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悪役令嬢と道連れ転生  作者: ドクトルゴトー
1章 魔人転生編
17/45

神殿へ

 改めてお互いの名を呼び合い挨拶をしたところで、現状把握を再開する。


 現状知りたいのは―――。


『ここはルナが元いた世界と同じ世界だと思う? 両親にも僕たちの額にもツノがあるでしょ? 僕たちはヒトじゃないってことだよね? と言うことは魔人ってこと?』


 結構な数の質問をぶつけてしまっているが、そのくらい知りたくもある問題だ。


『私も同じなのよ。転生について記された本なんて見たことも聞いたこともなかったから、確かな事は何も言えないわ』


 やっぱりライラにも分からないのか……。


『判断するにはまだ早いわよ、最後まで聞きなさい。確かな事は分からないけれど、話している言語は一緒なの』


 なるほど。そう言えばどこに行こうとも言葉は一緒って言ってたな。流石に言葉が一緒となると違う世界とは考えづらい。


『ええ、だから同じ世界だと考えて良いとは思うの。けれど、今がいつなのか。そしてここがどこなのか、そう言ったことは全く分からないわね。ダスクではないことだけは確かでしょう。何せ私たちの両親は魔人なのだから。一番可能性が高いのは魔大陸だと思うのだけれど……』


 確かな事は分からないと言いつつ、現状をそこそこ把握していると言うのだから脱帽するしかない。これで転生当初は混乱していたってんだから。


 そんな折、扉がノックされる。こんなに上品な音が鳴らせるのかと感心してしまうほど。


「旦那様、奥様、セバスティアンです。神殿の準備が出来たとのことです」


『セバスチャン! 間違いなく執事だな!』


 先ほどまでのライラとの会話もどこかへ行ってしまい、セバスチャンと言う名前の方に意識が持っていかれる。本物のセバスチャンをこの目で拝めるらしいからな、仕方ない。


『セバスティアンって言っているでしょう? なんでもお約束に当てはめるのはおやめなさい』


 了解。


 それにしても、パパは旦那様と呼ばれてた。そんな風に呼ばれるくらいだから、両親は貴族もしくは金持ちと言ったところだろうか?


『どっちもあり得るわね。とりあえず話を聞いてみましょう』


「セバスか。入ってくれ」


「失礼いたします」


 その言葉と共に部屋の中へと入って来たのは、所謂執事服を来た高身長の男。濃紺の髪と瞳、執事服の上からでもしなやかな筋肉がついていると分かる。髪はオールバック、少し白髪が混じっているが、それがよりこの男の魅力を引き立てているように思われる。イケイケ感の無いイケてるオジサマだ。こいつはもてる。


『オジサマだけど。それが良いって子もいるでしょうな』


 知らんけど。


『知らんのかい。ああ言った渋い雰囲気が好みって言うのも分からないでは無いかしら……。けれど私の趣味ではないわね』


 セバスティアンには残念なことだが、ライラの趣味ではなかったらしい。


『でもやっぱり執事だったでしょ?』


 お約束だって、時には馬鹿にならないものなのだ。


『はいはい』


 イケオジと言う見た目も確かに気にはなっている。だが、それ以上に僕の目を引いているのは、彼の背中についている翼だ。何の鳥に似ているかまでは、詳しくないので分からないが、取りあえず鳥の羽が付いている事だけは確かだ。コスプレではないだろう。なんせ動いているのだから。


『多分魔人の一種なのだと思うけれど……』


 ライラはそう言っているのだが、僕としてはそんなことよりも触ってみたいという気持ちの方が強い。


『やめなさい』


 僕らがそんな話をしていることなんて、パパ達が知る筈もない。僕らの体をセバスの方に向かせてから、


「ライラ、ディア紹介するよ。うちの筆頭執事のセバスティアンだ」


と紹介してくれた。セバスはそれに合わせてほぼ直角にお辞儀をしている。赤子にこんな挨拶しなきゃいけないんだから、執事って言うのも大変な職業だ。


 一度顔を上げると僕らの方を見てから彼自身でも名乗ってくれる。


「ご紹介に与りました。セバスティアンと申します。筆頭執事という役目を預からせて頂いておりますので、今後も何かとお会いする機会も多いとは存じますが、私の顔を覚えていただけると幸いにございます」


 硬い。まぁ、執事である以上こう言うのが普通って事は分かっているんだけどな。一応返事もしておくか。


「「あー!」」


 ライラと一緒にしてくれた。第一印象は大事だからな。これからお世話になると分かっている人に対してはきちんと返事しておく必要がある。


「これは返事をなされたので?」


「そうだと思うぞ? うちの子たちは頭が良いみたいだ」


「左様ですな」


 中身は両方とも十代半ばだからな。見た目通りの年齢ではない。そう考えると騙しているようで申し訳なくもなってくる。


『しょうがないでしょう? まさか喋るわけにもいかないのだし』


 そりゃそうだ。赤ちゃんがいきなり喋り出したらびっくりするよ。軽いホラーだ。


「この子たちの紹介は不要だろう?」


 パパがセバスにそう話しかけている。確かに僕らだけがセバスを紹介されたのだが、セバスには僕らの紹介をしてなかったな。


「ええ、旦那様が仕事中にもずっと話されておりましたからな。分からない筈がございません。旦那様が抱かれてらっしゃる方がディア様、奥様がお抱きになられている方がライラ様でございましょう?」


「ああ、その通りだ」


 パパはセバスが分かっているようで満面の笑顔になってるんだが、多分セバスの方は窘める気で言ったんだと思うなあ。ちゃんと仕事しろって。


「それでセバス、神殿の準備が出来たと言ったな? 二人も連れていかなくてはならないのだろうか?」


「ええ、勿論です。お生まれになられたことを、神様に報告しなくてはなりませんからな。旦那様たちだけでなく、御子様方も一緒に行かれるのは当然と言えましょう」


 ふむ、確かに準備とは言っていたのだが、どうも要領を得ない。僕らは両親と一緒に神殿へ連れていかれるらしいが、一体何しに?


『分からないわね。恐らくは魔人の慣習の一つなのでしょうけれど、その類の情報は全く手に入れられなかったから』


 ヒト至上国家に居た弊害ですな。


「生まれたばかりの子どもたちを揺れる馬車に乗せたくないのだが……仕方のないことか。私が抱えて歩いて行っても、結局揺れるのは同じだろうし」


「旦那様……。御子様方を大切にしたいという思いは十分に理解出来るのですが、流石に行かないわけにもいきますまい。お礼もしなければなりますまい?」


「分かっている」


 どうやら話はパパが折れる形で決着したらしい。だが話している内容の中には理解出来なかったものも多い。


『私も同じよ。生まれたことを神に報告するために、これから私たちは神殿に行くのだと分かっていれば良いでしょう』


 お宮参りみたいなものなのかな? 僕たちにとって幸いなことと言えるのは、その相手が恐らくはアレではないことだ。


『魔人である両親が女神教のアレのところへ行くとは思えないものね』


 僕らが会話していたところで、話がついたらしきパパが


「ディア、ライラ、これから神様へ挨拶しに行くからなー」


と僕らに伝えてくる。


「「あー」」


 それに対して、例のごとく二人で返事をすると、「良い子ね(だ)」とライラはママに、僕はパパから撫でられる。どっちかと言えばママから撫でられる方が良いのだが、ここは我慢しておこう。


 そんなこんなでパパたちは僕を抱えたまま、部屋を出て歩き始めた。だが、部屋を出るなり、直ぐに気が付いたことがある。


『ライラ、このお家広くない? ルナと一緒の時には牢屋と広場しか見れてないからさ、一般的なお金持ちだったり、貴族だったりのお屋敷がどれくらいの広さなのか分かっていないんだよね。これくらいが平均なの?』


『そんなわけないことを分かって言っているのは知っているのよ? 魔大陸の方が人口が少ないから、その分土地が余っているという可能性は否定出来ないけれど、この広さは流石に異常ね』


 どうやらパパとママの立場を再確認する必要が出て来たらしい。貴族かな、とも金持ちかなとも思っていたのだが……。もういっそ考えるのをやめることにしようか? いずれ知ることになるのだから、今から無理して考える必要もない気がしてきた。


『それでは遅い時があるのだから、何とも言えないけれどね』


 ライラの言う事なんて無視ですわ。わいは赤ちゃんらしく振舞うことに決めた。


 そうして僕たちは屋敷を出た。


『現実逃避をしないで頂戴、見えているのでしょう?』


 ……屋敷を出た。


『ちがうわ、正しく言い直してあげる。私達はね、城を出たの』


 あああ、ライラが言ってしまった。全く厄介事の匂いしか感じない。嫌な予感はしていたのだ。あれだけ屋敷が広かったから、絶対普通の家庭じゃないとは薄々感づいていた。だからこそ、思考を放棄したのに、結局目の前の光景に僕の努力は嘲笑われてしまう。


『魔大陸と思しき場所、それから城……』


 ライラの方はと言うと既に情報の整理に取り掛かっているらしい。


「ほーら、ディア。今からあの馬車に乗るからなー」


 パパは僕が悲嘆していることなど、夢にも思ってはいないので、こうして暢気に話しかけてくる。でも逆に救いとなっている気がする。


『見事な魔導馬車ね』


 ん? 見ると車輪のところに魔石が埋め込まれている。これを動力にして動くようだ。勿論、馬車であるから馬の力をメインとして魔力で補助していると言ったところだろうか?


『それだけじゃないわ、振動を抑えられる作りになっているの。これ、多分特注でかなりの値段するのじゃないかしら?』


 パパは揺れるとは言っていたのだが、ライラ曰くどうやら結構良い馬車らしい。僕ら可愛さにちょっとの揺れでも許せないのだろう。


「では、お帰りをお待ちしております」


「ああ、そこまで時間はかからないだろうが、留守の間は頼む」


「かしこまりました」


 セバスはパパの言葉を受けて一礼している。今のやり取りを見るにどうやらついてこないらしい。そうして他の使用人たちにも見送られながら馬車に乗った。あとは揺られているだけだ。さっきも言ったが、もう思考は放棄しよう。今はなにも考えない方が良い。何故ならどうせ後に待ち構えているのは、絶対に逃げられない現実なのだから。


『あなたね……』


 ライラに呆れられながらも、パパに抱かれてしばしの思考放棄に入った。



◇◇◇

「ディア、着いたよ。神殿だ」


 パパにそう話しかけられたことで目を覚ました。どうやら知らない間に眠っていたらしい。


 目の前にある建物は確かに神殿と呼ぶに相応しいものだ。世界各国の有名な神殿を想起しても、負けないくらいのもの。まぁ、様式なんかは欠片も分からないので、あくまで素人の感想ではあるんだけど。


『おはよう、本当に思考を停止して寝たのだからびっくりしたわ』


 ライラからそう話しかけられる。言われた通り、いつの間にか眠ってたのだ。これには自分でさえもびっくりするくらいに。


『何時間くらい眠ってたの?』


 神殿までどのくらいの距離なのか分からないので、いつのまにか数時間経ってましたなんてことも考えられる。


『十分ないくらいね』


 思ったよりも睡眠時間は短かった。途中でパパに起こしてもらわなかったなら、もっと眠っていたかも知れない。


 それにしても、神殿につくのは早かったな。もう少し時間がかかるものと思っていたんだけど。


『城壁を確認していないけれど、ここも恐らくは城郭都市なのでしょう。都市の中にあるのなら、どこへ行くにしても馬車を使えばそんなに時間はかからないわよ。それに、あの城がここの中心なのでしょうから、神殿がそこの近くにあることは予想出来るでしょう?』


『ああ、なるほど』


 あの城が中心であることは、誰が見たって分かるからな。神殿もあの近くに建てると言うのは理解出来なくもない。偏見だが、金も持っていそうだし。


 それはそうと、自分の睡眠に入るスピードが何とも早すぎる気がする。いつの間にか眠ってしまっていたのだが? こんな事今まで無かったよ。


『恐らくは、赤ちゃんになったことで睡眠時間が増えたのでしょうね』


 納得した。


 馬車を降りると、神官と思しき人物がこちらに近寄って、話しかけてくる。どうやら挨拶して案内してくれるらしい。セバスが準備が出来たと言ってたことを考えると、僕らを待っていたのだろう。


「ようこそいらっしゃいました、魔王陛下。本日は御子様方の生誕の報告と伺っております。こちらの準備は出来ておりますのでご案内致しましょう」


 神官は僕らに対して深々とお辞儀をした後にそう言った。


 パパは「ああ、ありがとう」と礼を言って、彼について行くことになったのだが……問題は全く別のことにある。寝起きの状態で心の準備が出来ていないままに、最悪な現実を突きつけられてしまったのだ。


『やはり、お父様は魔王だったのね……。部屋を出て、建物が異様な広さをしていると分かった時から薄々そうではないかと思ってはいたの。建物の外観を見てからは、ほぼ確信していて、今回で確定したという訳ね』


 折角、現実逃避をしていたと言うのにライラが止めを刺してきた。いや、まあ元々刺されてはいたのだが、僕はどえらい家庭に転生してしまったらしい。


『魔王が出現していたのね』


 そう言えばその話は聞いていなかった。


『今がいつなのか、まだ分かっていないから、私たちが死んだときと近い時代とは限らないけれど』


 もう話がごっちゃになって頭の整理が追いついてない。


 確かに、パパが魔王と言うことは分かったのだが、肝心の魔王と言う存在についても、僕はあまり情報を持っていない。せいぜいが強いと言うことくらいだろうか? 後は勇者たちを退けていると言うことくらい。


『ライラもこれ以上のことは知らないんだよね?』


『ええ、私が魔王の情報を必要としていなかったというのも理由の一つなのでしょうけれど、それでもあまり手に入れられる情報では無かったわ』


 ヒト側に簡単に入手させるわけには行かないだろうし。


『だから、魔人はできるだけ情報を掴ませないようにしているって事かな?』


『だと思うけれど?』


 普通に考えればそれしかないよね。漏れたら戦争では不利になるし。


『じゃあ、仮に今が僕たちが死んだときと比較的近い時代だったとして、リスの国王とアレは魔王が出現したことを知っていたと思う?』


 なんせ勇者を召喚しようとしていたくらいなのだから。


『知っていたからこそ、召喚に臨んでいた。そう言いたいのでしょう?』


『うん』


『そう考えるのが一番妥当とは言えるのでしょうね。けれど真実は本人たちにしか分からないわよ。聞いてもまともに答えてくれるとも思えないのだし』


 国王の方は機嫌が良ければ、ワンチャンありそうだけど。それはそうとして……。


『僕たちが生まれた情報は伝わると思う?』


 仮にヒト国家に伝わった場合には僕らの身は危険に晒されることは間違いないだろう。


 魔王の子どもなんて狙うには格好の的だからだ。何なら本人よりもこちらを狙った方がコストパフォーマンス的には良いかも知れない。弱い上に魔王の弱点にもなるのだから。さらに言えば、パパは僕らを溺愛している様子を鑑みれば、余計に。


『何とも言えないわね。私は魔大陸の情報を見る機会は無かったの。だから諜報に関して知っている事は少ないわ。情報をどんな風に仕入れているのかなんて分かるはずないわよ』


 そうだよな。無茶言ってるのは自覚していた。


 だけど何とも大変な人生になりそうだ。僕は平穏に生きたいのに。


『アレにバレようとそうでなかろうと、魔王の子どもと言う時点で平穏に生きるのは諦めた方が良いわね。今回も退屈しない人生になりそう。生まれた場所とそして家庭が前回よりも遥かにまともなのが、せめてもの救いだわ』


 全面的に同意である。


 僕とライラが話し合っているうちに大きな広間についた。中央の一番奥には神の像らしきものが設置されている。ルナの記憶にある女神像とは違うようだ。……当たり前か。


「私どもが儀式を致しますので、その間はここにお掛けいただけますでしょうか?」


 神官の一人がそうパパ達に告げる。どうやら今から儀式を始めるらしい。どんなもんなのかと気になりつつも、長くなったら面倒だなとも思う。なんせパパ達は依然として抱っこしたままだ。これずっと抱いてるよね? 疲れないのかな……。


『恐らく、魔術を使っているわ。疲れないと言うよりも肉体を強化していると言った印象ね』


 そう言うことなのか。まぁ、それでも負担は掛かっているだろうけど。


 儀式が開始された。僕には神官が口にしている言葉それ自体は理解することが出来るのだが、内容は断片的にしか把握できていない。それと言うのも、やったら難しい言い回しをしているからだ。


 まぁ、僕の不満は置いといて、内容はと言えば、最初に神様への挨拶。それから僕らが無事に生まれたことへの感謝と、今後の成長を願うと言う類の文言を神様に奏上しているらしい。ごくごく真っ当な感じと言って良いだろう。


 そこまで終わらせて、どうやら僕らにお呼びがかかったらしい。


「では魔王陛下、王妃殿下。御子様方は抱えたままで構いませんから、神様の前に来ていただけますか?」


 儀式を行っていた神官がそう尋ねてきた。パパとママは言われた通り、僕とライラを抱えて、神の像の前へと近づいて行く。


 そこから何をするのかと思っていたが、挨拶するだけで言いようだ。


「此度は我が子が無事に生まれてきたこと、そして妻ネフェルタリも無事に出産を終えたことをご報告しに、そして私たち家族をを見守って下さったことを御礼申し上げに参りました。これからも何卒、子どもたちが無事に成長していくことをお見守り下されば幸いにございます」


 パパがそう言ったところで、神の像がまばゆい光りを放ち始め、その光に僕とライラは包まれた。

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