住んでいたと彼女自身から聞いている。

 移り住むきっかけとなったのは、このザペルという男が発した、女神の天啓によるものだ。


「アンタは女神の天啓により、世界に仇なす者として魔女ガラリエを処罰しようとした。天啓がどんな内容か分かんねえけど、どうせアタシと似たようなモンだろ?」


「…………」


 ザペルは何も言葉を発しない。しかしそれはヴィルフィへの警戒心からによるものではなく、明らかに動揺からなるものだった。

 瞳を揺らすザペルは、ヴィルフィの沈黙に対して自分が言葉を発するべきだとようやく悟り、口をゆっくりと開いた。


「……お前は、一体何者なんだ?」


「アタシか? アタシは――」


 ヴィルフィはガラリエと過ごした日々を思い出す。

 彼女は家出したその頃一〇歳のヴィルフィに対して、手厚く魔法を指導してくれた。確かに無茶を言われた時もあるが、今となってはそれがあるからこそ、ヴィルフィは賢者に立ち向かうことができ、地の底から這い上がることができ、そして教団本部にまで乗り込む事ができたのだ。

 ヴィルフィは三角帽子を頭で押さえて、ガラリエの魔法を感じながら、ザペルの方を鋭い視線で見据えた。


「――魔女ガラリエの、一番弟子さ」


 ヴィルフィは口角を上げて、誇らしい最高の魔女の弟子であることを告げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ