ハル過去・後
◇◇◇ハル視点
いつもの様に登校すると教室の雰囲気がおかしいことに気が付いた。どこがおかしいのか? と聞かれれば、答えようがない。だからと言って、それが自分に関係しているとも思えないので、そのまま自分の席についた。
なんとなしに小説を取り出し読んでいると、いつもはあまり耳に入ることのない、隣のクラスからの声が聞こえてくることに気が付く。どうやら何らかの理由によって、この教室の雰囲気が悪化しているらしい。
昼休みになったが、今の教室で昼食を摂るのは、なんとなく嫌だと思い食堂へ向かう。言い知れぬ重圧のあった教室と違い、天井が高く、広々としていて開放感が味わえる。多少人はいたが、人であふれかえっているわけでもない。完全に人がいないのは、それはそれで居心地が悪いから、丁度いい人口密度だと言える。
教室に戻るのが少しばかり億劫になる。このまま昼の授業を受けず帰ってしまおうか? そんなことを考えていると、クラスメイトの姿が目に入った。軽いこげ茶色をした目が完全に隠れるくらいの長さをしているボサボサの髪、それでいて太い黒縁の丸眼鏡をかけた男が学食のカレーをトレーに乗せて、こちらに歩いてくる。
そうして向こうもこちらの存在に気が付いたらしく、話しかけてくる。
「あれ、ツクモ君もこっちに逃げてきたの?」
クラスメイトだから顔くらいは知ってはいるのだが、あまり係わりを持っていないので、名前が合っているのか自信が無い。確かモb……。
「モブじゃないからね」
どうやら思考が顔に出ていたらしい。最近は表情を出していることもあってか、必要の無い場面でも出てしまっているのだろう。そんなことは今は良いか。
「明星君」
答えたことでようやく満足したと言った様子を見せて対面に座った。どうやら一緒に昼食を摂るつもりらしい。
彼のフルネームは明星黎明。光り輝いていそうな名前だ。それに反比例するような、地味な見た目と少々気弱そうな話し方が印象的だ。他のクラスメイトの名前など殆ど記憶していないのだが、彼が例外であるのは、偏にこのギャップが原因だと言って良い。髪と眼鏡に隠されて素顔を見ることが出来ていないが、それ以上に地味な見た目の方が気になることから、モブと呼んでいる。
「失礼なこと考えてるでしょう?」
エスパーだろうか?
「顔に出てるよ」
自分が他人に対して何かを感じると言うこと自体少ないのだが、このモブは少し例外らしい。考えていることをここまで理解出来るとは感嘆するしかないだろう。
「参りました。それで、逃げてきたというのは?」
こうして話をしているのも悪くないとは感じるのだが、先ほどの話は理解出来なかった。何について話題にしたのだろう?
「え、さすがの君でも気づいたから逃げて来たと思ったんだけど、違ったの? 教室の空気悪かったでしょ?」
なるほど、それならば心当たりがある。まさにそうした理由でここに逃げて来たのだから。面倒なことに巻き込まれるのだけは御免である。
「ああ、それのこと。それで原因は何なの?」
特に知りたいわけでは無かったが、世間話くらいにはなるだろう。それに原因が分かれば巻き込まれないように振舞えるかも知れないのだ。決して無駄話になる訳でもないだろう。そんな考えもあって聞いたのだった、しかし明星から返されたのは予想外の言葉。
「それ、君が聞くの?」
「え?」
「え?」
どうも話がかみ合わない。どういうことだろうか?
「心当たりがないとは言わせないよ? 女子たち。片っ端から愛想振りまいてんのに、誰も釣ってないでしょ?」
「ああ、釣るの意味は推測しかできないけど、なんとなく分かる。付き合ってないってことだろ? でも彼女たちには興味がわかないんだ」
「じゃあ、なんで餌振りまいてるの……」
「餌?」
「微笑んでいるでしょう? それだけなんだけど彼女たちはそれでやられてるんだよ。君、自分の容姿自覚できているの? 鏡を見たことはある?」
一応毎朝確認くらいはしているので、当たり前だろう。それに自分の容姿が多少優れていることくらい知っている。
「勿論。けど、それが教室の雰囲気が悪いこととどう繋がるのか分からない」
彼の話し方から鑑みるにどうやら自分が原因らしいことは分かる。しかし心当たりが全くないし、ここまでの話を聞いていても、どうも要領が得られない。
「鈍いのかな? いや、感情が無いのか、薄いのかな? 君がそうやって女の子たちを魅了していった結果、彼女たちの間では君を巡っての争奪戦が起きてるんだよ。今までは水面下に隠れていたけど、ここにきて顕在化したんだ」
寝耳に水とはまさにこのこと。登校してクラスの雰囲気が悪いなと他人事のように思っていたら、まさか自分を巡った対立が原因になっていたなんて。
「信じられないなあ」
俄かには信じがたい、それが本当ならあの光景は自分にとっての地獄絵図だ。
「ツクモ君はそうなると分かってなかったの? 表情は読めても感情は読めない人だったから、僕はてっきりこんな状況を作って楽しんでるのかとも考えてたんだけど……」
酷い誤解だが、実際に起きてしまっている以上強くは否定できない。しかしそんなつもりは全くなかったのでそこだけは否定しておく。
「流石にそんなことをして楽しめるような性格はしていない。ああしていたのは、中学のときに男子たちから虐められていたから。ああしたら、女の子が味方してくれるようになってね……」
本来ならば味方が作れている筈だった。明星が言うには僕のせいでああなっていたらしいが、本来の目的は、中学の時の様なイジメられるリスクを避けることだ。
「あぁ……思った以上にポンコツだったんだね」
気弱そうな話し方に反して、どうも毒が含まれている気がする。やっていることを考えればこれくらい言われて当然なのだろうか? それにモブ呼ばわりしていた自分が言えることではないのかも知れない。
「君が虐められてた原因は分からない。けどここは中学ではないでしょう? イジメが起きるかどうかなんて分からないじゃない。だから、早とちって女生徒たちを味方につける必要などなかったと思うよ」
なるほど? だが起きなかったとも言えないのだが。予防策にはなっていたはず。
「納得していない顔をしているけど、まあ聞いて。何度も言うけれど君は自分の容姿が目立つことをきちんと理解しておくべきだった。イジメられてた原因なんて詳しくは知らないけれど、推測する限りでは君が人気を集めていたことに男子が嫉妬してたんだと思うけど……違う?」
「いや、当たってると思う」
確かにそんな理由だった。モブは凄いな。
「今の君の状態を見ていれば予想くらいはつくさ、全く同じ理由だろうとね。今は女子たちの問題が表面化しているけど、男子からはツクモ君嫌われているんだよ」
そうだったのか。中学でもそうだったから驚きはしないが。だがそうであれば予防策は一定の効果を発揮していたと言えないだろうか? 男子生徒たちのイジメという問題は起こっていないのだから。
「頼むから今のには動じてよ……」
「そうは言うけど、ここ数年はそれが普通の状態だったから、何故動じる必要があるのか分からない」
「はあああ……」
どうやら明星は呆れているらしい。
「もう良いよ。君に対して感情論を説明する方が無駄な気がしてきた。だからそれ以外のことで君を納得させるね?」
「よろしくお願いします」
「うん。中学までの君のことを知る者は少ない環境へと変化したのだから、地味な見た目にでも変装すれば良かったでしょう? 話を聞く感じ目立ちたい感じでもないみたいだから。そうすればモテてもいなかっただろうし、男子たちに嫉妬されることも無かったんだから、結果的には今の問題もイジメも起きる可能性も低かったと言えない?」
目から鱗とはまさにこのこと、モブの言う通り自分はポンコツだったらしい。
「それで納得したところで悪いけど、効果は見込めないと思う。変装をすること自体は今からでも遅くはないんだろうけど、如何せん皆君の顔を知っちゃってるから」
「そうだろうね。問題は既に起きているんだし」
全く意図していなかったことではあるが。
「その通り、だから君の方の問題は一度脇に置いて、彼女たちの問題を解決する方が先だとは思わない?」
そう尋ねられると否定はしがたい。それに明星の話を聞く限りだと、自分はどの道問題に関わらなければならない可能性は高い。ならば今のうちに解決に当たった方が良い。
「思う」
「本当はこんなことに首を突っ込みたいわけじゃなかったんだけど、君とここまで話したんなら深入りするしかないか……。ツクモ君はどうしたい?」
明星からそう尋ねられるのだが、自分はどうすることが正解なのだろうか?
「僕個人の意見としては君が蒔いたタネだから、君が回収するのが一番良いと思う。方法としては……。面倒は起きそうなんだけど、彼女たちと直接話をするのが良いんだろうね」
そう言われるものの、自分が彼女たちに何を話すべきなのかまるで見えてこない。だから素直にそのことについて彼に相談する。
「話か。そもそも何が悪かったのかすら理解出来てない部分も多いんだ。何を謝ったら良いと思う?」
「ああ、確かにそこから説明する必要があるかも知れない」
酷い質問をしている自覚くらいはあったが、明星は先ほど違って呆れた様子は見せなかった。
「僕が思ったことを言うね? これは僕自身の価値観に基づくから、話している中で君が受け入れるべきだと思った部分を参考にしてくれると嬉しい」
「分かった」
「まず気もないのに微笑みを向けたことだと思う。人間関係において愛想というのは大事だから、微笑みを向けることそれ自体が悪いとは言わないよ? けど君のそれは明らかに恋情を誘う類のものだった。相手に対してその気がないのに、そうした態度をとるというのは不誠実だと、僕は思う」
なるほど。確かにそう言われれば納得できる部分はある。それが彼女たちに対して実に不誠実であったと言うことも理解出来なくはない。
「無論、君はただ微笑んだだけで、相手が勝手に勘違いしただけとも言い訳もできるよ。そういう場合には話をする必要すらないんだけど。君自身はどう思ってる?」
どう思っているのだろうか? こうして他者の意見を伺ってみると、確かに自分の行動は不味かったように思われる。例え悪気がなかったのだとしても。
「恐らく謝罪した方が良いと感じている」
「ならば素直に謝れば良いんじゃないかな? 「その気もないのに思わせぶりな態度をとった不誠実な人間でした、ごめんなさい」って。まあ、これは僕の言い方だからどう謝るのかについては自分で考えることをお勧めするよ」
今までの明星との会話を通して自分が悪いと思ったことを謝れば良いという事か。
「そこから先は君の手を離れると思う。問題となっているのは彼女たちの間の関係性だ。君と言う人物がいなくなったことで修復するならそれで良いけど、関係が完全に壊れてしまっていた場合も何も出来ることは無いだろうね」
仲直りしてくれと強制するわけにもいかないからか。
「幸か不幸か、君が誰とも付き合ってはいないのは良かった。最悪はまぬがれそう」
「最悪って……。最初にも否定したけど、そんな関係築くはずないさ。どうしてそんなことを聞いたの?」
安堵と言うほどでは無いのだろうが、明星は確かに良かったと言う表情はしている。だから、どうしてそのようなことを心配していたのか聞いた。
「俺が考える最悪のケースはツクモ君が誰かと付き合っていて、今回の件をきっかけに、相手がいることを彼女たちに知られることになり、その子が針の筵になることだった」
なるほど。さらに問題がこじれそうな気はしてくる。
「納得してくれたところ悪いけれど、人間の感情に関する問題だから思い通りにはいかないと思うよ。どんな結果になったとしても君が考え無しに人の心を弄んだツケだと思って、あまんじて受け入れてね?」
これが明星の本音と言ったところか。だが、こうして指摘してくれるだけでも有難いと思うべきなのだろう。今までこんな事を教えてくれる者などいなかったのだから。
「とりあえず、彼女たちと話をしてみる。もし原因が僕でなかったら、自意識過剰みたいで恥ずかしいけど」
「ははっ、確かに。それなら今までの話の前提は崩れるね。だけど大丈夫だよ。クラスの男子たちはその話題で盛り上がってるから、原因は君以外にありえない」
最悪だな、男子たち。だが、彼らは責められない。自分には言う資格がないのだ、こうなっているのは他ならぬ自分の行動が原因となっているのだから。
その放課後、今回の一件に関係しているらしい同級生たちを呼び出し謝罪した。自分の振舞いが酷いものであったこと、それを悪いと思っていること、彼女たちの関係修復の手伝いが必要ならば、喜んで手伝うということを伝えた。感情的になる者も少なくは無かったが、話し合いは一応の決着を見た。
「決着がついたようで良かったよ」
明星が話しかけてくる。彼女たちと話をする間、立ち会ってくれていたのだ。本人たちだけでは心配だから、と。アドバイスをした以上、最後まで面倒を見るつもりでいたらしい。かなり世話になった。
「明星君、ありがとう。おかげで彼女たちには謝れた。許してもらったのかはわからないけれど」
だから彼には心のままに礼を言った。
「それはなによりだ。酷い教室になっていたから、明日から徐々に戻っていくと俺も嬉しいんだけどね」
「ご迷惑をおかけしました」
礼をした。彼女たちに謝った時と同じか、それ以上に深く。
「話は変わるがけど、やはり君はおかしい気がする。頭のネジが外れているみたいだ」
もう頭を上げて良いかな? 毒舌にもほどがある。今言うセリフではないと思うのだが? そうした自分の表情が表に出ていたらしい。明星は続ける。
「まぁ、聞いて? 普通は味方になってもらおうと思って片っ端から異性を魅了したりしないんだよ。僕でよければ相談相手くらいにはなるから、何かしようと思った時は必ず意見を求めること」
「そう言ってくれるのは有難いのだが、それでは明星の負担にならないか?」
「なら誰でも良いから相談をしなさい。できれば同性が良いと思う、今回の二の舞になりかねないから」
異性に相談するとそう言う心配も出てくるのか。かと言って相談出来るような同性の知り合いなんていないから必然的に明星が相手になるだろうが、それではさらに面倒を見て貰う事になってしまう。それに――――。
「学校でそんなこと言うのは先生の仕事なんだけど」
「一番に頼るべき担任の先生が今は女性でしょう? 君にとっては鬼門だよ、注意しておいた方が良い」
なるほど、それは相談出来ない。
そうして学校から帰ることになった。
いつものように傘を差しながら学校から帰っている。道中、ふと人がいるような気配をかんじたが、あたりを見回しても誰もいない。気のせいだったことにしてまた歩き始める。
商店街のには人が集まり始めているようだった。夕飯の買い物に来ている人達だろう。惣菜のいい匂いがする。今月の財政が割と危ないことを思い出し、欲求を振り払うことに専念する。こういう時には早く抜け出せなくては。誘惑の元がなくなるあたりまで先を急いだ。
商店街は抜けた。どうやら悪魔の誘惑に打ち勝ったらしい。後ろ髪をひかれる思いはあったが、それを振り切るために人気のないいつもの下校路に入った。
不意に誰かが走ってくる音がして振り返ろうとした。だが振り返る前にドンッと背中からぶつかられ、僕はうつ伏せに倒れる。
今日は厄日なのかも知れない。ふとそう思った。だがすぐに思い直す。先程の件にしても、自分のやったことが帰って来てるだけなのだから、厄日に悪い、と。
どうも背中からお腹にかけて熱い気がする。手を後ろに回して触って確かめると激痛が走る、それに液体のような何かが手についてないか? そう思って手を戻して確認と真っ赤な液体がついている。血だ。どうも刺されたらしい。一体誰が? そう思い気配のある後ろをふり返ろうとしたところ、今度は仰向けになる方向へと突き飛ばされる。
そうして誰か此方に近寄って来て、馬乗りになり、お腹を何度も刺してくる感覚があった。先ほどまで背中に感じていた痛みは感じなくなっている。余りの出血の多さに痛覚が麻痺したのだろう。
それにしてもえらく怨まれたものだ。こんなに刺してくるぐらいなのだから、僕に対して相当な怨みでも持っているのだろうか?
これはもう助からないなと思いながら、頭だけはなぜか冷静に現状を分析していた。朦朧としていく視界にわずかに映ったのは、恍惚とした表情を浮かべた、先ほど僕が謝っていた少女の内の一人だった。
なるほどやっぱり今日は厄日なんかじゃなく、ただの因果応報だったようだ。そう考えたところで――――――。
白陽の生は終わった。
◇◇◇
『なんだかとても酷いものを見た気がするわ。これなら記憶なんて覗くべきではなかったかしら』
この人自分で勝手に覗いときながら文句言ってるよ。図太いなあ……。
『まあ悪いとは思っているけれど、仕方のない部分もあったの。ごめんなさいね』
気になることがあったならしょうがないのか? まあ良いや。
『けれど見た限りではアレと張るくらいには酷いかも知れないわね。私途中で語りを放棄してしまったくらいだもの』
あぁ、確かに。僕の主観になってたな。メタな発言はこれくらいにしておくか。
けど、ルナ様が言うほど酷くはないと思うけどな。僕は死者なんて出さなかったし(自分を除いて)、アレのように悪意を持って他者と接したりなんかはしていない。アレほど酷くはない。……酷くはないよね?
『どうかしら、そう思うのは本人ばかりなりってね。他人の感情だから、結局のところ相手が何を思ってるかなんて、自分には分からないわ。彼女たちは、謝罪を受け入れはしても、私が女神を憎むのと同程度には、あなたのことを恨んでいたのかも知れないわよ? 現に最後は殺されたのだし』
あれは恨んでいるというより、ヤンデレだったやん。めっちゃ嬉しそうに僕のこと刺してきてたもん。
『結局のところ、ハルがあんなことをしていた理由は、自分が生きやすくするためだったのよね?』
『うん、まあそうだね』
だが今となってはどうしてあんな手段をとったのかは謎である。明星がおかしいと言った理由も、今ならばはっきりと理解出来る。だと言うのにどうしてあんな行動をとっていたのだろうか? これが分からない。
『感情は欠落していたの?』
大分直球な質問が飛んできた。
『どうだろうね? あるかないかで言えば無かったんだと思うよ、恐らく。でないとあんな行動取らないでしょ?』
『そうよね……』
だったら、今のこの感情は何なのだろう? ルナ様、これ感情だよね?
『ええ、そうだと思うわ』
どういう事だってばよ? 異世界に来たことによるボーナスかな? まあそんな感じのイベントは無かったから違うと思うが……。
『真面目に考えなさいな?』
さーせん。でも妥当なところで考えるとするとルナ様にこうして取り憑いているからと思うんだけど、どう?
『否定できないわね。そもそもこんな状態になったことなんて無いのだから確かな事は言えないのだけれど』
そうだよね……。
だが分からないことを考え続けてもしょうがない気がしてきた。考えても仕方が無いので切り替えていこう。
『じゃあ話を変えましょうか? 折角モブ君と言うあなたに快適な生き方を教えてくれそうな人と知り合えたのに、直ぐにああなって……残念だったわね』
話切り替えたのにそれ言っちゃうの? もっと明るい話題は……ないね。ルナ様と僕どちらのことを話題にしようと暗いものばっかりだ。
『そういう事よ』
ならば仕方ない。ルナ様の今の話題について考えるか。
けどそんなこと考えたってどうしようも無い気はするんだよな。むしろ傷つけた少女たちのフォローが最後まで出来なかった方が悔いは残っている。この状況では戻れる見込みも無さそうだけど。
そうして後始末は結局モブだな、頑張ってくれ。
『すさまじく開き直ったわね。私はあなたが生きているのを知っているわ』
だが知っているからと言って、モブたちにそれを伝えられるという訳でもないのだし、このままいけばルナ様は死んじゃうから、大丈夫。
『あなたも一緒によ? それも死ぬのは二回目ね、どんな気分か教えてくれるかしら? 感情を得たのでしょう?』
私は逃げるぞ、絶対にだ! 必ずこの体から脱出する方法を探してやる!
『それで? 脱出した後どうなさるおつもりかしら? 自分の体はもうないのに、私以外の誰に取り憑くというの? 魔術も使えないのだから、結局私のところにいるしかないのよ。それとも他に方法があって?』
ぐぬぬ。