イケメン公爵様にプロポーズされましたが、公開婚約破棄する人なんてキモチワルイので全力でお断りします!
タイトル通りのお話です。
これも思いつきでわーっと書いたので、ゆるゆる設定です。
公開婚約破棄の場面でヒロインが正気を取り戻したら……というお話。
ヒロインのお口(?)が悪いのでご注意ください。
「ユエル、愛している! あんな女とではなく、私は君と添い遂げたい! 結婚してくれ!」
「いっ、嫌ぁぁぁぁあ! キモい! 無理! 絶対に嫌っ!!!!」
「なっ……! 何故だユエル!?」
前世の記憶を思い出して、ここが小説のワンシーンで子爵令嬢が公爵様にプロポーズされるという感動のラブロマンス展開ということを理解したわけなんだけど!
肝心の子爵令嬢がユエルだなんて、思い出したくなかったぁーーー!!!
「嫌だ……マジ無理……どんなに好条件でも、婚約者一人ちゃんと縁切り出来ないような人と結婚なんてしたくない……!」
エリック・ランフォード公爵というこの男は若くして公爵位を継ぎ、持ち前の美貌に加えて才気まで持ち合わせた、社交界の女性陣の視線を掻っ攫っていくような超優良物件……と名高いのだけど、唯一の汚点と言われているのが公爵位を継ぐ前に事業で傾いた財政を支援してくれたベリンガム侯爵家のご令嬢との婚約。
アルヴィナ・ベリンガムといえば、泣く子も黙る超生粋の悪役令嬢である。
婚約者であるエリックに流し目を送ったとあれば嫌がらせを行い、お茶会で婚約について陰口を叩かれれば報復し、実家の権力と自身の悪役令嬢スキルを遺憾なく発揮して悪名を轟かせている。
エリックにとって亡くなった父の結んだ婚約とはいえ、そんな悪女と将来結婚するなんて悪夢でしかなく。
苦々しい日々を過ごす間に見つけたユエル・マリソン子爵令嬢との恋を成就させるために邁進するというお話なのだけど……。
そんなエリックのことを私は――
超キんモいと思ってる!!!!!
評判の恋愛小説だから、読んだよ?
でもさぁ……私の好みと全っ然合わなくて!!!
婚約者であるアルヴィナが悪役令嬢になってしまうのは、元はと言えばエリックのせいなワケで!
悪女と噂の立ってしまったアルヴィナを更生させるために努力することもせず、パーティにおざなりにエスコートしては次々と新しい火種を作り出し!
(勝手に嘆いてるけど、火消しを当事者のお前がするのは当然だろ!)
婚約者がいるくせに、家格の合わない子爵令嬢に恋しちゃう時点で公爵失格だし!
(っていうか、公爵位継いだ時点で結婚しろ往生際が悪い)
極めつけに、大衆の面前で婚約者を非難して別の女と結婚するとか言い出しやがった……!!
ユエルとして生きた記憶も勿論持っているし、さっきまでは格下子爵家の人間がエリックに言い寄られてもお断りする権利すら無かったので流されるままでいたけれども。
普通に不義理な男と結婚するなんて嫌だったけど……権力持ってる公爵様に逆らえるわけないし、私が我慢すれば実家も救われるし、もっと悪い条件のところにどうせ嫁ぐならと思っていたところに前世の記憶が増えたら……もう、無理。
エリックマジキモい。
絶対に、嫌。
ってゆーかさ、自分だってユエルのこと遠くからの見た目で選んで近づいてきたくせに、『ユエルは優しいんだね』じゃねーんだよバカかよ!
せめて最初は『優しい』部分で惚れろよ!
『偶然の出会い』演出してんじゃねぇぞキモいわ!
それに優しくしたのはお前が公爵サマだからだよ!
憎まれ口叩けるのはそれこそ婚約者のアルヴィナくらいでしょうよ!
察しろよ、バカ野郎が!!!
なーにが『周りの連中は俺の爵位や功績、外見にしか興味がない』だよ。
中身がクソなんだから、十分評価されてるよ!
高望みしてんじゃねぇぞバカ野郎が!
大体さー、なんで王家主催のパーティでこんなアホな修羅場を演出してるんだよ!
後戻りできない環境で婚約破棄して強引になんとかしようとするな!
オシゴト出来る公爵サマってのは一体どちら様で???
私の拒絶の言葉にふらつきながら、エリックが首を振る。
「ゆ、ユエル……? 嘘だろう? あの日、一生共にと誓ったじゃないか……」
誓ってないーーーーー!!
アンタが勝手に『共に歩もう』とか言って悦に入ってただけですぅー!
「貴方みたいな自分勝手でキモい人と一生一緒なんてお断りです……! 勘弁して下さい……!」
もう私に出来るのは、この婚約破棄事件を無かったこと……には到底無理なので、せめてエリックと結婚させられないように泣き喚いてでも逃げることだ。
子爵令嬢が公爵に暴言なんて本来絶対に許されないけど、相手が常識外れな婚約破棄事件を勝手に起こしたんだから、全力で嫌がれば流石に結婚させられることは無いと思いたい……!
当事者じゃなくて被害者の立場にしてもらえないだろうか……!!
後は私にエリックを奪われた立場になっているアルヴィナへの謝罪だ。
泣いて土下座して足元に縋りついたら許してくれないかな……!?
アルヴィナは悪役令嬢だけど、エリック関連を除けばこちらも超ハイスペックなご令嬢である。
それに加えて実家の侯爵家はお金持ちで権力もあり、恋敵への嫌がらせくらいしか欠点が無い。
そんな人が敵になった状態では命がいくつあっても足りやしない。
死んでもエリックと結婚したくないけど、出来るなら死にたくなんてない!
子爵家も苦境に立たされるだろうけど、恨むならエリックと、肝心なシーンで前世の記憶を蘇らせた神様に文句を言ってくれ!
私には無理だ!
そろそろ命乞いを始めようとしたところで、アルヴィナがピシャリと声を上げる。
「お待ちなさい! 貴女がエリックと結婚してくれなかったら、私が婚約破棄させてもらえないじゃない!」
「ふぇ……?」
「お願いよユエル! 考え直してエリックと結婚して!! 私は婚約破棄を受け入れるから!!!」
やけにテンパった声で手を握って懇願されるけど、思考が追いつかない。
アルヴィナが私に、エリックと結婚してくれと懇願するなんて。
一体どういう状況なのこれ……?
「え……と、アルヴィナ様? エリック、……様? と恋人って言われてる私とのこと、認めちゃうんですか……!?」
「認める! 認めるからお願い! エリックと結婚して私を解放して!」
呆然と事実確認のために口を開くと、食い気味で肯定されてしまった。
いや、認められても困るーーーー!
私も解放されたいです!!!
「いっ、いやいやいやいや……! えええええエリック様とはアルヴィナ様がお似合いですって! ずっと婚約者だったわけですし! ね!? 私の聞き間違いですよね!?」
そうであってくれ頼む……!
「お似合いなわけないでしょう!? 私がどんなに婚約破棄したいって言っても、親もエリックも『婚約者を引き留めるための芝居』だと思い込んで聞き入れてくれないし! 『エリック様素敵~! はぁと』なご令嬢をけしかけようとしても、私が嫉妬で嫌味を言っていると勘違いされるし! 後はもう、貴女がエリックとくっついてくれることしか道は無いのよ……!!」
うわ、やっべー!!
悪役令嬢が追い詰められすぎている……!
こっちはこっちで大分ヤられている様子だ。
「そちらの事情もわかりましたが……私も退けないんです! 私だってエリック様は無理です……! どんなに素晴らしくてもこんな公開婚約破棄しちゃうような人はキモチワルイから嫌です勘弁してください……!」
私の必死の泣き落としに、アルヴィナはハタと動きを止める。
「ユエル、貴女……なかなか見どころがあるわね! 貴女をもってしてもそこまで嫌がるというのなら、私も鬼ではないのでこれ以上は言いません。……最終手段で国外逃亡予定なんだけど、このままじゃ貴女も大変そうだし、一緒に行かない? 話も合いそうだし、貴女一人くらいならなんとでもなってよ」
「かっ、神ィーーーーー!!!!」
ありがとうございます! どうぞよろしくお願いいたします!! と崇め始めたところで「ちょぉーーっとストーップ!!!」という王太子殿下の声が響く。
ヤバい、カオス過ぎてとうとう王族が出張ってきた……!
しかも王太子殿下といえばエリックと旧知の仲、向こうの肩を持つに決まってる。
「盛り上がっているところ失礼するが、一旦落ち着いてもらえるか? ……エリックのライフがもうゼロだ。これ以上のことは別室で冷静に話し合う必要があると思うが――」
「国外逃亡で話はまとまったので、結構です」
流石悪役令嬢……!
王太子殿下の話を途中でピシャリとぶった切る。
「は? いや……侯爵家の令嬢が国外逃亡って……あぁ! 先日決まった隣国への留学のことだね?」
「……ハイ」
アルヴィナが死んだ目でギチギチと肯定するが、表情で察する。
あっこれ違うやつだ……!!!
逃亡先は別の国らしい。
「そんな物騒な言い方をしなくても、アルヴィナ嬢とエリックの不仲は聞いていたし、先日アルヴィナ嬢が直接奏上したエリックとの婚約破棄について、王が許可なされた。なので君たちはもうお互い婚約者ではない。……こんな派手なパフォーマンスをする必要は無かったのに」
ナンダッテー!!!
「それが周知される前でしたし、今回のことはエリックが勝手にしでかしたことですわ。私とユエルは被害者です。お説教でしたら、私たちではなく、エリックに直接なさいませ」
舌打ちでもしそうな表情を浮かべ、アルヴィナが吐き捨てる。
侯爵家からもエリックからも婚約破棄を本気にしてもらえず、王に直接婚約破棄の許しを乞うという強硬手段に出たもののトチ狂ったエリックに先を越されてしまったのだ、しょっぱい顔にもなるというものだろう。
「僕はエリックから『婚約者のアルヴィナ嬢と恋人のユエル嬢が俺を奪い合って対立している』と聞かされていたので、こんなことが起きないよう君たちの婚約破棄の認可を急いだのだけど……この様子じゃあ、真相は違うということかい?」
王太子の言葉にアルヴィナは大きな溜息を吐くと、よく通る声でエリックの言い分を否定する。
「全く違いますわね。先ほどまでユエルと私はエリックを押し付けあっていたのですから。私は好きでもないエリックとの婚約を強要された上で婚約者としてないがしろにされ、『エリックが好きすぎて引き留めようとしている』という壮大な勘違いに振り回されて婚約破棄も許されない状態。ユエルも、この様子では勝手に言い寄ってきたエリックに困らされていた……というところでしょうか」
アルヴィナの背後に隠れながら、大きく何度も頷く。
あれだけ何度も『エリックキモい』と言い続けたのだ、王太子も納得したようだった。
既に魂の抜け殻のようになっているエリックに視線を移すと、『コイツこんなにイタい奴だったんだ……』という表情を浮かべる。
「――状況はわかった。僕もつい立ち話をしてしまったね。確かにそれなら、話し合いも難しいだろう。僕はエリックと侯爵を連れて今夜の後始末をさせる。……君たちはもう、疲れただろうから真っすぐ帰りなさい」
やれやれと額に手を当てて首を振る王太子殿下に暇を告げると、私とアルヴィナは連れ立って会場を後にした。
アルヴィナの用意は周到で、私たちはそのまま逃亡先の国へ向かったのだった――。
そして私たちは生涯の良き友となった。
数年後、アルヴィナは侯爵家と和解し、逃亡先の国の王子と結婚した。
私は前世チートで富を築き、迷惑をかけた子爵家の家族を丸ごと誘致して罪滅ぼしに精を出した。
そしてアルヴィナの結婚と同時期に、城に勤める騎士と結婚し――私たちは新天地で幸せに暮らしたのだった。
恵まれ過ぎたヒーローをこき下ろすだけのお話でした。
婚約破棄のターンでヒロインも悪役令嬢も正常だったら面白いなーと思ったのでこんな感じになりました。
仲良し友情エンドです。
(百合エンドも一瞬浮かんだけど、止めておきました←)
ルビ多すぎて読みにくかったらごめんなさい><
2022/01/19 誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます!
2022/02/12 (これ書くの超遅くなりましたが)王太子視点のアフターストーリー『友人のイケメン公爵が公開婚約破棄に失敗したら公開離婚で奥方からも逃げられたのだが、僕にはもうどうしようもできない』もありますので、そちらもよろしければ是非♪
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ここまでお読みいただきありがとうございました!