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悪役令嬢と道連れ転生  作者: ドクトルゴトー
0章 憑依と処刑
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説明③

『これについては詳しく説明した方が良いかも知れないわね。ハルにも関わりがあるかも知れないから。あなたが異世界人だと分かったときに、もしかしたらと言ったことを覚えていて?』


 確かに。覚えがあるような口ぶりではいたのだが、それは単に異世界の人間だということそれ自体を薄々感じていたのだと思っていた。しかし、どうやら違っていたらしい。つまりルナ様は異世界人と言う言葉に心当たりがあったのだろう。という事は、異世界人と言う存在は広く知られているのだろうか? この世界には良く訪れるとか? ならば僕がこの世界に来たことも納得出来なくはないのだが……。


『いいえ、違うわよ。貴方のようなおかしな存在が何人もいてたまるものですか。話を戻すわよ? 女神教がヒト至上主義なのは先ほど話した通り。ならば、彼らが目の敵にする存在も今までの話から分かるでしょう?』


 そりゃもう、魔王以外にはあり得ないでしょうな。


『ええ。けれど魔人の中でも魔王という存在は突出していて、ヒトでは到底敵わないと思われる。だから、魔王を滅するための存在を必要としたみたいなの。その存在は幾人か確認する事が出来たわ。察しているのでしょう? あなたが言うところの、お約束の存在よ』


『……勇者ですか?』


 僕の回答にルナ様は『ええ』と言って、続ける。


『この世界に勇者が複数、異なる時代に存在したと言う記録を確認しているの。例の如く不完全なものではあるけれど。歴代の彼らは異世界人だったみたいね。ただ、ハルの居た世界と同じ世界の人間であるのかまでは分からないわ』


 なるほどな。だから僕にも関係あるかも知れない話って事か。同じ世界出身かどうかね、詳しく記録が残っているようならば判断出来たのかも知れないが、不完全って話だし、僕の居た世界についてはルナ様に話した。それでも分からないと言う以上、手掛かりは少なかったのだろう。


『先ほど、魔王が出現したタイミングで戦争を起こすと言う話はしたでしょう?』


 ああ、これは読めたな。確かに魔王を倒すのは必要な事なのだろうが、勝算があって挑んでいるのか疑問だったのだ。しかし勇者と言う存在が居るのならば、話は別だ。つまり、勇者が居るタイミングで魔大陸を攻めると言う事なのだろう。


 僕の推測にルナ様は『間違っていないわ』と肯定を返した。だが、いくらか疑念も生じるのだ。先ずは勇者のタイミング。魔王が存在している時に勇者が現れるのは、都合が良過ぎる。


 勇者と言う存在は果たしてどこからやってくるのか? 先ほどルナ様は、『貴方のようなおかしな存在が何人もいてたまるものですか』と言った。つまり自然発生的に勇者が向こうの世界からこちらに転移してくると言うことは無いのだろう。ならば? 彼らは人為的に此方の世界へと連れて来られるのだろうか?


『冴えているわね、その通りよ。過去の勇者は女神の下で、王が主導して呼びだされているようだわ』


 発想としては考えられなくもないからな。了承はとれる筈もないから正確には拉致と言うべきだけど。


『……否定はできないわね』


 僕の言葉に申し訳なさそうに言うルナ様。同じ世界の奴らがやったこととして、悪いと思っているのだろうが、ルナ様がやった訳でもないのだから、気に病む必要はないだろうに。


『そう言ってくれるのは有難いのだけれどね』


 僕としては本当のことを言っただけなのだ。それはそうと、話を聞いていて二つ程大きな疑問が生じた。一つは勇者なんてものを呼び出するより、女神が攻めた方が早いのではと言う事。もう一つはわざわざ異世界の人間を呼ぶよりも、この世界のヒトを強くする方が遥かに効率が良いのではないかと言う疑念だ。


『先ず一つ目に関してね。私にとっても実に不思議な事ではあるのよ。けれど、アレは本当にそうしたいのであれば、恐らく自分の手で実行するような奴よ。そうでない以上、考えられる可能性としては二つ。一つは本気で魔人を攻める気が無いと言う事。もう一つはそうしたくても出来ないから、勇者と言う存在を使っていると言う可能性ね』


 確かに言われてみればその二つの可能性があるのか。個人的に厄介と思うのは前者だ。勇者を召喚して、魔人を攻めさせておきながら、実際の結果はどちらでも良いとなると、愉快犯に過ぎる。


『ええ、そうね。私もそれに関しては同意見。だから出来れば後者であって欲しいものよ』


 ルナ様は憂鬱そうに『次に移りましょう』と言って、僕のもう一つの疑問に対しての回答を始める。


『私も何故召喚するのか疑問には思っていたのよ。ハルの世界から呼び出した場合、そもそも魔術なんて存在していなうのだから、戦力になるなんて思えないでしょう? ならばこの世界に住んでいる者を鍛えた方がずっと効率的だもの。これもハルの世界から呼び出していると言う仮定での話ではあるけれど』


 そうだよなぁ。だから僕も疑念を抱いたのだから。それに例え僕の世界から呼び出すと言う訳でなく、魔力があるような世界から呼び出したとしても、この世界に馴染んでいる者達には敵わないと思うのだ。


『けれど、その呼び出されたヒトが勇者と呼ばれるほどの力を持っていたということは恐らく事実なのよ。とすると呼び出される過程で何らかの干渉が入ると考えられないかしら?』


 そう言う事か。その過程こそ勇者と言う存在を召喚するに当たって最も重要な部分なのだろう。方法は知らないが、呼び出された者を改造していると言うのが適切かもしれない。


『でしょうね。私もまたそのことには気が付いたの。そうして力を与える以上、何らかの代償も必要となるわ。当然でしょう? 何もない所から何かを生み出すことが出来るのなんて、それこそ神くらいのものよ』


 ルナ様の言葉は実に女神に対しての皮肉が利いていて面白いのだが、話している内容自体は結構えぐい。代償か。怖いところだ。どんな物が代償として必要とされるのかは分からないけど、勇者と呼ばれる者の力だ。それ相応の犠牲は必要になると思われる。


『ならば、その代償は何が相応しいと思うかしら?』


 何が相応しい、ね。今までの会話を思い返せば……魔力だろうか? 魔力を代償として勇者を召喚する。うん、おかしくはない考えだと思われる。とすると、その魔力をどこから持ってくるのかが問題となるだろう。穏便な解決方法をとるならば、大量に魔石を集めるとかかな? 穏便じゃない方法は……でも、言うて他に良い案が思い浮かばない。


 心の声を聞いていたらしきルナ様が、はあっと溜め息を吐いて『皆がハルのように、暢気な考えをしている者ならば、どれほど良かったことか……』と呟いた。これ褒められているのだろうか? それとも貶されてるのだろうか? 判別が付きづらい。


『一応褒めている方に入るのではないかしら。けれど召喚に必要なのはそれではないの。魔石の用途は多岐に渡っていて、何をするにしても必要となるから、もしかしたら代用は効くのかも知れないけれど』


 じゃあ何が適切だと言うのか? 魔力を持っているものね……今、一瞬嫌な考えがよぎったな。忘れよう。碌な想像じゃなかったもん。


 しかし、ルナ様から残酷にも『今想像したものが正解よ』との言葉が告げられる。つまり、人を生贄として勇者を召喚するらしい。最悪だな。


『ハルの言葉を借りると生贄には魔力を多く持った者の方がより相応しいとされていたみたいね。必然的にその対象は魔力保有量の多い貴族になるということ』


 対象広っ! マジか、平民とかだけじゃなくて貴族もなんか。いや平民なら生贄にしても良いと思ってるわけでは無いんだが、想像以上に生贄候補が多くてびっくりしたわ。


『でしょうね。ただこれは本当に勇者召喚を行うならば必要という話なの。召喚しないならば何も問題はなかったわ。ただ、残念ながら、勇者召喚を行うみたいなのよね。これが』


 また、どうして? と聞きたいところだが、ここはヒト国家でヒト至上主義を掲げる女神教が幅を利かせている場所。しからば、魔大陸に侵攻するためと相場は決まっている。しかし、ルナ様が告げたいのは恐らくそれじゃない。召喚に当たって、生贄となる貴族たちの方だ。彼らは召喚に反発しないのだろうか? 自分達が生贄になる可能性があると言うのに。


 彼女はそれに『ええ、反発は必至よ』と答える。しかし、である。女神に対して反発出来るのかと言えば、否だろう。では彼らの不満の向く矛先は? 決まっている、王だ。それを聞くなり、ルナ様は補足を始める。


『私は知り過ぎたのよ。勇者召喚が行われること、生贄の件、主導するのは女神だけでなく王もまたそうであること。これらの情報を持っていながら、野放しにしておけると思って?』


 まぁ、厳しい。どこでそんな情報仕入れたんやと聞きたいが、王太子の婚約者って肩書があるから多分どこででも調べられるだろうし。だが、そうなるとルナ様を捕えたい者は、王太子と女神と王って事か。詰んでいるな。だからこそ、こうして牢の中に入っているのだろうけど。


 でも女神の下で王が主導するんだから、貴族たちから反発があった場合女神が守ればどうにでもなるんじゃないんだろうか?


『アレはそんな優しい性格をしていないわ。間違いなく、放っておくでしょうね。王が必死で貴族をなだめるのを楽しんでいる姿が想像出来るわ。聖女を出現させたのだって私のあがいている様子を見たかったのだと思うわ。でなければ、ただ殺すだけで良いのだもの』


 女神は悪趣味すぎんか? 流石にルナ様の偏見だと思いたいところだが……。僕は実際に見たことがあるわけでは無いから確かなことは言えない。


『信じずとも結構よ、話だけではアレのことは理解出来ないと思うわ。知らない方が幸せとも思うけれど』


 まあ僕にそんな機会があるとは思えないので、放置で良いや。


『じゃあ、ルナ様が捕まっている理由を簡潔にまとめると、聖女に嫌がらせをしたことを表向きの理由に、女神を嗅ぎ回ったことと、召喚を進める王が生贄の件を口止めするためにってことで良いんでしょうか?』


『その認識で間違いないわね』


 くあー、長かった。


『お疲れ様、後は軽い説明だけで終わりそうね』


 まだあるんかい。あ、でも僕にもまだ聞きたいことが残ってた。


『なんで女神の事殺そうと思ったんですか?』


 気に食わないという事は分かっている。けど、それだけで絶対的とも言って良い存在と対立するほど愚かとは思わない。こうして現状を分析出来ている以上は、女神のことを調べる過程でもそのリスクくらいは把握していた筈だ。なのに彼女は女神に歯向かうことを選択した。その理由を知りたいと思うのは当然だろう。


『……友人が巫女だったのよ』


『そっか』


 アレが降りた巫女は壊れる、そう言っていたからな。女神と言う存在を気に食わないのは当たり前なのだろう。この話は聞かない方が良かったのかもな。


『気を遣ってくれてありがとう』


 いえいえ。


『その内話すわ』


 話してくれるって言うなら聞くんだが、その内っていつになるのだろうな。それともう一つ聞きたいことがあったんだった。


『王にとって召喚を主導するメリットって何ですか? 女神に命令されてなら分かるんですけど、そうじゃない場合、周りの貴族たちの反発の可能性があるのにそうしている理由が分からなくて』


『今代の王は実に自己中心的で自らに権力を集中させること、つまり王権の強化に努めているわ。召喚を行うことで強い貴族家を生贄にして力を削ぎつつ、勇者によって魔大陸を攻めることができる。そんな一石二鳥を狙っているのではないかしらね。万が一生贄という代償が必要だと貴族たちにばれてしまっても、魔人を攻めるためという建前が免罪符になり得ると考えたのでしょう』


 なるほどなあ。しかしそんなことをすれば、大陸内での自国の守りは酷く手薄になりそうなものだが。力を持った貴族が居なくなるという事は、魔獣や敵国が攻めて来た時に守るための存在がいないということでもある筈だ。


『女神の名の下に勇者召喚をして、勇者を伴って戦争へと向かうの。そんなところをダスクの他の国々が攻められると思って? そんなのは無理なの。だから仮に攻めるとしても、魔大陸への侵攻が完全に終わった後に弱ったところを叩くことになるのでしょうね』


 その後の情勢次第になるって事だろう。


『ところで私の話はまだ終わっていないわ。見ての通り、私は捕らえられているのだけれど……いつになったら外へ出られると思うかしら?』


 急に話題が変わったと思ったら、とてもやばい雰囲気だ……。女神と対立したなんて話からすぐに察するべきだったんだろうが、思い至らなかった自分が恨めしい。しかし! このままルナ様についていてはいけない!


『そんなことよりも僕ルナ様の体から出ていきたいんですがどうしたらよいのでしょうか?』


『ふふっ、あなた逃げられると思って?』


 怖い。


『あの、逃げたいんですが? ルナ様処刑されるんでしょ?』


『ええ、その通り。ついでに私は生贄となるでしょうね。死ぬ時はあなたも一緒ではないかしらと思ったのよ。ね、軽い説明だったでしょう?』


 それのどこが軽い説明なんだよ! 文字数こそ少ないが重すぎると言って良いくらいの話題だわ! あれ? この状態でルナ様が死んだら僕はどうなるんだろう?


『あなたも消えるのではなくって?』


『でも僕は前の体が死んだんですが、それでもこの状態でルナ様にくっついてますよ?』


『今回が特例という可能性を否定できる?死んで他人に憑けるなら、今頃は私達のような状態の人たちが山ほどいる筈よ。いない時点でお察し。でもあなた自身が特別である可能性は否定できないわね。だから私と試してみましょう。一緒に死んで、あなたがそんな状態でも生き残るかどうかを』


 それ試したらいけないことでしょ? 死んでみて、死なないかどうかを試すって言葉としておかしいんだから。


『一緒に死んでくれる人がいるなんて嬉しい限り、歓迎するわ』


 ファンタジー? 恋愛? いいえ、ホラーです。


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