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悪役令嬢と道連れ転生  作者: ドクトルゴトー
1章 魔人転生編
16/45

転生

 うっすらと意識がゆっくり覚醒していく。全身は重く、思うように力が入らない。


 そういえば前もこんなことを言っていた気がするな。最後の記憶は……首を切られた時のものか。自分の体ではなかったけれど、最後の方は少々ではあったもののルナと感覚を共有していたから、詳しくは思い出さない方が賢明だろう。死んだときの感覚など思い出すことが健全とは思えないもん。


 あれから、ルナと僕はどうなったのだろうか?


 そうして、先ずは目を開こうと試みた。ふむ、意思のままに目を開くことが出来る。どうやらこの時点でルナに取り憑いた時とは大分違うことが分かる。今回こそは転生だろう。こんな出来事に慣れるというのもおかしな話ではあるのだが、実際に起きている以上はもう受け入れるしかない。


 視界に入ったのは綺麗な女性。白銀の髪に赤い瞳、だが何より特徴的なのは二本のツノ。地球ではこんな人見たこともない。何と言うかイメージ的にはオニだ。そうは言ってもあのいかつい感じでは無くて、頭の額上部から二本、オニっぽいツノがあると言うだけのこと。だからツノさえ無ければ普通の人間に見える。


 だが彼女を見るに、どうやら三度目の人生も二度目と同じくファンタジー世界らしい。ルナに憑いていた時にはヒト世界の話しか聞いていないので、同じ世界であるかどうかは不明だ。同じだと仮定すれば、彼女はおそらく魔人と言うことになるのだろうが、異なる世界という可能性も捨てきれない。……どうなのだろう?


 僕が起きたことには彼女も直ぐに気が付いたらしい、僕に目を合わせ、


「あら、起こしちゃった? ごめんなさい、あまりにも気持ちよさそうに寝ていたから、お母さん、可愛くってついじっと見ていたのよ。いい子だから、もうちょっとねんねしましょうね?」


 そういって僕を抱き上げて、あやしてくれる。


 どうやらこの人が今生の僕の母親と言うことらしい。体の感覚や抱き上げられている現状を鑑みるとやはり赤ちゃんになってたようだ。転生という時点でこんなことはお約束であるから、驚くことは無いだろう。むしろ死んだ後に、何故かルナに憑いたあの時が異常だったからな、転生と言えばこちらがデフォだろう。


 しかし、彼女が母親と言うことは、その子どもである僕にもツノが生えているのかも知れない。自分の額にも何かがあるような感覚くらいはあるのだが、こればかりは実際に見てみないと分からないだろうな。


 例えヒトを辞めてたとしても、大して思うところはない。むしろ、心機一転という気もしてくるのでテンションは上がっているくらいである。わははははは!


 それにしても母に抱きかかえられるというのは、随分と安心をもたらすものであるらしい。こう感じるのは僕が赤ちゃんであるからこそなのか、成長した後であっても同様に感じるのかは分からない。


 なんせ元の世界ではこんな経験なかったのだから。赤ちゃんの時には、同じようにされていたのかも知れないが、覚えている筈もないし、大きくなってからは言わずもがなである。だから、今はとても不思議な気分である。


 だが精神年齢的には十代後半に差し掛かった辺りと、もう大人と言っても過言ではない僕が母親に抱きかかえられて喜ぶと言うのは些か変だ。人というのは結局、母に回帰してしまう生き物なのだろうか? ……何かおかしなこと言い出してる気がする。


 話を変えることにしよう。改めてみると、この母の見た目は凄く若く見える。下手をすると元の僕と同年代かもしれないと思うくらいには。だって高校生くらいだよ? 子どもを産むにしては若い気がしなくもないのだが……。ヒトとは異なる種なので、何があってもおかしくはないな。


 僕の困惑に構いもせず、母親は僕を再度眠りに誘おうとしてくる。


「よしよし、なかなか寝つけないのね? 揺らしたら眠くなるかしら? ゆーら、ゆーら」


 そうして左右にゆっくりと揺らされる。実に心地が良い、彼女の腕の中にすっぽりと納まり、ふわふわだ。今までの考えていた疑問すらどこかへ飛んで行って、ただただ安心感と幸福感だけが僕を支配する。


 こんなにもバブみがいのある母親がこれまでいただろうか、いやいない。これは僕もママみがいのある赤ちゃんになれるよう努力しなくては。


『実に気持ち悪いわ』


 あれ、おかしい? ルナの声がする。幻聴かな? どうやら僕の頭は壊れてしまったのかもしれない。


『私と出会う前から既に壊れていたわ。デフォルトがすでにそういう状態だったの。死んでも治っていない辺りは流石と言えるわね』


 この毒舌、やっぱりルナだ。彼女もまた僕と一緒に転生したのかな? 一緒に死んだからその可能性が一番高いのだろうが、どこに居るんだろう?


『どこにいるの、ルナ?』


『ここよ』


「あー」


 ルナが返事をしたと同時に、僕の耳にはママ越しに赤子の声が届く。今のは間違いなく僕の声ではなかった。


「ほら、ラーメス? あなたが構いすぎるからライラが泣いちゃったちゃったじゃない。ディア、ちょっといい子にしててね? ライラお姉ちゃんのところに行ってくるから。お父様が泣かせちゃったみたいなの」


 そう言って僕をベビーベッドに乗せて声のした方へ向かう。あぁ……。せっかくのマシュマロが離れてしまったではないか? おのれ、絶対に許さん! 今、泣いた奴は名乗り出てきなさい!


『私と話している最中だと言うのに良い度胸をしているわね?』


 そうして僕のボケにすかさず反応してくれるルナ。転生してもやっぱり一緒らしい。何だか嬉しくなってくる。


『ん? 今、ママはお姉ちゃんって言わなかった?』


 驚愕の事実である。まぁ、同じ部屋に居て、ここが病院でもない限り、同じ家庭に生まれていると考えることが一番妥当な結論だもん。その家庭で僕より先に生まれているからお姉ちゃん。


『ええ、今の私はあなたのお姉さまよ。転生したというのも不思議な感じなのだけれど、それ以上にあなたと一緒というのが不思議だわ。どういうことなのかしら』


 そうは言っても僕らが一緒なんて今更過ぎて疑問にも思わないのだが? だって……。


『死ぬ前もそうだったでしょ?』


 結局あの後どうなったのかなんて僕の知ったことではないけど、死ぬ直前に一緒だったから転生した。どうせ考えても答えなんて出る筈もないのだから、それだけ分かっていれば十分だと思うんだけどなぁ。


 この状態の良いところは話し相手には困らないこと。それにもうすぐ処刑と分かっていた前回に比べれば随分とマシな状況である。それ故に僕らが一緒であることなど追々考えれば良いのだ。


『少しくらい動揺しても良いのではなくって? 意識が戻ったら赤ん坊になっていたなんて普通混乱すると思うのだけれど』


 理由ならば恐らくはルナと一緒に死んだのが僕にとっては二度目の経験だったからだ。一回目の死を迎えて、ルナに憑依した時は結構混乱していたもの。


『そこまでして死に慣れようとは思えないわね』


 うっさいやい。


『まぁ、それでもあえて言うなら、僕らの世界では転生と言うのは飽きるほどに描き尽くされた物語の題材だったんだ。自分が体験することになるとは思ってなかったとは言え、驚きは感じないかなぁ?』


『はぁ、物語と現実に起こるのとでは話が違うでしょうに……』


 呆れられた。だから敢えて言うならと言ったんだよ。別にそれが大きな理由って訳じゃない。ま、次はこっちから話を振ることにしよう。


『ルナはいつから目覚めてたの?』


 どうやら僕よりも先に起きていたみたいだからな。一応確認しておかねば。


『あなたが起きる少し前。起きた直後は混乱していたのだけれど、はぁ……。あなたを見ていると、私が貴族として経験してきた頃の自信を無くしてしまうわ。ついさっき転生から起きたばかりだというのに動揺もせず、次の瞬間には母親に抱かれてご満悦なのですから』


 おや? これは少しばかり咎めれられているような……。だが、あのマシマロの魔力には逆らい難いものがあるのだ。どうせルナも今から体験するのだから、言葉は不要! とくと味わうが良いわ!


 そう決め台詞を吐いたは良いが、肝心のお父様がルナを離さないらしい。


「ネフィー、私からライラを取り上げないでおくれ! ライラはパパが良いもんな? んちゅー」


 あぁ、これはもう見なくても分かる。ちゅーされてるらしいな。何とも情熱的なパパである。


「やあああ!」


 それに対して大声を上げるライラ。すごい嫌がるやん? 流石にパパがかわいそうになって来たよ。娘大好きしてくれてるんだから、甘んじて受け入れれば良いのに。


『ならディアが代わる?』


 遠慮しておきます。嫌という訳では無いのだが……。どっちかと言えば、ママの方が良いからな。


『貴方ね……』


 しかし、そのママはパパの蛮行を止めにかかる。


「ほら、やっぱりライラは嫌がってるじゃない。ディアの様子を見てあげていて? ディアまで泣かせてはダメよ? 抱っこするだけ」


 マジか、ママの今の言い方だと僕の方へ来るらしい。


『先ほどは自分で言っていたでしょう? 甘んじて受け入れれば良いわ。良い人なのは分かっているのだけれど、ちょっと構いすぎる傾向にあるわね。それだけ私たちのことを可愛くてしょうがないと思っているが故の行動というのは分かっているのだけど……』


 だからと言ってちゅーされるのはな。


「ディアー! 聞いて? ネフィーが意地悪してくるんだ。ライラお姉ちゃんを抱っこしちゃ駄目だって。おー、よしよし、ディアは泣かないで良い子だねー」


 そう言いながら僕の抱き上げつつ、ママへの不満を僕にぶつけながら頭をなでなでしてくれる。まあちゅーされるよりは幾分マシだから、気の済むまでこのままにしてあげよう。それはそうと、パパの顔はチラッとしか見ていないのだが、結構な美形だった。これでもうちょっと大人しく出来れば、カッコイイ感じのパパになるのに。何とも残念な感じだ。


「人聞きの悪いことを言わないで、ラーメスがライラを泣かせたからでしょう?」


 ママの方はパパに対して抗議しつつ、泣かされたルナを抱きかかえている。しかし、肝心のライラはウソ泣きであってのでママに抱かれるなり直ぐに泣き止んで、


『良い感触ね』


なんて言い出す始末。おのれ、この恨みはらさでおくべきか! 本来ならば僕が味わっている筈だったのに……。とは言え、今のルナの発言には、僕だって全面的に同意するところなので、先ずは賛同の意を表明することにしよう。


『であろう。天上に上るような心地がする』


『流石に言い過ぎよ。また死んでいるじゃないの』


 そう言えばそうだな。まぁ、そのくらいママに抱っこされる感触は気持ちが良いと言うことである。それに対してパパはやっぱりちょっと残念なのであるが……。


 さっきから自分の頬を僕の頬にくっつけてうりうりとしてくる。愛情表現してくれているとは分かるし、素直に嬉しい気持ちもあるのだが、気持ち悪い感じも否めない。


『同意するわ。キスされるの嫌がったけれど、結局あまり変わらなかったわね。私の代わりにハルがされるのだもの。頬をくっつけられてる感触はダイレクトに伝わってくるわ』


 あぁ、僕がされているのはライラにも伝わっているのか。この変な能力転生した後も続いてるよね。


『ええそうみたいよ』


 ならば、とルナの方の感覚に意識を向けて見れば、ママから抱かれる感触を僕も体感できるようになった。やはりパパより、ママに抱っこされている方が良い感触が味わえる。


 それにしても、どうして体が二つになってからも感覚を共有してるんだろう? あの時は僕が憑いていたから、で説明することが出来た。なら今回は? まるで分からない。


『本当に、ハルの言う通りなのよ。誰でも良いから状況を説明してくれないかしら?』


 お約束なら転生前に女神が出てきて説明してくれるんだが……。


『ごめんなさい、補足するわね。女神以外ならば、誰でも良いから説明してほしいわ。アレに会うのはごめんよ』


 確かにもう一度アレを見たいとは僕も思わないもんなぁ……。


 一応その説明をしてくれる存在と言うことで言えば、そんな神様が現れると言うケースもある。しかし、僕が前回死んでルナ様に取り憑いた時には全くそんなイベントはなかったから、今回も期待しない方が良いだろう。イベント自体は起こった方が面白くはあるのだけど。


『まぁ、私達が生きているのは現実の世界なのだけれど』


 ド正論やね。


 それはそうと、お互いの位置が多少変化したことで、僕はルナの姿を視界に捉えられるようになっている。そうして、僕の視界に映っているのは、ママに抱かれたルナらしき赤ちゃんの姿なのだが……。


『ルナの頭にツノ生えてる』


 ママだけでなく、パパの額にもツノが生えているのは既に確認済みだ。ルナも同様にツノが生えていることから二人の子であるのと言うのは間違いない。


『あなたの頭にも生えているわよ?』


 やっぱり僕も人外転生だった。ルナがお姉ちゃんと言う時点で確定はしてたけども。


『見た目はお互いどうかしら?』


 そうルナが尋ねてくるのだが、彼女が言う漠然とした質問で何と返したら良いのか分からない。単純に考えるのならば、美醜の問題だろうか? 赤ちゃんなんだから、そんなのが分かるのはまだ後になってからの話でしょ?


『私があまりに自分の容姿を褒めたのがいけなかったのかしら……。美醜に関して言いたいわけではなかったの。それに、両親のどちらを見ても美形なのだから間違いなく美人になると思っているわ。けれど、本題は自分達の前の容姿と似ていると思ったのだけれど、どう?』


 そう言うことだったか。お互いの視覚も共有しているため、僕らは自分の容姿も見ることが出来る。それから判断すると髪の色はまず間違いなく、ルナが指摘したように前の自分と近いと言えるだろう。


『でも両親からでしょ? パパが黒の髪、ママは白の髪色をしてて、それがどちらにも受け継がれているってだけの話じゃない? 僕にはそこまで疑問は感じられないんだけど……』


『そうね。ハルの言う通り、確かに両親から受け継いだと考えればおおかしいと言うわけでは無いの。けれど同時に作為性も感じてしまうのよね』


『理由は?』


『転生したら自分に憑いていた相手と双子として生まれていて、それぞれ元の髪色と同じなんてどんな偶然よ? 仮にそれを偶然と呼ぶのならば必然という言葉は存在しないわ』


 すげえ、言い切った。確かにそう言いたくなる気持ちも分からないではないけど。それ以上に双子だったって事の方が驚きなのだが。何で赤ちゃんが同時期に二人も居るのかと疑問に思ってたよ。


『でも瞳の色は前とは違ってるよ? どちらも両親から受け継いでる』


『転生したのだから多少の変更くらいはあるのでしょう。ツノだって生えているみたいだから』


 確かに。でも、本当にただの偶然の可能性もないではないのだ。誰か説明してくれないかなぁ……。


『しょうがないでしょ? いないのよ、そんな人。何度も言うものではないわ』


 そうは言うが一回目の時にはルナが説明してくれたのだから、今回も他の誰かが出て来ないか、ちょっとくらいは期待したいところである。


 だが他人にばかり任せてもいられないので、とりあえず自分たちで分かる事だけでも把握しておきたいところか。


『お姉ちゃん? 分かってることを教えてほしいな』


 できるだけ可愛らしく聞いてみた。


『良い響きね、お姉ちゃん。前は一人っ子だったもの。兄弟が居るって、とても新鮮な気持ちになれるわね』

 なんだか少しヤバめな雰囲気がルナから漂って来ているのだが、どうやらお姉ちゃん呼びをお気に召してくれたことだけは分かる。甘える作戦は成功したらしい。


『時折お姉ちゃんと呼ばれることを所望するわ』


 ここまでだと大概だ。でもそちらが要求してくる以上は僕にだって有益な情報をもたらして欲しいと言うもの。という訳で何かない?


『そうは言っても特段言えることなんて無いわよ?』


『分かっている事だけでも良いんだ』


 なんせ僕よりも先に目覚めたちょっとの違いが、目覚めたばかりの僕らには大きな差なのだから。


『そうね。まずは現状を整理するわ。私達は生まれ変わった。私は女の子だけど、ハルあなた自分の性別は分かる?』


 基本的な問題だった。確かに自分が男だとずっと思っていたのだが、女の子になっている可能性だってゼロじゃないのか。でも、何となく分かるな。


『多分、男だと思う』


 実際についているか確認しないことには分からないけど。


『ならば、私たちは双子の姉弟ね。私の名前がライラ、あなたの名前はディアよ。両親の名は父親がラーメス、母親がネフェルタリ』


 そうか、ついさっきまでルナと呼んでいたのだが、確かにルナも僕も両親からは違う名で呼ばれてたな。今後生きていく上ではそれが自分の名となるのだ。今の内からきちんと矯正しておかねば。


『よろしくね、ライラ』


『ええ、よろしくディア』

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