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第4話 【聖女】




 ―――その昔。





 魔法を操れる一族がいたと云う。

 最終戦と呼ばれる1000年程前に、そのほとんどが消えてしまった。いや、正確にはチリジリになったとされていた。

 時折、魔法を使える者がいるが、彼等の遠い遠い子孫だと云われている。しかし、それも定かではない。

 資質とも素質とも、何1つ分からないのであった。



 魔法には、7つの属性があるとされている。

 基本は【火】【水】【風】【土】の4属性。

 魔法を使う者の大半が、この4属性のいずれか1つを持つ。

 その中で僅かに1%が【光】と【闇】の属性を持つのではと云われていた。



 そして、尤も希少なのが【聖】属性である。

 唯一無二と云うほど稀。【治癒魔法】を使えるらしいと噂されている。

 この1000年のも間、聖属性を持つ者は現れていなかった。

 





 ◇*◆*◇





 

 治療室の自動扉が、ゆっくりと開いた。

 その瞬間、ピンと張り詰めていた周りの空気が、柔らかいモノへと変わった。その扉から、小柄の少女がふわりと出て来たのだ。

「ティリス様!」

 外で待っていた医療スタッフの者達が、気遣う様に駆け寄り、その美しく可憐な姿に一瞬息を飲む。

 


 この世で唯一、銀蒼の美しい髪を持ち、サファイアの様な綺麗な瞳。

 ふわふわと緩やかに波をうつ髪に、クリッとした瞳。背は低く、儚げな雰囲気を持つ美しい少女であった。

 彼女の名は【ティリス=リックバーグ】

 このシーウォング社の会長の愛娘とされており……【聖女】ではと、まことしやかに囁かれている存在である。



「……治療が終わったわ」

 ティリスは、辛そうに口を開いた。

 顔色は青白く、あまり良くなさそうに見える。

「大丈夫か? ティリス」

 クラヴィス=アーバンは、心配そうに彼女の頬に触れた。

 触れた頬は、微かに熱を帯びている気がした。倒れてしまいそうな程に、か細い彼女。治療を受けていた仲間よりも、彼女の方が無理をしていないかが心配だったのだ。

「……ごめんなさい、一人……救えなかった」

 俯きティリスはポツンとそう言って、唇を噛み涙を溢れるのを堪えていた。

 治癒魔法も万能ではない。間に合わず助からない事もあるのだ。彼女もそれは知っている。しかし、最後の砦となっている自身の力が及ばなかったと嘆いていたのだ。



 世間は、彼女が心を痛め嘆いている事など知らず、一部の人々はそれを許さなかった。治癒魔法を使える彼女を勝手に【神子みこ】や【聖女】と崇め、何でも治せる存在だと思い込んでいるのだ。

 だから、"助からなかった" のではなく "助けてくれなかった" と責め立てる。

 その全てを受け止め、自分の力不足だと嘆く彼女は、日に日に心もすり減っている様に見えた。



「お前のせいじゃない」

 クラヴィスは、ティリスの身体を優しく引き寄せた。

 腕の中に入った少女は、余りにも小さい。このか細く小さな彼女が、無責任な人々の命を支えているのである。

 クラヴィスは、誰が決めたか分からない、この "役目" を止めさせる事が出来れば……と願う。無償で救って当然と騒ぐ者達を、何度殴りたいと思った事か。

「あなたのせいでは、ありませんよ」

「そうだ」

 側にいたゼロの仲間。ウル=ゼペット、リナルド=ケーニッヒも同様に慰めた。

 助からなかったのは彼女のせいではないと、充分理解しているからだ。最後の最期まで、力を尽くしてくれた事も知っている。だからこそ、彼女が罪の様に背負う事などないのだと。



「ありがとう」

 ティリスは顔を上げ、悲しそうに笑った。

 慰めてくれる皆に感謝し、心配を掛けない様に笑ったのだ。例え自分のせいだとしても、責め立てたりしない事はわかっている。

 言葉を掛けてくれる皆に、大丈夫だと笑って見せた。

「ティリス様。部屋で少しお休みになられては?」

 治療に同席していた医師の1人が、ティリスに声を掛けた。

 治癒魔法を使うと、体調を崩す事もあるからだ。

 


「大丈夫よ」

 ティリスは微笑み、心配してくれた医師にお礼を言っていると―――。

 同じく扉から、アルフォード社長の姿が現れた。

 ティリスが治療している間、口の聞ける様になった者達から情報を得ていたのである。

「社長。ヴォングはなんと?」

 ゼロ主任シンが訊いた。

「触手の生えた、強大な芋虫の様なモノに、次々と襲われたらしい」

 社長が目を覚ましたヴォングに聞けたのは、ザックリとした情報のみだった。

 怪我自体はティリスの治癒魔法で完治したとはいえ、気力や体力まで戻った訳ではないのだ。まだ、意識は朦朧としていた。



「次々と?」

 眉を寄せたゼロヴォングのウル。

 次々とと云うのだから、1匹ではなく何匹かがいたと云う事。単独行動する魔物ではなく、集団行動するのか。

 或いは、巣窟にでもなっていたのか、定かではなかった。

「カイムが見たのは2匹。他の者が見たのと同体なのか否か」

 目を瞑り、アルフォード社長は溜め息を吐いた。

 厄介な事にならなければイイと、思っている様だった。

 ただでさえ、近年魔物が増殖しているのだ。未知なる生き物に対して、対処の仕方などあってない様なモノ。皆無といってもいい。

 そんな中で、実力者の1stヴォングがヤられる程の魔物が現れた。脅威しかないのだ。



「その魔物……多分、"毒" を持っていると思う」

 治療にあたっていたティリスが、2人の会話に割り込んだ。

 何の毒かまでは分からないが、治療をする時に見たカイム達は、怪我による意識の混濁だけではなさそうに見えたからだ。

「毒だと?」

 社長は眉根をさらに深く寄せ、皆の表情も険しくなった。

 ただでさえ、厄介な魔物が毒を持っているとなると、討伐のやり方次第で被害が変わる。毒の種類によっては、斬り倒せばイイと云う話ではなくなるだろう。

「まだ、検査が終わっていないから、何の毒かは断定は出来ないけど……カイム達の血液から微量の毒の陽性反応が出たわ」

 簡易的な検査では、毒に対して陽性反応が出たのだ。

 その毒が命に係わるモノなのか否かまでは、まだ検査中であった。

「芋虫の魔物、毒」

 ウルは考える様に、呟いていた。

 過去に自分が対峙した魔物の中で、そのような魔物はいただろうかと。

「サンドウォームみたいなヤツなのか?」

 リナルドがウルの言葉を拾った。

 【サンドウォーム】

 "サンド" と名が付く事から、主に砂に潜む芋虫の魔物である。砂漠には良くいるポピュラーな魔物だ。ただ、ヤツは毒性はない。

 時折、魔物達は変態する事がある。今日出会った魔物が、次には変態や進化している事もあるのだ。新種に至っては、日々生まれているのかもしれない。



「ここで考えていても仕方がない。いずれ、対峙すれば分かる」

 アルフォード社長は疲れた様に、1つ溜め息を吐いた。

 この街【ディストール】からはまだ遠い所とはいえ、地中を這う魔物は厄介である。

 城塞と化したこの街の壁も、地上にしても地下にしても十数m程しかない。

 壁以外にも対策は講じてはあるが、その【芋虫の魔物】に効く可能性は皆無だ。万が一にでも、その壁の下を潜って来れたとしたら、街への侵入は容易いだろう。

 対策を練るにしても、一番は魔物を知る事だ。いずれ、また誰かが遠征に行く事になる。





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