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第14話「龍の誇り」(4)


 国境の町オルエンタを抜けて、魔女一行は近くの町に到着。ヴィルフィは町の宿で仲間たちの帰りを待っている。

 龍血種ドラゴノートたちが住むロンダンシーという集落を探すために、一行は近くの町で情報収集を行う必要があった。しかし隣国とはいえ、厄災の魔女ヴィルフィが直接聞きこみをするとリスクがある。ゆえに情報収集は仲間たちに任せて、自分は宿で引きこもり――もとい、黒猫の世話をしていた。

 魔女は最初こそ暇で仕方なかったが、宿に置いてあった書物を手に取り、このあたりの文化について情報収集を行っていくうちに、仲間たちが続々と帰ってくる。

 そして最後に戻ってきたリスターが合流すると、彼女たちは夜も更けてきた宿の一室で情報共有を行うことになった。


「まずロンダンシーの場所は、この町から北東に向かった先にある山脈にあるらしい」


 ヴィルフィが宿屋の雑誌で手に入れた情報を、仲間たちに共有する。

 隣国からの客も多いのか、宿に置かれていた書物はライアッドで広く知られている統一語で書かれている。そもそもスコラロス王国自体がライアッドの統一語を主に用いているため、ヴィルフィはとても簡単に読むことができた。


「ロンダンシーまでは何日ほどかかりそうだい?」


 取りまとめるようにヴィルフィへ質問をしたのは、眼鏡をかけた緑髪のリスターだった。


「そこまで遠くねえよ。馬車で行き道三日ってところか」


「ふむ。山脈まで向かうにしては、良心的な日数で助かるね」


 リスターはヴィルフィの言葉に頷きながら、満足げな笑みを浮かべる。しかし反面、アールはため息を吐いてがっくりと肩を落としていた。

 アールは当然ながら旅に慣れていない。そもそも国境を越えてここまで来るのに数日、オルエンタで宿を取ったとはいえ、数日間も馬車に揺られ続けるのは中々体力を奪い取られてしまっていた。街道の凹凸でお尻を痛くするか、歩いて脚を酷使するか、どちらにせよ元々温室育ちのアールには堪えるものだ。


「アール、きみが手に入れた情報は?」


 リスターはアールの表情を見てはいたが、これは今に始まったことではないため、ひとまず無視をする。

 流石のアールも隣国までは顔が知れ渡っていない。そもそも王国内でもアールの顔を直接見た者は、母数から考えると少ないだろう。王都にいれば預言者の座に着く挨拶なりで顔を見られるものだが、それ以外は基本的に教団へ女神の予言を伝えるだけの仕事だ。しかも伝える相手が教団を仕切っていた父親だけという事実も、彼女の他国における顔の狭さに直結していた。

 セネシス教は別にスコラロス王国だけのものではない。バルへリア連邦共和国は多様性の国で、セネシス教の支部もある。ただ支部の中でもアールの顔を見たことがある者は少ないのだ。

 だからこそアールは、この町で身を隠すことなく情報収集ができた。町の人々にロンダンシーについて聞きまわり、また脚を痛めている。


「ロンダンシーについて知っていた人は、そこまで多くありませんでした」


 アールは聞き込みで手に入れた情報を

 バルへリア連邦共和国で話されている言語は、スコラロス王国と同じく統一語だった。様々な種族がいる以上は、より一般的な語句を使わなければ意思の疎通さえ困難になる。多少の発音の違いはあれど、アールがこれまで話してきた言葉で全く問題なかった。


「というと?」


「ロンダンシーに住む龍血種ドラゴノートたちは非常に閉鎖的なコミュニティを作っているようです。だから町の方たちも、そこまでロンダンシーについて詳しく知っているものはおらず……」


 自分の聞き込み調査のほとんどが失敗している事を思い出し、アールはまたため息を吐く。


「なるほど。スコラロス王国で言うところの、ジュスカヴのようなものだと考えて良いかい?」


「似ているとは思います。交易もあるようで、この町で商売をしていた行商人の方が、たまに向かうと。山脈で取れる鉱山資源が有用だと聞きました」


「その商人から集落の様子は聞いたのかい?」


「いいえ。商人さんたちも、門前で商売を行うのみで、集落に入れてもらったことはないようです。外部の人間が近付くとなると、これが限界のようですね」


「閉鎖的、なるほどねえ」


 リスターはふむ、と唇に指を添えて考え込む。

 アールの情報によれば、行商人ですら入ることが難しい様子であり、それはすなわち自分たちが入るのも難しいということだ。ここまで来ておいて無駄に終わるのは、出来れば避けたいところである。

 もちろんクスウィズンの権力は他国に対してはたらくものではない。国境を越えた時点で既にリスターたちは、ただの旅人になっているのだ。

 入るための情報が必要である。だがしかし、そもそも集落に入ったことのある人物がいなければ、どう入れば良いかも分からない。アールの情報は有益だったが、逆に自分たちを苦しめる結果になっている。


「……集落に入ったことのある人物ならば、町で一人、龍血種ドラゴノートを見かけたぞ」


 困っていたリスターの思考に割って入るよう声をかけてきたのは、ハーデットだった。

 彼も厄災の魔女の関係者ではあるが、王都でグレンに見つかるまでずっと浮浪できた事を踏まえれば、顔が割れている人物ではない。彼にも調査を依頼していた。

 すっかり浮浪者としての雰囲気もなくなったハーデットに対して、リスターは眼鏡を光らせて彼を見つめる。


「詳しく聞かせてくれ。それは集落の住人なのかい?」


「半分は合ってる、って言いてえな。集落を何かしらの理由で追放されて、ひとまず流れ着いた先がここらしい。食料に困っているようだったから飯を奢ってやった」


(類は友を呼ぶ、ねえ……)


 ハーデットの行動に対して、ヴィルフィは少し失礼な事を考えてしまった。

 だが実際に村から迫害されて、挙句の果てに魔災によって追い出されたハーデットだからこそ、その龍血種ドラゴノートの話を聞くことができたのだろう。

 父親としてそのたくましさだけは見習おうと考え、ヴィルフィはリスターと共にハーデットの話の続きに耳を注意させる。


「集落の龍血種ドラゴノート同士は固い絆で結ばれていて、害するものには追放を言い渡すようだな。アイツもどうやら、龍血種ドラゴノートの閉鎖的な方針に逆らった挙げ句の追放らしい。酒を与えたから、文句ばっか言われたな……」


「なるほど、集落に入るにはその繋がりに入るほどの力が必要なのだろうね。単に閉鎖的というより、共同体意識が強すぎるがゆえ、と見える」


 リスターはハーデットの言葉を踏まえて、ヴィルフィとティアマット、アール、ハーデットを順に見回す。


「わたしはこの町の図書館を調べてきた。決して大きくない図書館だが、やはりスコラロス王国とは蔵書が少し違う。……とはいえこの町は国境も近いから、王国で見覚えのある本も多かったがね」


「どうだったんだ?」


 ヴィルフィがリスターに代わり、進行役を務めるように尋ねる。


「かつて龍血種ドラゴノートは、モンスターのドラゴンと暮らしていたという記述を見つけた。少し古い本だったから、今がどうかを保証するものではないが」


「けど昔に関わりがあったっつう話は大事だな。集落に入ることができりゃ、その話を伝えることが出来る」


 そうだねえ、とリスターはニヤニヤと笑みを浮かべながら、ヴィルフィの赤い瞳を見つめた。


「さて、これで情報は出尽くしたのだが。我々は今、非常に大きな問題に当たっていることが分かるね?」


「そもそも集落に入れねえ、ってことだろ?」


「こ名答。ロンダンシーは非常に共同体意識が強く、それ故に排他的だ。入る者を拒み、去る者は追わず。さて、どうやって彼らの信頼を勝ち取り、集落に入れば良いだろうか?」


 問題提起をするリスター。彼女は得意げな顔で話しているものの、実際には彼女自身にもどうすれば良いかが分かっていなかった。あくまで議論を行う事に意味を見出しているから、口角を上げているのだ。

 対して明らかに難しそうな表情を浮かべているのが、彼女の目の前にいるアールだった。


「今回の目的は龍血種ドラゴノートから聖龍の力を取り戻す情報を得ること、ですよね。少なくとも彼らに認められなければ、情報を集めることはできません」


「強行突破はムリってことだな」


 ヴィルフィの言葉に対して、ハーデットが反応する。


「そもそも俺は龍血種ドラゴノートの連中とあまり戦いたくないがな。俺が話した弱っているヤツでも、体格は俺の方が小さい。一人ならともかく、集落全員を敵に回すのはゴメンだな」


「ま、そうなるよな。……じゃあ平和的に交渉しよう、って話になるわけだが、そんなことできんのか?」


 ヴィルフィの疑問に対して、答えるものは誰もいなかった。宿の一室を沈黙が支配し、夜の町の喧騒が遠くから聞こえてくる。

 強制力を持っては情報収集ができない。しかし下手に出る真似をすれば、行商人と同じく門前払いをされてしまうのがオチだろう。


「猫の手も借りてえくらいだな」


 ヴィルフィは答えの出ない疑問に対して、がしがしと頭を掻きながら、そう口走る。


「……ふっ、よく気付いたな魔女よ」


 困っている一同に対して、声を上げる者が一人。いや一匹。

 低い声の黒猫ティアマットは、ベッドからテーブルに飛び乗り、一同の視線を集める。


「いや、アンタの手は確かに猫の手だけどよ」


「魔女よ、お前は何を言っているのだ? 先ほど言ったではないか、私の手を借りたいと」


「あ? ……ああ、そういうことか。別にそういう意図で言ったんじゃねえけど、何か秘策があんのか?」


 自信があるように胸を反らせるティアマットに対して、ヴィルフィは頬杖をつきながらそう尋ねる。

 彼がこのように言うことは、何か考えがあるのだろう。ヴィルフィだけでなく、その他一同がティアマットの次の言葉を期待していた。


「元々は私の源流を遡ることが一つの目標で、そのためにロンダンシーへと向かっているのだったな。……だったらもし私の事を知っている者がいれば、ティアマットの名前を出せば反応するはずだ。あくまで可能性の話だが、もし私が龍血種と何かしらの関わりがあり、ロンダンシーに縁の深い存在であるとするならば」


「既に共同体の一員であるティアマットと、その仲間たちは入れる……ってことか?」


 ティアマットの言葉に対して、ヴィルフィは差し込むようにそう告げる。ティアマットは目を閉じてゆっくりと頷いた。


「きみがロンダンシーと縁の深い者である証拠はあるのかい?」


 リスターはそう尋ねるが、ティアマットは首を横に振る。

 残念ながらティアマットの言っていることは、可能性の話でしかない。三日かけて向かい、結局なんの関係もなく門前払いされ、三日かけてこの町に戻るのは虚しいと、主にアールが感じていた。


「……だけどよ、必ず勝つっていう勝負は中々ないぜ」


 リスターの言葉に待ったをかけたのは、口角を上げてにやりとした表情のヴィルフィだった。それはクスウィズンの研究室でリスターも見た、挑戦的な笑みだ。

 彼女の言葉にリスターは、ふむ、と眼鏡を通じてヴィルフィを見つめる。こちらの論法に飲み込もうとしても、それを焼き尽くして脱出するような瞳だと思った。


「……分かった。ティアマットの存在を信じよう。それにもし縁もゆかりも無い場所なのであれば、そもそも我々の目的地ではない可能性もあるからね」


 リスターは呆れるように口角を上げて、黒猫を抱きかかえた。

 龍の息吹を求めて、目指すはロンダンシー。魔女一行の冒険はまだ序章にすら立っていない。


「……分かりました、わたしも頑張りますっ!」


 アールも足とお尻の痛みを決意に変えて、唇をぎゅっと結んだ。


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