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1わ

 賑やかな町の喧騒と、極彩色の香りが漂う。

 八百屋のおばちゃんは椅子に座ってスマホを眺めていて、八百屋のおっちゃんは腕組みをしながらじっと町ゆく人々の流れを見守っている。

 こ洒落た私服姿の若者と、スーツ姿のサラリーマンに、ランドセルを背負った子供たちが、錆びれた『ナナイロ商店街』と書かれたアーチ看板の下をくぐっていく。

 その商店街でニコニコとした笑顔を振りまきながら、スマートフォンのような端末に話しかける女子高生がひとり。もちもちとした白い頬に、腰まで届く黒いロングヘア―。人のよさそうな子リスのような瞳をキラキラと輝かせながら、うきうきと町を歩いていた。

「ラーメン、トンカツ、ハンバーグ~♪」

「はぁ、食べ物のことばっかり……」

「タルトにクッキー、フラペチーノ~♪」

「もう、食いしん坊なんだから」

「うんうん、今日もナナイロ商店街は輝いてるわね!」

 少女の声を受け、ふかふかの猫のようなケースをつけられた端末が、ひらひらと手を動かす。ヘンテコな形状をしていた。兎のような耳に、猫のような目、口の代わりに端末画面になっていて、手足はひょろりと長く、ぶらぶらと揺れている。

「変わり映えのしない日常に感謝をできるって、ゆずの才能だよね」

 やけに達観した、声変りを迎えていない少年のような声音だった。

「ん? うんっ!」

「難しいことは都合よく聞き流すその耳も、ね」

 にこにこと笑うゆず。嘆息する少年のような声。

 何気ない平和な一幕に、ふと影が差す。

「来たね。ギリギリ団の刺客が」

 黒い粒子が空のある一点に集まり、徐々に形を成していく。

 もりもりと全身の肉が隆起し、牙をむき、角を生やし、異形の化け物を形成していく。それは巨大な、牛人の影だった。

「ガケ……ガケブッチィ……!」

 うわ言のようにそう呟く黒い影は、肺を大きく膨らませて巨大な口を大きく開ける。すると、まるで大気を吸い込むように、人々の体から白い気力を奪っていく。

「ここと重なり合う別の世界『ガーデン・ピュア』からの刺客だ。精神体と置き換えてもいい。さぁ、ゆず。変身だ。彼らに対応するためには、彼らと同じ力を身にまとう必要があるよ」

「うん、わかってるよ、エンジェ」

「行くよ、ゆず」

 少女ゆずは端末を起動し、画面を指でなぞる。鎖と錠前がかけられた封が解かれ、スペルがあふれ出る。

 カッ、と眩い緑の光が迸り、ゆずの体を光の帯が包む。ゆずの体は制服をすり抜け、代わりに光の衣をまとう。アゲハ蝶のような羽根に、触覚、エルフのような緑と黄色のミニスカートを身にまとい、白い肢体が宙を舞う。

「無限の抱擁と温もりを! エアロ・ヴィア。ナナイロ商店街を、守りますっ!」

 ゆずは大きく飛び跳ねると、現実世界とガーデン・ピュアの境目の世界にしゃらんと入る。現実世界で歩く人はキラキラと白い人影になり、建物は銀色のオブジェのようになる。

「やれやれ……今回は、黒幕の尻尾を出してくれるといいんだが」

 地面に降りた端末、エンジェは、目の前の黒い巨人の奥に潜む、巨大な悪を見据えていた。

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