021/100 蜘蛛の巣
——僕達は一時間ほどで湿地帯を抜けた。
道中幾度か魔物と遭遇したけどハナちゃんの一人舞台だった。
「ふふふ、アルトさん。
私の戦いっぷりはお気に召されましたか?」
予想外だったのがハナちゃんは回復術師じゃなかった事。
月の精霊と契約している拳闘士。
僕が苦戦するリザードをほとんど倒してくれた。
ハナちゃんは空拳という東方生まれの体術を使う。
本来素手のみで戦う事を重んじるみたいだけど…
私はホビットだからと魔力強化したナックルを装着して威力を高めている。
回復や防御魔法に加え攻撃参加も出来るなんて、さすがCランクだ。
「うん、かっこよかったよ!
後は僕達だけで問題ないから早くサクのとこへ行ってあげて!!」
「あたしもあのトカゲ二体ぐらい倒しましたよ!
ちゃんと見ててくださいよご主人様ぁー!!」
「はいはい、シャルルもかっこよかったよ!!」
頭を撫でてあげるとまんざらでもなさそうだ。
ん?
疲れで目が霞んでるのかな。
ハナちゃんがすこし透けて見えるような気がする。
「その心配はないのです、はい。
この私は月の精霊魔法【月影】で生み出された実体を持つ影です。
私の本体は最初から兄様とあの蛇女と戦っていますよ」
えっと、このハナちゃんは魔法で生み出されたコピーで…
僕達を魔物から守りながら、本人はナーガ・ラミアとも戦っていた!?
「騙すような真似してごめんなさい、です」
僕は知らないうちにまたみんなの足を引っ張っていたのか…
「こっちこそごめん!
僕が弱いばっかりに…」
もし自分のせいでサクやハナちゃんが…
「兄様も私も無事ですが、あまり戦況は思わしくありません…
あの蛇女さすがAランク、といったところでしょうか」
「そう、だよね…」
楽な相手である訳がないよな。
無事という言葉だけが救いだった。
「そろそろ月影を解いて兄様の援護に集中です!
待ってますからね、アルトさん!」
ハナちゃんの真っ直ぐな瞳。
信じてくれてる…
でも僕は…
その瞳を見失いそうだ。
「う、うん、すぐに戻って来るよ!
サクの事頼んだよ! ハナちゃん!!」
ハナちゃんの影はぺこりとお辞儀をしたまま消えた。
何がサクの事を頼んだだよ。
何がすぐに戻ってくるだよ。
無責任な言葉ばっか並べて…
きっと見透かされちゃってるだろうな。
——ポン。
頭の上に小さな掌。
「よしよしよしー。
さっきのお返しですわ、あたしのかわゆしご主人様」
「シャルル…」
「勝手の落ち込むのはいいんですけどー。
あの二人が命がけで作ってくれたチャンス無駄にしていいんですかー!」
はは、シャルルの言う通りだ。
本当に落ち込んでる場合じゃないよな。
僕が役立たずなのは今に始まった事じゃない。
立ち止まってる暇なんてないぞ、僕!
「そうだね、ありがとうシャルル!
外壁まではあと少しだ、急ごう!」
「はい!
ご主人様!!」
——僕達は日没までに王都外壁に辿り着いた。
王都は円形で外から外壁、外壁街区、内壁、城下、城という造りだ。
そして王都は陥落して以来、魔族や魔物の巣窟と化している。
内壁の内側は魔族の居城だけど外壁街区は下位ランクの魔物しかいない。
さらに日が出ている間は、ほとんどの魔物が寝ているはず。
僕は外壁の目印を探した。
秘密の入り口の真上は外壁に絡みつく蔦植物が黄色く変色しているんだ。
えっと…、たしかこの辺りに格子蓋が…
あった!
「ご主人様、秘密の入り口ってまさかこれじゃないですよね!?」
「え、そうだよ!
ここから地下水道に入って外壁街区に入る。
ちょうど家の裏にある水路に出れるんだ」
「あたしがレディーだってこと忘れてませんかー!!」
「大丈夫だよ、シャルルは飛べるから!
水に浸からずに通り抜けられるよ!」
格子蓋を開けてはしご降りる。
「せっまー!
くっさーーー!!
ぎゃー蜘蛛の巣!!!!」
シャルルが蜘蛛の糸でがんじがらめになってる…
うっ、前回通った時と様子は変わらないけど、前よりちょっと臭うな…
やっぱり魔物が住んでるからなのかな。
と、とにかく先を急ごう!
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いわしちゃんより!




