lose is win
「じゃあもう出発しちゃうけど、準備できてる?」
「あ、ちょ、ちょっと待った。」
ボサボサの髪に無精に生えた髭、鏡にはまるで、家で一日中ゲームをしてるニートみたいな姿が映っていた。
(流石に少し支度しなきゃまずいよな)
何日かぶりに顔を洗う。ただそれだけなのに、溜まってた色々な不純物が、抜け落ちたような爽快感に溢れた。
髪もキチンと整え、髭もそり、ちゃんとした服も着た。
こんな状態はいつぶりだろうか。1年前に妹が死んでからだから、約1年ぶりだろう。
どこか心も軽くなった。今なら冗談とかも軽く言える気がする。
…ってことは、前は冗談すらまともに言えないような状態だったんだな。
そんなことを考えてると、死神から
「まだぁ〜?」
と声が掛かる。
「あぁ、大丈夫だ。もうできた。」
「じゃあ行っちゃうよ?」
「そういえば、名前をまだ聞いてなかったな。なんて言う名前だ?そもそも死神に名前とかあるのか?」
「死神にだって名前ぐらいあるわよ。私はアリシア。よろしくね誠。あ、今ちょっと可愛い名前だなって思ったでしょ!」
どうやらアリシアは俺の考えてる事は全てお見通しらしい。
やだ、ちょっと恥ずかしいんですけど。
「これからは、あなたのパートナーとなるから。ゲームに負けたら、その場で魂を頂くし、もし勝ち残ることが出来たのなら、私が願いを叶えてあげるわ。」
「お前がやるのかよ。 不安しかないぞ俺。今からでも他のしっかりしてそうな死神に交換してくれないか?」
アリシアが怒ったように、目を見開きながら怒鳴る。
「あなた!今何を基準にそんなこと言ったのよ!」
「見た目と言動」
即答する
「いくら私が少女の姿してるからって、実年齢は6万歳ぐらいよ!というか死神に寿命とかないから!ずっとこの見た目だから!」
おいおいおい、なんてこった。ババアじゃねぇか!いや待てよ、年齢はさておき人間の基準では一応成人してるわけだ。それにこの見た目。合法ロリってことかよ。
「…お前、人間界なら結構好かれるぞ。」
「何の話?心の声聞く限り、良くないことなのは確かなんだけど。まぁそんなことより、早く行くわよ!」
「わかったわかった。」
そこで、ブツンと意識がきれた。
目覚めると、そこはとてつもなく大きいホールのようなところだった。軽く1万人は入りそうだ。
見渡すと、かなりの人がいた。みんながみんな、社会不適合者です、みたいな顔をしていた。俺が言えたことじゃないか。
とりあえず情報を聞くために、周りの人に話を聞いてみることにした。
「なぁ、そこのおじさん。今、一体何が起きてるんだ?」
「あ?なんだお前。俺だって知らねぇよ。いきなり死神を名乗るオネエみたいなやつに、ゲームに参加しないかって言われて、気づいたらここにいたんだよ。」
どうやら俺と同じような状況らしい。それにしても、おねぇって。アリシアは当たり枠だったみたいだな。どなたか分かりませんが、アリシアを派遣してくれた方には感謝感激雨あられでございます。
オネエに食われるとか、死んでも嫌なんだが。そもそも死ぬ訳だが。
そんなどうでもいいことを考えたら、不意にステージのようなところが、ライトスポットで照らされた。
なんだなんだと、会場はどよめいている。
暫くすると、これまたおそらく死神の、初老の紳士のような人物がでてきた。
「皆様!ようこそおいでなさりました!私はこのゲームの開催者、シシャと申します。以後お見知りおきを。」
シシャと名乗る人物が大声で話し始めた。マイクがあるのに、なんでわざわざ大きな声で話し始めるんだこいつ。
「さて、皆様には早速ですがゲームをしてもらいます!しかし、あなた達は敗者。勝つことはとても難しいでしょう。なので、あなた達が1番得意であろうルールを決めました!それは…」
「負けたら勝ち」
「の、ゲームでございます!すなわち、敗北=勝利となるゲームです!負けるのが得意なあなた達にとってはなんとも簡単なゲームでしょう?名付けて、lose gameです!」
おいおいおい、なんだよそのゲーム。
負けたら勝ち!?つまり、勝ったら負けで負けたら勝ちってことかよ。クソややこしい!
「ふざけんな!なんだそのルール!」
「普通のにしろよ!」
まぁ当然だ。文句が出るはず。参加者がみんなクズみたいなやつらばっかだから尚更だ。
「ゲーム作りなおせぇ!」
「そもそもなんで俺たちが、そんなのやらなくちゃいけないんだ!」
「そうだそうだ!」
「…れ」
「あぁん!?聞こえねぇよ!もっとはっきり喋れ!」
「黙れっていってんだよ」
シシャの恐ろしく低く、死を感じさせるその威圧感ある声は、民衆を黙らせるのには十分すぎた。
「お前らはな、敗者なんだよ。」
「ずっと家に籠り、一日中ネットをやり親に迷惑をかけるやつだったり、社会のルールを守らず、人に迷惑をかけることでしか生きられないやつだったり、気力がなく、生きてるか死んでるかも分からないようなやつだったり、そんな敗者共に、生きてる価値なんてあんのかよ。」
俺たちは、何も反論出来ないでいた。
「オホン。おわかりいただけましたかな?では、なにか質問はありますでしょうか!」
沈黙が流れる
「何も無いようですので、只今から始めたいと思います!」
またしても、あのバカでかい声に戻り、いつもの調子を取り戻したシシャに、俺はついていけてなかった。
「では、記念すべき、最初のゲームを発表したいと思います!」
そして、伝えられたゲームに俺は戸惑いを隠せなかった。