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幕間「そして預言者は女神の天啓を受ける」


 王国都市にあるセネシス教本部、その神聖なる建物には、参拝用の礼拝堂がある。

 いつもは礼拝堂には大勢の信者で溢れかえっているが、その日はセネシス教の一般的な信者は誰一人としていなかった。

 礼拝堂の奥には天井まで届くほどのパイプオルガンがあり、その金と銀で装飾された楽器が礼拝堂の神聖な雰囲気を醸す一助となっている。

 そしてそのパイプオルガンの座席に座り、鍵盤を弾く女性が一人。ミルク色の長髪は、演奏に没入して動かされる体とともに、さらさらと旋律の波を奏でていた。


わたくしの声が聞こえますか、セネシス教の預言者よ』


 彼女の頭の中に、柔らかな声が聞こえる。

 女性はその声が大好きだった。彼女の声を聞くと、自らが浄化されているのを感じる。そして彼女の声は多くの人々には届かず、自分のように選ばれた人間にしか届かないことに、特別感を感じていた。

 その声は、一つの宗教だった。洗脳だと言われても、この声であれば洗脳されても構わない。むしろ従順な下僕しもべとして尽くしていこうとさえ思わせる。彼女の柔らかな話し方が好きすぎて、自分もこうありたいと、一人称をわたくしに変えて、声色も意識して柔らかくした。

 そしてその大好きな声が聞こえるということは、自分はたった今、天啓を授かるところなのだ。愛しい女神シゼリアードから、自分だけに授けられる、特別な言葉。


「……はい、女神様の声がはっきりと、聞こえております」


 パイプオルガンを弾く指は止めていなかったが、女神の声はどんな音色でさえも覆い隠すことは出来ない。

 女性が奏でる音色は、少しだけ落ち着いたものになる。彼女は別に何か楽譜を見ているわけではなく、記憶に従っているわけでもない。それは彼女が即興で奏でている、その場でしか紡げない女神に捧げる音楽だ。


『厄災の魔女ヴィルフィ、彼女は魔女の森で起こった魔災に巻き込まれました。しかし彼女は未だ生きています』


 オルガンの音色が少しずつ激しいものになる。豊満な胸が揺れ、透き通った長い髪がなびく。

 奏でられる音楽は彼女の女神に対する愛情と、自らに課された使命感に準じていた。


『このままであれば、魔災は世界全土に広がり、やがて世界の崩壊へと繋がるでしょう。彼女の暴挙を許してはなりません。――女神に従順な親愛なるセネシス教とスコラロス王国の人類よ、厄災の魔女を討ち、この世界に平和を取り戻すのです』


 音楽が最高潮を迎える。女性は頬を赤くして息も漏れ、恍惚として誰もいないはずの虚空を見つめていた。


「――承知いたしました、女神シゼリアード様。必ずやこのティアルムが、民に天啓を伝え、悪しき厄災の魔女を討ち取ってみせましょう」


 女性は誰もいない虚空に手を伸ばし、瞳を閉じて、誰もいない虚空に口づけをする。

 彼女の――セネシス教の預言者ティアルムの開かれた瞳は、女神に対する狂信で透き通っていた。



=== 第1章B「転生の魔女」 完 ===


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