表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第7話 幼馴染み



 【シーウォング】社のビルは、この街ディストールのほぼ中央にそびえ立っている。

 詳しい事は社員でさえ知らない事だが、上層階と呼ばれている一定の階層からは、上層部〈幹部〉の社宅や邸宅となっていた。

 シーウォング社会長の一人娘とされているティリスも、ここのビルの最上階に近い位置に部屋を持っている。



 その部屋の何十畳とある広いリビングの窓枠に、ティリスはぼんやりと外を見ながら腰を掛けていた。

 窓からはこの街が一望出来る。魔物から護るための壁らしきモノは見えないが、目を凝らせば街の終わりが分かる。ある場所を境に民家も畑も途切れているからだ。

 広がるのは草原や荒野、森、様々である。望遠鏡を使えば海も僅かに見える。そこに栄えている港町【ダーシュ】も。

 


「眠らなくていいのか? ティリス」

 声に気付くと隣には、クラヴィスが心配そうに立っていた。

 彼は彼女の幼馴染みであり、会長の娘を護る存在でもあるゼロであった。そのためクラヴィスは、彼女の部屋には出入り出来る様に、セキュリティが設定されているのだ。

「……クラヴィ」

 彼の存在に気付き、ティリスはぼんやりと立ち上がった。

 だが、その瞬間……グラリと視界が歪み倒れそうになった。

「っ! 大丈夫か?」

 咄嗟に支えたものの、彼女の身体がやけに熱い。

 そっと額に右手を充てて見れば、やはり熱がある様だった。先程使った治癒魔法の影響に見えた。

「クラヴィの手、冷たくて気持ちいい」

 クラヴィスの右手に、まるですり寄る様にくっついたティリス。熱のせいか額には微かに汗が滲んでいた。

「少しは休め」

 ティリスの脇に手を入れたクラヴィスは、大切なお姫様を抱える様に軽々と持ち上げた。

 休めと言って素直に休む彼女ではない。だから、実力行使で隣の寝室に連れて行く事にしたのだ。

「私も……クラヴィ達の……役に立てればいいのに」

 熱に浮かされる様に、クラヴィスの胸にコツンと寄りかかった。

「ティー」

 クラヴィスは優しく優しく、愛しい彼女の名を呼ぶとベッドにふわりと寝かせてあげた。

 額にかかったほどけた髪をかきあげ、毛布を身体に掛ける。

 こんなにも弱っている彼女を見るのは、今までなかった。ヴォルフラム博士の言っていた事が頭に過った。




  『惚れた女の体調も分からないのか』




 まさに、その通りだと苦虫を噛み締めていた。

「ティー」

 疲れが出てきたのか自分がいて安心したのか、うとうととしているティリス。その愛らしい寝顔に目を細めるクラヴィス。

「ん」

 頬を愛しそうに指で撫でれば、ティリスは安堵した様子で夢の中に入っていった様だった。

 クラヴィスは彼女の額にかかる髪を、起こさない様に優しく払ってあげた。少し緩めのふわふわのくせっ毛。

 本人はこの目立つ髪の色も、このくせ毛も嫌っていたが、クラヴィスは可愛らしくて好きだった。

 そんな彼女を、なおも愛しそうに見ていたクラヴィスは、甘い甘い声で呟き額にキスを1つ落とした。





「お前が、私のすべてだ。ティリス」









 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ