第8話
――――明け方。
カーテンの隙間から溢れる日の光を感じ、ゆっくりと目を覚ましたティリス。
どうやらあのまま眠り、そのまま朝になった様だ。
いつものなら夕食だと報せてくれる人達も、ティリスが疲れた様に眠っているので遠慮したのかもしれない。
熱もすっかり下がり調子が戻ったティリスは、バスルームで熱いシャワーを浴びた。まだぼんやりとしていた頭がスッキリとする。
脱衣室で着替えを済ませ部屋に戻る時、洗濯機に入っていたタオルに気が付いた。
昨日、熱を出した自分を、クラヴィスが看病してくれたしてくれていたのだろう。額にあてられていたタオルがそこにあったのだ。
ティリスはそれを見て、思わず笑みが溢れた。クラヴィスの優しさが嬉しかったのだ。
ティリスはこの1000年程現れなかったとされている【聖】の魔法を使える少女だった。歳は16歳。
髪は銀蒼で、サファイアの様な瞳をしている。
1000年程前にいたとされている【聖女】と同じ様な風貌で、その稀少な魔法【聖】は、魔法で唯一無二の【治癒】を使えた。
不治の病も治せる可能性もあったため、彼女にすがる人々が多い。
多い……という事は、彼女は悪意からも狙われていた。
金の成る木だからだ。
魔法に価値を見出だした者達は、彼女を拐い治癒魔法を金にしようとしていた。
彼女の容貌に価値を見出だした者達は、彼女を拐い愛玩として売買しようとしていた。
【魔法】と【容貌】、その2つを兼ね備えたため悪意は非常に多かったのだ。
それを護るのが【ゼロ】と呼ばれた警護隊。
警護、警備隊のすべてをヴォングいい、その頂点に立つ先鋭達が【ゼロ】である。
「う~ん」
ティリスは背伸びをした。
ずっと寝ていたので、身体を動かしたくて仕方がなかったのだ。
ティリスは治癒魔法を使える。だが、この魔法は万能ではなく難点があった。
1つ、すべてを治せる訳ではない。
2つ、自身には使えない。
3つ、発動すると、反動が起きる。
自身に魔法は使えないといっても、人より遥かに早く怪我は治る。今は体調に左右される事が多くなったが、数年前は掠り傷程度など、瞬時に治る事もあった程。
それを見た者達は【奇跡】だと、彼女を崇めていた。
1000年に1度に現れるか現れないかの魔法。まだまだ分からない事だらけの【聖】魔法。
ティリスは何故自分が、この【聖の魔法】を持って生まれてきたのか、日々【意味】を探していたのであった。