第14話「龍の誇り」(6)
ロンダンシーは山を切り開き作られた集落で、整備された道はあるものの、その高低差は非常に大きかった。
“爺様”という存在がいる場所は集落の中でも少し高い位置にあり、流石に馬車でこれ以上進むのは難しい。そんなわけでダンレイが計らってくれた宿に馬車を置いて、ヴィルフィたちは集落の頂上にある館へと足を運んでいた。
ヴィルフィたちは余所者である以上、村人の龍血種から異様なものを見る目で見られてしまう。しかしダンレイの後ろを歩いていることもあり、村人が彼の姿を見ると何か事情を察して、何も言わない者が多かった。「ダンレイ兄様!」と笑みを浮かべて近付いてくる者もおり、彼がこの村でどれだけ慕われているかを、ヴィルフィたちは実感させられている。
「旅の御方、騒がしくてすまないな。この集落では客人が珍しいのだ」
先行するダンレイが後方のヴィルフィたちへ振り向く。彼は眉をひそめて申し訳無さそうに苦笑いをしていた。
ヴィルフィはそんな彼の様子に対して、にやりと笑みを浮かべる。
「別に気にしてねえよ、こっちとしては入れてくれただけで恩がある」
「そう言ってくれると助かる」
ダンレイの苦笑いを見て、ヴィルフィは彼の隣へと並ぶ。ダンレイよりも背の低いヴィルフィが彼を見上げ、ダンレイは彼女の様子を不思議そうに見つめる。
「……それよりもアンタ、”兄様”って呼ばれるけどよ、まさか全員が弟妹ってワケじゃねえよな?」
「ああ、そのことか」
ダンレイは一度ヴィルフィから目線を外し、高い位置にある”爺様”の屋敷を見やる。屋敷はまだ遠く、彼女ともう少し話す時間があった。
「ロンダンシーに住むものは皆、まるで血の繋がった家族のような絆がある。故にこの集落では皆が家族なのだ」
「だからアンタより年下の奴がアンタのことを、兄様って呼ぶのか」
「……厳密には少し違うな。兄様という呼称は、貴方方でいう立場の名称のようなものだ。……何と比喩すれば良いものか。国王ほど偉くはなし……外の世界をよく知らない私にはすぐ出てこないな」
悩んでいるダンレイに対して、ヴィルフィは彼の懐に差した刀を見て、その答えを思いついたように人差し指を立てる。
「あれか。”ダンレイ騎士団長”みてえなことか」
そうだそうだ、とダンレイは美麗な顔に笑みを作り、ヴィルフィの言葉に深く頷きを返した。
「私は”兄様”と呼ばれているが、更に上に”父様”或いは”母様”、更にその上に”爺様”或いは”婆様”がいらっしゃる。前者は村を束ねる指導者に、後者は村の象徴となる者に付けられる敬称だ」
「つまり族長みてえな、偉い人に付ける呼称なんだな」
「貴方方の感覚ではそれで違いない。だが先程も申したように、我々は家族のような絆を持って共同生活を送っている。ロンダンシーという集落自体がいわば一つの家のようなものだ。故に我々は”族長”という呼称は使わない。皆、同じ屋根の下で暮らす家族であるからな」
「その感覚はアタシには分からねえとこも多いけどよ、言ってることは分かった。そりゃあよく分からねえ不審者を”家”に入れたくねえわな」
「そういうことだ、ご納得いただけたのなら嬉しい限りだな。……さて、もうすぐ到着だ」
ダンレイが見つめる先には、平地と段差をまたぐような赤い柱の屋敷があった。屋敷の門の前にはまたしても一人の龍血種の男が立っている。ダンレイよりも年上に見えたが、近付いていくと彼はダンレイに向かって「ダンレイ兄様、ようこそおいでくださいました」と告げた。
(ホントにこの村では、”兄様”って呼称が上の立場の人間を差す言葉なんだな)
ヴィルフィがそう感動していると、アールが彼女の隣に立って、様々な所を見ながら目を輝かせていた。
「すごいですねヴィルフィ! 王都とは全然文化が違います!」
「もしアンタがここの生まれなら、”姉様”って呼ばれていたんだろうな」
「確かに! ……あ、でも私の方がヴィルフィより年上なので、全然アール姉様って呼んでくれて構わないんですよっ?」
手を合わせ目を輝かせているアールに対して、ヴィルフィは怪訝な表情で距離を取る。なんで~、と頬を膨らませているアールを横目に、ヴィルフィはいつの間にか近くにいたリスターへ目線を向けた。
「リスターは何か面白えモンとか見つけたか?」
「それはもう、トレイスへの土産話がもう多すぎて困ってしまうほどだよ。わたしだってバルへリア連邦共和国に来たことは数度あれど、この集落を訪れたのは初めてだからねえ」
緑色の少し濁った瞳で、真紅の屋敷を眺めるリスター。どうやら彼女は建築に興味があるようだった。
ヴィルフィもこのような東洋風の建築は、この世界に転生してからあまり見たことがない。少なくとも王都は西洋建築が主流で、ファンタジーといえば中世ヨーロッパのイメージが一つの代表的な世界だと、ヴィルフィもゲームを通じてなんとなくは知っていた。
もちろんそこまで建築物に興味があるわけではないヴィルフィは、ふーん、くらいの感動で収めておく。すると丁度話が終わったのか、ダンレイがヴィルフィの方へと近付いてきていた。
「旅の御方、爺様とお会いする約束を取ることができた。屋敷の二階にある”黄龍の間”へと向かおう」
「ああ、分かった」
ヴィルフィとダンレイの話が聞こえた一同は、ダンレイの先導で屋敷の中へと入っていった。




