第2話
1度は滅びかけた世界も、何百年と重ねれば再び元には戻る。しかし、いつの世も魔物や妖獣は滅びず、人々を怯えさせていた。
警備を雇えない、自衛でしか守れない村や小さな町は、こうやって人知れず消えていたのだ。それを調査し城塞都市と化した【ディストール】へ人々を移させるのもまた、彼等【ヴォング】の役目だった。
「見事な剣技ですね……彼といると死神が招かない」
他の場所を見に行ったクラヴィスと、入れ替わる様にまた青年がやって来た。
眼鏡をかけ長い髪の毛を、1つに束ねた優しい顔立ちの20代の男。彼もまた【ゼロ】の一員である。
「……お前の方が、近くにいなかったか……ウル?」
ゼロの主任、シンは目を眇めた。
距離からしたらクラヴィスより、この飄々とした男、ウル=ゼペットの方が近くにいたハズだった。
なのに、何故お前が先に動かない? と。
「私の "コレ" よりも、彼の剣の方が先に動けるでしょう?」
ウルは腰に折り畳んで引っ掛けている、鞭を軽く叩いて見せた。
愛用している対魔物・魔獣用の鞭 "リームウィップ" である。沼地に棲息する "リームネーク" という蛇の皮を、特殊加工して造られた武器であった。
魔物と魔獣……その違いは手足の本数の違い。
基本、四足歩行なら【魔獣】それ以外は【魔物】
レイスの様な、魔法や魔法に似たモノを使う魔物はまとめて【妖魔】とヴォング達は呼んでいる。
先程のプリートグリスリーは四足歩行なので "魔獣" だ。
ただ、詳しく分からない者達からしたら、全て "魔物" である。
「もとから、動く気がない様に見えたがな?」
フレモント主任が言えば
「考え過ぎですよ」
ウルが、少しずれた眼鏡を直しながら笑った。
だが、真意は分からない。
魔獣に襲われかけながらも、わざと動かなかったゼロ主任、その様子を静観していたウル……どっちもどっちである。
「……主任」
2人がそんなやり取りをしていると、この調査隊、最後の1人リナルド=ケーニッヒが無表情で目の端に来ていた。
「そっちも……か?」
「酷いモノですよ」
リナルドは首を横に振った。
ゼロ主任の反対側を見て来たリナルドは、あまりの惨事に眉を寄せた。
生存者は勿論いない、だが……屍はあった。明らかに魔物達の手による物だと分かる傷が見えた。逃げ遅れたのだろう。いや……そもそも逃げられるだけの手段が、あったのかも分からない。
「……そうか」
ゼロ主任は一言、そう呟くと任務は終わったと帰路への準備を皆に促すのであった。