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第6話



「どこか悪いのか?」

 医師に連れられ去るティリスがを見えなくなると、クラヴィスが徐に口を開いた。

 確かに血色は良くなかった様に見えた。だが、それは魔法治療のせいだろうと思っていたのだ。しかし、彼の口調や態度からしてそうではない様だった。

「惚れた女の体調も分からないのか。……フン、それで良くも一緒にいたものだな」

 ヴォルフラムは蔑む様な視線を、クラヴィスに向けた。

 誰が誰を好きかなんて知った事ではない。ただ、あの少女を好きだと自負しているのなら、しっかり見ておけと言っていたのだ。

「貴様達も貴様達だ。ティリスの力にばかり頼りやがって……命からがら帰って来るくらいなら、その場で朽ち果てろ」

 社長であるアルフォードにも一瞥した後、ヴォルフラムは全員を見据え吐き捨てる様に言った。

 一介の医師が社長にである。不敬といっても過言ではない。

 だが、アルフォード社長は暴言にも至って冷静だった。

「努力させる」

 何も感情のない表情と言葉で、アルフォード社長は答えた。

 しかし、調査に向かうヴォングからしたら、それはどんな努力だと問いたい。助けを求めるくらいなら "死ね" と言っているのだ。それに対しての "努力" とは?



「ヴォルフラム、ティリスの体調は?」

 ヴォルフラムの暴言や悪態等、今に始まった事ではない。

 アルフォード社長は気にした風もなく、背を向けて去ろうとしている男に彼女の体調を訊いた。

 ティリスの体調を一番知っているのは、主治医である彼だ。

「……ここ2、3日微熱が続いている。目眩もあると報告がある。治癒魔法の使いすぎだ。……生きて帰りやがって」

 お前等のせいだと要は言っているのだ。

 【聖女】とされている彼女の魔法を使っても、死人は生き返らせられない。だがそれは逆に、僅かにでも息さえあれば助かる可能性がある……という事なのだ。

 彼女の手を煩わせるくらいなら、生きて帰るなと言っていた。



「毒性のある、芋虫系の魔物に心当りは?」

 言うだけ言って去ろうとしているヴォルフラムの背に、アルフォード社長が言葉を投げた。

 社長であろうと態度は変えない彼が、この問いに答えるかは知らない。だが、魔物の生態にも詳しい彼ならば? と投げたのだ。

「……毒性……芋虫。サンドウォームの様な(なり)か?」

 心当りでもあるのか、口端を上げ軽く振り返った。

「心当りがあるのか!?」

 ゼロ主任のシンが、その知識に目を見張った。

 大した情報も与えていないのに、それが何かを絞りこめたのだ。

「ククッ。そうか、"アレ" で1stがほぼ壊滅か」

 ヴォルフラム博士は、その質問にはすぐには答えず、1人で納得し想像し、小馬鹿にした様子で嘲笑していた。

「おそらく "デス・クローラー" だろう」 

 皆が苛立ち始めた頃、ヴォルフラム博士は至極愉しそうに笑っていた。

「デス・クローラーだと?」

 初めて聞く魔物の名に、無口なリナルドが声を上げた。



「一見巨大な芋虫。だが、ムカデの様に無数に生えた足には、カギ爪が付いている。口の周りには触手が十数本。種類にもよるだろうが、その触手には毒性があると云われている」

 あれだけ無表情だった彼が魔物と聞き、実に饒舌に話し始めた。

「毒性は?」

 クラヴィスが問う。

「麻痺」

 そう言った彼は、さらに口端を上げた。

「生き物の筋肉を麻痺させ、ジワジワと喰らうらしい」

 想像でもしているのか、くつくつと笑っていた。

「頭からならまだイイ。だが、足先からユルリと喰われる恐怖……」

 さぞ愉しかった事だろう。そう一言呟くと今度こそヴォルフラム博士は、ティリスの消えた方向に消えたのであった。



 あれは、カイム達が快方に向かった時に詳しく聞く算段に違いない。

 あの男は何処までも歪んでいる……この場にいた全員が彼に嫌悪感を抱いたのは言うまでもなかった。






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