025/100 十字架
——遠くの玉座に見覚えのある漆黒の鎧。
ドクンッ
僕の心臓が激しく波打つ。
夢にまで現れて僕を殺そうとする魔族。
自然と剣に手が掛かったところでクロフォードさんに静止された。
「アルトっち落ち着こう。
相手は見たところ一人、こちらは五人。
それに城はすでに包囲してある、あちらも下手には動いてはこないよ」
「我が城へようこそ。
それにしても宣戦布告なしに奇襲とは…まるで悪魔だ」
魔族はゆっくりと立ち上がりこちらへ歩いてくる。
「それにしても…、よくこの短期間でここまでの軍を編成出来たね。
あの時、殺し損なった私の責任かな」
くそっ!
僕に力さえあればこんな奴倒してやるのに!
「…その剣、貴様が持っていたのか。
どうりで探しても見つからないわけだ。
それは貴様を庇って死んでいった人の者だ、返してもらおうか」
一体何を言っているんだ!?
なんでお前なんかにこの剣を返さないといけないんだ!
魔族が僕に歩み寄ってくる。
僕と魔族の間にクロフォードさんのレイピアがさっと割り入った。
魔族はそのレイピアを見た途端、動きを止めた。
「あれ、そのレイピア…
なぜ生きているんですか兄さん?」
魔族は禍々しい造りの仮面を外した。
「…なるほどそういう事か、これは兄さんの企みですか。
それならこの手際の良さ、納得がいきますね」
親しげな言葉、僕と話している時とは別人みたいだ。
それにしてもその顔は魔族というより…人に見える。
「久しぶりだねー、ティル。
まだ魔王軍にいるつもりかい?」
あの魔族がクロフォードさんの弟なのか?
って事は元は王族!?
「ははは、おもしろい事を言いますね兄さん。
私は魔王が背負う罪を分け与えられたんです。
すでに人ではなく、れっきとした魔族なんですよ」
魔族が右腕を真横にすっと差し出す。
すると右肩あたりに小さな悪魔が出現する。
「けけけけ、お前。
まさか、また家族を殺して死体を持ち帰るのかい。
なんて強欲で罪深い男だよ! けけけけけ!」
「まさか、私が欲していたのは…
この世界で一番強くて美しかった姉さんだけさ。
そう、ベアトリス姉さんだけ!」
魔族は何かに酔いしれた目で剣を自らの前に掲げて眺めている。
僕の大切だったであろう人の命をこいつが奪った…
家で見つけた写真の楽しそうな光景が蘇る。
あの日々、絶対に取り戻してやる…
「クロフォードさん!
僕…、こいつを許せません!」
「そうだねアルトっち、私も同じ気持ちだよ…
やはりベアトリス姉さんを殺したのはティル。
君だったのか。」
「クロフォードよ、もうよいか?
妾は待ちくたびれたぞ」
「すみません、女王。
これでも昔は同じ食卓を囲んだ大切な弟なんですよ。
でも、これで心置きなくやれます!」
クロフォードさんはレイピアを抜く。
「魔王の罪とは神様の恩恵と相反する力ですわ!
力の詳細がわからない状況で戦うのは危険です!」
魔王の罪ってなんだ…
シャルルは何か知ってるみたいだけど。
「ちょっとまってください、私に戦う気はありません。
エルフの女王を相手にするほど馬鹿じゃない」
と魔族は剣を鞘に収めた。
「ほう、生きてここから出られるとでも思っておるのか?」
「はい思っていますよ。
でなければこんな場所で皆さんを待っていたりはしない。
キュリオス、あれを持って来てくれないか」
玉座後方左側の扉から赤髪の子が何かを運ぶホブゴブリンと共に姿を見せる。
やっぱりあの子、魔族の仲間だったのか。
ホブゴブリンがその何かを魔族へ渡す。
魔族が被せられた布を取ると十字架に貼り付けられたエルフの女性…
それは傷だらけで動かないファリスさんだった。
「ファリスさん!!
大丈夫ですか!?」
「うっ、アルト君、無事だったみたいね…
よかったわ」
まだ息はある…、でも両手足の爪が剝がれ落ちていてとても見るに絶えない。
なんて酷い事をするんだ。
「この女、どれだけ拷問しても答えないんですよ。
よく主に教育されているみたいですね。
しかも傷の治癒速度が異常だ、そういう種の恩恵なんでしょう」
それを見たイデアがすこし前の方に歩み出る。
「おや裏切り者のエルフの姉弟じゃないか、久しぶりだねえ。
神の力を求めエルフの掟を破り塔へ挑戦した愚か者達よ。
魔族諸共ここで葬ってやろう」
イデアの右手は爆炎を纏う。
「待って!
ファリスさんは僕の大切の仲間なんだ!」
「唸れ!
イフリートよ!」
巨大な火玉が魔族達に向けて放たれ、その威力で玉座の間の窓が吹き飛ぶ。
魔族の付近に火玉が衝突し大爆発を起こした。
第1章完!!!!
すぐ第2章はじめるかside書くかまよいちう。




