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金塊の夢  作者: 平谷 望
第二章 大好きな貴方に
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第九十六話 黒い狼と震える魔王

「おぉ、何だか強そうじゃねェか」


 我をジロリと見たストライクはそう言うと、グラスの中身を一息に飲み干した。ほんのり香る残り香からして、少々強めの酒らしい。この男は一応怪我人であるので、鎮痛効果を期待した酒なのだろう。

 ストライクはカウンターに右肘をつきながら我らに向かって振り返っており、左の腰元には血の付いた革の鞘がある。 


 破れた服から覗く傷まみれの肉体は、剣士と名乗れる位には引き絞られていた。線は細いが、それなりの努力を感じる筋肉である。我はまばたきを二つする間にそう考察して、ゆっくりと口を開いた。


「……まあ、手を抜いたとしてもそこらの凡夫には負けまい。自慢ではないが、幾らか戦場を歩いたことはある」


 淡々とした我の言葉を受けて、ストライクはどうしてか目を輝かせた。その後ろでオズワルがにやりと笑みを見せて、カウンターのロッシュが驚いた顔をし、大人しく椅子に座っていたメリルもどうしてか目を輝かせた。


「そいつァ面白ェ。期待の新人って訳か」


「勝手に期待をされても困るのだが――」


「――じゃあよ」


 我は冷静に謎の期待を押し退けようとしたが、それよりも先にストライクは笑う。獣のような、好戦的な笑みである。続けてストライクは椅子から降りると、ゆっくりと両手を拳に握った。

 ……待て待て、どういうことだ。我の隣のリサは困惑と共に硬直し、組合の人間はため息を吐いた。あまりの急展開に当惑する我に大して、ストライクは言った。


「オレと、サシで勝負してくれよ」


「断る」


 我は即座に断った。どうして冒険者になった当日に、同業者と殴り合いの喧嘩をせねばならぬのだ。それも組合の中であり、相手は怪我をした血塗れの男である。まさしく獣の風格を見せるストライクは、我の言葉に「けっ」とつまらなそうな顔をすると、拳を解いて椅子に座った。

 ……いきなり喧嘩を吹っ掛けるような奴なので、言葉を聞かずに殴りかかってくるだろう、という我の予想は見事に裏切られ、我は更に深い困惑の渦に居た。


「中で物ぶっ壊したら報酬からさっ引くよ」


「そいつァマズイな。今のオレは、依頼の違約金でお腹一杯なんでね」


「もうちょい簡単な依頼受ければ良いんじゃないのか?」


「それじゃあ強くなれねェだろうが」


 我らを置いてきぼりに会話をする三人を呆然と見ていると、見かねたのかメリルがため息を吐いて、我らに口を開いた。


「貴方達の反応は正解よ。そいつは頭のネジが全部外れた脳味噌筋肉の戦闘馬鹿だから、強そうな男を見ると片っ端から喧嘩売っちゃうの」


「えぇ……?」


「うっせェな。マッチ売りは黙ってろ」


「ハァ!? ちょっとあん……貴方! 撤回しなさいよ!」


 メリルがストライクの発言に食い付いた。メリルの言葉が事実であり、これまでに出た情報を組み合わせると……どうやら、ストライクという男は中々の戦闘狂のようである。常に自分の力量を越えた依頼を受けてはこうして血まみれで帰ってきて、依頼失敗の違約金で首が回らない。その上、強そうな男を見かけると今のように喧嘩を売って……と、こうして並べればどうしようもない男だ。


 勿論、情報の断片を繋いだだけなので、その他にも色々とあるのだろう。だが、こうして見せた凶暴性だけでこいつは充分に問題のある男である。にしてはさらりと我との喧嘩を諦めたことが気掛かりだが……まあ、聞けば分かるだろう。

 我はメリルと言い争うストライクの横顔に声を掛けた。


「おい」


「んァ? なんだよ。つうかアンタの名前聞いてねェぞ」


「我もお前からは名乗られていないがな。……我が名はヴァチェスタ。ヴァチェスタ・ディエ・コルベルトである」


「……オレはストライク。ただのストライクだ。ヨロシクな、後輩」


 ……こいつの後輩というのはあまり気が進まぬ。が、そこはどうあがいてもしょうがない部分である。我は感情に折り合いをつけて、ストライクに一つ質問をした。


「……お前は、どうして我に向かってきた。そこの女が言うには、強い男に喧嘩を挑むらしいが、理由が知れぬ」


「あん? ……んなの、決まってんだろうが。オレは強くなりてェんだ。世界最強を目指してんだよ。だから魔物の討伐依頼受けまくって、オレより強そうなヤツに喧嘩吹っ掛けてんだ」


 ストライクは血に濡れた両腕を組んで、野性的な笑みで言い放った。その言葉にオズワル達は呆れ顔になる。……確かに、この男の言ったことは馬鹿馬鹿しい。なんとも呆れる理由で命を危機に晒している。ともすれば自殺行為か狂行に近い。

 だが、我は周りに同調して呆れ顔をすることができなかった。リサもそうである。リサは我の過去を世界で唯一詳細に知っている。


 我は、この男と同じことをしたことがある。ひたすらに戦いに取り憑かれ、夥しい数の戦いを繰り返し、その度に死にかけて、それでもまた強者に挑み続ける。そんな事を、二年近くも繰り返していた。故に、我は真剣な顔になった。馬鹿にする感情など湧いてこない。むしろそこには、親近感さえあった。

 だが、ストライクは我の様子に気がつかず、堂々と言葉を続けた。


「オレはな、弱ェんだ。どんだけ努力しても、そこらのチンピラ位しかやれねェ。根本的に戦う才能がねェんだ。けどよ……生き残ることだけなら自信があるんだ。どんなにボコボコに潰されようが、オレは生き延びる。生き延びれば、オレは一つ負け方を知ったって事になる。あとは同じ負け方をしねえように繰り返すだけだ。……オレは少しずつ強くなる。負ける度に負けづらくなる。死にさえしなきゃ……オレはいつか最強になれるってワケだぜ」


「ヒャヒャヒャ……その内ポックリ死にそうなもんだけどねえ。本当にしぶとさだけは一流な男だよ」


「へっ、だろう? ……っと、傷が開いてきやがったなァ」


 我は言葉が出なかった。ほとんど、若き日の我と同じ考えである。まるで生き写しのようだ。黒髪黒目の人間という時点で、一つですら共通する要素はないが、この男は人間という種族で我と同じような事をしているのだ。

 魔大陸と違ってここは強力な魔物こそ少ないだろうが、それでも充分な無謀さである。


 久々に感心という感情を人間に抱いた我だったが、その対象であるストライクは苦笑いで自分の脇腹を見ていた。腹部にあるズタズタな服には赤黒い血液が滲んでいた。よく見れば……大きな歯形が見える。どうやら何かしらに噛みつかれた傷らしい。


 その様子にロッシュはため息を吐いて、「ちゃんと止血と消毒しておけよ」と言った。メリルは血が苦手なのか口をすぼめてきゅっとした顔をしていたが、直ぐに凛とした顔を取り繕って、「今回は何に手を出したのかしら?」と聞いた。


「あん? あァっと、なんだったか……あ、そうだ。シラカミとかいうヤツの討伐依頼を受けた。アイツら、足が早すぎなんだよ。白すぎて見えねェし、剣がこれっぽっちもあたりゃしねェ」


「え゛っ? ……オホン。貴方、本当に頭のネジが飛んでいるわね」


「おいおい、流石に無茶だろ。本当によく生きてるな」


「アタシも生きて帰ってくるとは思ってなかったよ。まあ、いつも通りって訳さ」


「……白狼か」


 この男の無謀さは本物のようである。そこらの魔物に手を出したというのならまだ分かるが、カトラス曰く特別な技能を必要とされる白狼の討伐を一人で受けるとは……ロッシュの言った通りに、生きているのが不思議である。

 ……というかそもそも、どうして冒険者組合に白狼の討伐依頼があるのだ、と我は思った。それについてオズワルに問うと、オズワルはへっ、と鼻を鳴らして頬にある刺青を掻いた。


「白伐ちが狩ってる分だけじゃ、これっぽっちも春が来ないからさ。大白狼ってのが居るせいで冬が強まって、白狼がぽんぽん出てきてる。それを狩っても根本的にゃ何も変わってないもんだけど、狩らにゃあアタシらは氷漬けさ。そんな訳で白伐ち達が総出で出張ってるけど……それでも手が足りないってんで、緊急の依頼が組合に流れ込んできたのさ」   


 ほら、あれだよ、とオズワルは枯れ木のような指で依頼書を纏めたコルクボードを指した。見れば……確かに一つ、紙の質が違う依頼書がある。他のものよりも質の良い羊皮紙が使われているようだ。目を凝らせば、確かに『国家指定有害魔物の討伐依頼』と銘が打たれていた。その右上には『常設依頼』と『違約金無し』の文字がある。……少しばかり難しい単語であったが、今の我は文字に対しての耐性がある。読む分にはなんとかなるのだ。我は少しだけ得意な気分になった。


「一匹狩る毎に金貨一枚と銀貨二十五枚……破格っていったら破格なもんだけど、命が幾つあったって足りないだろうねえ。金に困った貧乏冒険者なんざ、一瞬で死ぬよ」


「オレは生きてるけどなァ」


「生きてるお前が異常なんだよ……てかさっさと止血しろって」


「もう止まったぜ?」


「はぁ? いや……なんもしてないだろ」


「筋肉で出血止めてんだよ。これくらいできねェと簡単に死ぬぜ?」


 ストライクの言葉にロッシュはため息を吐いた。相手にするだけ損だと思ったのだろう。だが、実際にその程度は出来ないとストライクの言った通り簡単に死ぬ。いくら魔族とはいえ、失血によるショックは危険であるし、そもそも大量出血を起こすと再生力が著しく落ちる。直ぐ様に止めなければ戦闘は続行できぬ。


 そんな事を思う我の隣で、リサが金貨一枚と銀貨二十五枚という単語に一瞬キラリと目を光らせ、ストライクの有り様を見て直ぐ様にそれを手放した。うむ、賢い判断である。どう考えたとしても、我とリサでは白狼を伐つことは出来ぬ。死ぬだけだ。我がうまく囮として動ければ不可能とは言い切れぬが……そもそもうまく囮になるのが不可能である。

 白狼……いや、魔物や獣全般に言えることであるが、奴らは弱い者から攻撃していく。我とリサが居ればリサが真っ先に狙われるのだ。それを庇おうにも、我は寒さによる運動能力の低下で固まっている。無理だ。


 ちなみに、と思って我は他の依頼書を見たが……基本的に、魔物の討伐依頼しかない。もしくはこの街の防壁を越えて薬の材料を取ってこいだの、雪ウナ……雪ウサギとやらを何匹狩って持ってこいだのと書いてある。

 ……そう言えば、ミルドラーゼの依頼板には魔物の討伐依頼が少なかった。そのほとんどが雑務というか、簡単な依頼である。


 恐らく、単純に採取の依頼は砂漠なのでほとんど無いのと、ミルドラーゼに寄ってくる魔物は国の兵士が倒してくれること、ミルドラーゼが建国してまもないので魔物を倒して何かをする余裕が無かった、というのが原因だろう。


 ……そんな事を思っていると、ゆっくりとストライクが席から立った。血まみれ体を危なっかしく伸ばして、ふぅ、と息を吐く。


「まァ、オレは依頼の失敗報告が出来たし、家に帰るとするか。血流しすぎて寝みィんだ。酒の代金はツケといてくれよ」


「何度アンタから失敗報告とツケの話を聞くことになるんだかねえ……ほら、さっさと行きな。部屋ん中が臭くてしょうがないよ」


 へいへい、とストライクは言って、続けて我を見た。そして何故か意味深な笑みを浮かべると、「じゃあなァ、後輩」と言い残して、片足を杖にしながら組合から出ていった。ストライクが出ていくと、オズワルは目線でメリルに何か指示をする。メリルはそれを受けとると、慣れた手つきで組合の窓を開けた。途端に店内の空気が循環して、ぶわりと新鮮で寒冷な空気が流れ込んでくる。我はそれにぶるりと身震いをひとつした。


 先程からこの組合は暖炉の影響で温かく、外の寒さから解放されていたのだが……仕方あるまい。腕を抱えて二の腕を擦る我に、カウンターから声が掛かった。


「……えーっと、ちょっといいです……いいか?」


「……何だ」


 声の主は、白髪混じりの男、ロッシュである。ロッシュは持っていたペンをカウンターに置いて、緊張した面持ちで我を見ていた。船では何だか焦った顔を張り付けていたので、微妙な新鮮さがある。


「……俺達って、船の上で会ってる……よな?」


「うむ。我は何度かお前と顔を合わせた。……話した記憶はないがな」


「ああ、まあ……だって、王族とオーガスタ商会の主人に話し掛ける訳にはいかないだろ? なんでか分からないけど騎士団の団長も隣に居るし……」


 まあ、分からない話ではない。一般人……ああいや、この男は一応貴族なのか。そこらの人間は我を含めた面子を相手にすることは無茶というものだろう。我自身も気になっては居たが話をするつもりは特に無く、加えて隣にバジルが居た。

 ロッシュと会話をすることが無かったのは必然というやつである。ロッシュの言葉に、カウンターのオズワルは、へえ、と声を上げた。


「アンタら、会ったことがあるのかい。それにアンタはオーガスタの会長に面識がある、と」


「うむ。我は奴を知らなかったが、船の上で奴にナンパとやらをされた」


 我が有り体にそう言うと、オズワル含め組合の全員が驚いた顔をした。メリルなど口まで開いている。事情を知っているリサは何だか浮かない顔であるが、我の責任ではない。そんな顔をされてもどうしようもないのだ。


「あんたから口説いたって訳じゃなかったのかよ……嘘だろ……?」


「あの女がナンパっていうのは想像も出来ないねえ……確かにアンタは変な格好なのを見なけりゃ顔は良いみたいだけど」


「南から来たが故に寒さに弱いのだ。これだけ服を重ねても寒さが貫通している」


「絶対嘘よ……だって、あのオーガスタよ? 女一人で商会を立ち上げて、十年と少しで世界に名前を広げたアルベスタ1の大豪商が……ナンパって」


「そう言われたとしても、我は嘘を吐いていない。ありのままの事実を述べているだけである」


 我の言葉に、メリルは面食らった顔をした。分かってはいたが、バジルは相当に腕の立つ商人である。女傑だのなんだのと周りに呼ばれていて凄まじく恥ずかしい、と実際に奴の口から聞いたこともある。

 自分の金があればこの世のほとんどが買える筈、と確かな表情で言っていた。……その直後に『それでも、あんたの愛は買えんけどなぁ?』と面倒な絡みをしてこなければ多少説得力があったのだが……それが我にとってのバジルである。


「貴方……自分がどれだけ凄いか分かってるの? 他の国の王様だってあの人が圧力を掛けたら顔を青くするのよ? 逆玉の輿所の話じゃないわ」


「……そんな話もしていたな。自分が女だからと馬鹿にしてくる王が居たから、少しからかってやっただけだ、と言っていたぞ」


 そのからかいで王が顔を青くする、という一幕を、バジルは付け加えなかった。どういう理由かは大体察しがつくが……そう考えれば確かに凄まじい女である。

 ……が、その関係は残念ながら断たれている。恐らく奴は我の顔も見たく無いであろう。


 今頃は我の事を危険視しながら、部下の失態を挽回するために東奔西走している筈だ。我が色々とぼかしながらそう言うと、メリルは何だか安心したような顔をした。オズワルは勿体無いねえ、と笑い、ロッシュは首を傾げている。

 そして、我の隣に居たリサは途轍もなく呆れた顔をしていた。どうした、と聞くと、リサはため息と共に口を開く。


「……あんた、恋愛ってものを舐めすぎ。まあ、あんたのことを考えたら当たり前かもだけど……。いい? ああいう恋愛に不器用な女っていうのはね、一度恋しちゃうとどこまでも追ってくるもんなの」


「……いや、奴に限ってそれは無いだろう。損得リスクの管理は商人にとって必須の技能である。そして我と関わることは明らかに損――」


「そういうのは関係無いんだって」


「……」


 リサは確信を持ってそう言った。我には何が何だかさっぱりだが、恋愛の経験など微塵もない我よりは、女のリサの方が色々と物を知っているのだろう。

 我は何だか釈然としない気分だった。我は、そんなものだろうか、と言おうとしたが、それよりも先にびょお、と外から冷たい風が入ってきた。


 その冷たさに体温を奪われ、我は冷えた爬虫類の如く硬直する。固まる我に目もくれず、オズワルが「そろそろ閉めておくれ」とメリルに言った。


「ババアに北風は天敵ってやつさね」


「……少なくとも我よりはマシである」


「若者が何言ってんのさ。二、三日ここで過ごしてりゃ嫌でも慣れるよ」


 震える我を見たリサが、「そろそろ服とか買っとかないとあんた死にそう」と言った。死にはしないが、活動停止の状態に陥ることになる。我は震えながら、「服より先に宿を見つけねばなるまい」と答えた。服があったとて、宿がよく冷える場所にあれば意味がない。付け加えて早めに宿を取らなければ、前回の二の舞になりかねぬ。


 そんな我らを見て、オズワルが口を挟んできた。


「アンタら、宿を探してるのかい?」


「あ、はい。……あては特に無いですけど、人伝いに見ていくしかないかな、と」


「ヒャヒャ……そんな事してたら文字通り日が暮れちまうさ。……アタシが一つ、知り合いの宿を教えてやるさ」


「えっ?」


「……本当か」


 我がそう言うと、オズワルは鼻を鳴らした。シワに包まれた褐色の瞳が、昔を懐かしむような光を浮かべる。


「本当ならこんなお節介は焼かないんだけどねえ……アンタら二人はあのガキの推薦ってやつで、アタシを頼ってきたんだろう? それを無碍にした挙げ句凍死なんてされちゃあ、アタシがあのガキに斬り殺されちまうよ」


 本当に面倒だねえ、とオズワルは愉快そうに笑って、言葉を切った。一瞬湧いた静寂に、組合の奥の暖炉の薪が弾けた。パチッ、と威勢良く音が響く。


「『埃星の箒』って宿屋がある。そこの主はアタシに恩があるからね。アタシの名前を出せば、誰が相手でも泊めてくれるはずさ」


 金は働いて工面しな、とオズワルは笑って、続けて宿の場所を告げた。幸い、ここからさほど離れていない。通りが二つ分の距離である。十数分でたどり着く事が出来るだろう。

 我とリサはオズワルに礼を言った。またしても名前を借りて前に進む形になったが、利用できるものは利用するべきだ。何より、この寒空で宿を探して練り歩くなど我にとっては地獄である。


 礼を言った我らは、早速宿を目指すことにした。ずっと腰かけていた椅子から立ち上がり、その用件を伝えて組合の出入り口に立つ。ちらりと振り返った先に、我に何か言いたげな視線を向けるメリルが居た。が、面倒である。面倒な上、我は寒い。さっさと暖かい宿に向かいたいのだ。余程急を要する話ではない筈だ。後日に聞けば良いだろう。


 ではな、と言って組合を後にした我は、続けて組合の外の寒さに顔をしかめた。空を見れば、未だに雪が降っている。いい加減にしてほしいところである。リサは至って平気そうだが、羨ましい限りである。

 我らは雪の降りしきる街に出て、新たな目標である宿へと向かうことにした。


「……嗚呼、寒い……」


「なんかもっと寒くなってる気がする……日が落ちてきてるから?」  


「かもしれぬな……」


 骨の髄まで染みる寒さに、我は内心で、こんなものに二、三日で慣れる訳が無いだろう、と先刻の言葉へ愚痴をこぼし、ゆっくりと歩き出した。

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