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金塊の夢  作者: 平谷 望
第二章 大好きな貴方に
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第九十二話 魔王の頼み事

 思案するカトラスを前にして、我は一つ聞かなければならないことを思い出した。これを聞かねばこれから先、我がどう振る舞えば良いのかが分からなくなってしまう。

 我は「おい」と言って、カトラスの意識をこちらに向けた。


「どうした?」


「これから先、我はどう動けばいい。我としては市井を歩いて人手を探したいところだが、そうもいかまい。文官武官、並べて騎士共も、我が悠々としているのを許すことはないだろう」


 無力とはいえ、我は魔王である。この尻尾が全てを示しているのだ。呑気に組合だの宿だのを探すことは難しいだろう。実際に行動に移せば出来ないことではないが、民を守る役目を持った騎士達にとって、あらゆる悪の根元と言える我を野放しにすることは許容出来ぬだろう。


 我の質問に、カトラスはそういえば、といった顔をした。だが、続けて軽い笑顔を浮かべる。


「何、気にすることは無い。好きに我がアルベスタを歩けば良い。あぁ、ただ……魔王だと言い触らすのは止めておいた方がいいだろう。君にとっては馬鹿げたことだろうが、一応言っておくぞ」


「……お前は馬鹿なのか? 周りにはどう説明するつもりだ?」


「そのままだ。まさか、君をずっと城に置く訳にもいかないだろう? 一番()いのは君を国の外へ追い出し、知らぬ存せぬといった態度をすることだが……これにしても、魔王をみすみす逃がしたと言われてしまえばその通りだ」  


「……まあ、そうだろうな」


 ……我は所謂、爆弾のような物なのだ。居るだけで恐怖を与え、爆発すればただでは済まない。だが、カトラスは相変わらず、童のように笑っていた。立派な白髭が吐息で揺れて、微かに白い歯が覗く。ならば、と堂々とした声がカトラスの腹の底から飛び出した。


「もう、しょうがあるまい。進むも退くも結果が変わらないのならば、堂々と進む。それだけの話だ。お前は城下をひっそりと歩き、我は他国に何の事だかとしらを切って笑うのみだ」


 何、安心しておけ、とカトラスは言った。


「魔王ヴァチェスタ。君はまだ若い。そして人間ではない。こうしてガミガミドロドロと唾を飛ばす人の王との外交は、同じく人の王である私に任せておけ。意外だろうが、私は嘘が得意なんだ」


 にいっ、と笑った様子から、我はカトラスなりの覚悟を感じた。我はその笑顔に、色々な言葉を投げつけたい気分であった。一国の王としてあまりにも軽率だとか、一番良いのは我を殺すことだろうだとか、そんな台詞が空回りした。

 だがきっと……この男は自分の言葉を曲げないだろう。我がここでどれだけの事を言ったとして、柔らかくおさめてしまうだろう。そんな予感があった。


 だから我は渋い顔で奥歯を噛み……ただ一言、助かる、とだけ言った。ここは、カトラスの厚意に甘んじる他ない。そうしなければ、我はろくにアルベスタを歩くことさえ出来ないのだ。

 我の顔を見たカトラスは理由も無く頷き、笑顔で口を開いた。


「気にするな。君はただ、生き急げ。人生を走るのは若者の特権だ。老い先短い私は、君のような若者に道を譲るのが好きなんだ」


「……まだ充分、現役を名乗れる年だろうが。老い先だとかは、あと十年経ってから言うことだ」


「ハッハッハ、その台詞を君が言うのも、まだ十年早いだろう?」


 思った通り、押しても引いても無駄である。我はため息を吐いて、流れに任せる決断をした。これはもう、我がどうこうする問題ではない。我は早々に諦めて、次にどうすれば良いのかを聞いた。


「……我が自由に行動して良いというのは分かった。だが、これからどうすれば良いのだ? ここから回れ右をして、一直線に城を出るというわけにはいかぬだろう? ……それに、我には連れがいる。リサという女だ。奴とも話さねばならぬ」


「ああもちろん、分かっているとも。リサという女に関しても、充分既知だ。魔王ヴァチェスタ……君は取り敢えず、一晩をここで過ごすといい。外は見ての通り真夜中だ。子供どころか大人さえ眠りにつく時間なのだから、宿屋も開いている場所の方が少ないだろう」


 カトラスの言葉につられて左側を見ると、曇りガラスには一面の黒があった。見るからに真夜中、それも深夜の時刻である。今宵は新月か三日月の筈なので、月明かりもどこか乏しい。

 確かにこの時刻では、宿を取るのは難しいだろう。


 まさか魔王である我が人間の城で一晩を明かすことになるとは予想もしていなかったが、今晩はそれ以外の選択肢が無いように感じる。間違いなく城の中は気まずく、給仕や騎士達に至っては恐らく眠れたものではないだろう。

 そんなことを思う我に、カトラスは朗々と口を開いた。


「部屋の案内は執事に案内をさせよう」


 さてさて、とカトラスは佇まいを正し始めた。カトラスはこれから、我との問答やその処遇について、自らの家臣達に説明をしなければならない。その事については任せておけと言われてはいるが、やはりどことなく居心地が悪くなった。

 だが、佇まいを直すカトラスを見て……我は一つだけ思い出した事があった。いや、思い出したというより、思い付いていた、と言うべきか。


「……おい」


「うむ? 何だ?」


「――一つだけ、(あらかじ)め頼んでおきたいことがある」


「……言ってみよ」


 面白そうな顔をしたカトラスの勘の良さに辟易しながら、我はゆっくりと口を開いた。



 ―――――――――――――



 我はため息を一つ吐いた。続けてゆっくりとベッドへ寝そべる。久々に両腕を広げて、我は天井を見上げた。


 我はカトラスに一つ頼み事をした後、酷く緊張した様子の執事に連れられて、王城にある客室に通された。廊下を見た限り同じような部屋が幾つかあるように思えたが、内装は王城内に相応しく豪勢なものである。

 柔らかいベッドに始まり、質の良い長椅子ソファー、広い浴室、良くわからんが観葉植物のようなものもある。そして何より、テラスは無いが窓があった。開くことの出来ない形式の物だが、覗いてみれば遥か下にポツポツと灯りのある街並みがある。


 そこら中の家が煙突から煙を吐き、やはり雪が止まない。分厚い雪雲に絡めとられた月光が、雲に透けていた。どうやら新月ではないらしい。じっと夜目を凝らすと、街は中々に広く、この城を中心に円形の広がりを見せているようである。遠くに高い防壁があって、街には恐らく城を中心に十字の大通りがある。角度的に他の通りは見えぬが、こういった作りの国は大体そういうものなのだ。


 その他に目立つものと言えば……一つだけある。角度が悪いので窓に近づいて横を見なければ視界に入らないが、この国には中々に巨大な時計塔がある。鋭く尖った時計塔は、時計の部分が分かりやすく光っており、現在時刻――十一時五十分を指し示していた。


 ……とまあ、そんな具合に質の良い部屋に通されるのは、気分がいい。しかし、それまでの過程に不躾な視線を幾らか受ける羽目になったので、総合するとあまり喜びというものが無い。猜疑と疑心の目を受けることになるとは分かっていたが、当然気分が良くなかった。 

 とはいえ、慣れてはいる。直ぐに忘れるだろう。


 まあ、そんなことはどうでもいい。カトラスは謁見の間で、我の荷物をこの部屋に届けると言っていた。それに続けて、食事も部屋に届けると。時間で言えば夕食を過ぎて夜食の領域だが、夕食の時間、我は手足を固めれていた。しょうがないことである。

 荷物を受け取り、食事を摂ったら……まあ、暇であるな。リサの部屋に出向いてもいいが、人間には少しばかり眠い時間帯だろう。


 我は配慮の塊のような男なので、夜中、女の部屋に押し掛けるような真似はしないのだ。話すとすれば明日の朝である。明日に朝食を戴いて、それで王城からはしばらく離れることになる。

 我は雪の降る城下町を歩き、宿を見つけ、冒険者組合を目指す。店主の言っていたオズワル支店を見つけたら、そこで適当に冒険者として依頼をこなし、ミルドラーゼという前例にならって伝手を見つけ……というのが大まかな流れだ。


 明日はとにかく宿を見つけるのが先決である。建国まもないミルドラーゼでは、我の美貌と気品のせいでまともに宿を見つけることが出来なかった。だが、ある程度大国と言えるアルベスタの城下町ならば、我の目にとまる宿があるかもしれぬ。


 そんなことを思っていると、扉が控えめに叩かれた。誰かと思えば、城に仕える執事と使用人である。執事は両手に荷物を持ち、使用人は料理を乗せた銀の盆を持っていた。二人はどちらとも愛想良く笑っているが、同じくして両膝が笑っている。余程魔王が怖いと見えるが、これが当たり前である。


 我の中で魔王を怖がらぬ人間の名簿に、リサやエリーズ、バストロスに続けてカトラスの名前が載った。


 ぎこちない仕草の執事から荷物を受け取り、同じくして使用人から盆を受け取った。二人は己の仕事が満了したとみるや、直ぐ様ペコリと頭を下げて、我の部屋から離れていった。

 我は良質なベッドの横に腰掛けながら、左右に尻尾を振る。たいした意味は無いが、これをすると多少は落ち着く。我は閉まりきった扉にため息を吐いて、持ち運ばれた料理に口をつけた。


「……旨い」


 何から何まで、計算された旨さであった。さぞ料理人の腕が良いのだろう。一つの料理に込められた料理人の気迫、経験はまさしく一流で……だというのに、我はどこか物足りなさを感じていた。間違いなく、我がこの世界にきて最も美味な食事である。


 我は理由がどうにも見つからなかった。なんとも不可思議である。まるで重力のように、概要は知っていたとて原理が説明できないのだ。

 我はしばらく考えたが、結局分からなかった。終いには、そんなことを考えている暇はない、と自分で自分の問題から逃げてしまい、雪の中ではどう戦うとするか、等と考え始めていた。


 荷物の中身を確認し、尻尾を使って体を上げたり下げたりしながら、我はずっと思考を巡らせていた。そんなことをしても、結局は流れに身を任せることになるとはいえ、考えなければ不安があった。

 そんな乱れた思考のなかで、我はふと――欠片が疼くのを感じた。どの欠片だとか、そういう詳しいものではない。敢えて言うのなら、胸騒ぎである。ぞうっ、と胸の奥が、背骨の中身が震える感触がある。


 我は一瞬顔をしかめて、鍛練を取り止めた。続けて巨大なベッドへと腰掛けて、瞳を閉じる。この感覚の源を探るのだ。なんとも形容しがたい感覚を縫って、我は騒々しい欠片に目を向けた。それは件のルゥドゥールに眠る欠片であり、我は少しだけその視界を覗くことに忌彈きたんがあった。

 奴は体……主に頭部に、大きな傷を受けているらしい。こめかみから目をなぞるように、鋭い痛みを蓄えている。視界を覗く行為は、実質的に感覚をルゥドゥールと共有することに他ならない。当然痛みは我に直接掛かってくる。


 我は一瞬湧いた馬鹿馬鹿しい逡巡を捨てて、ルゥドゥールの感覚と重なった。


 ――途端に、びょうびょうと風が耳元をうねる。吹雪だ。視界はおおよそ白一色で、その一色が波のごとく斑に揺れている。あぁ、と嗄れた声が響く。それは吹雪をつんざいて、何処と無く喜色に満ちた声だった。

 我は途端に痛みだした左目を押さえながら、続く言葉を待った。


『あぁ……ようやくだ』


『あの童を、ようやく食える』


 クツクツとルゥドゥールは笑った。吹雪の中、左目の痛みに憎悪を燃やしながら、燃える憎悪を上回る喜びを発していた。我はルゥドゥールの『食える』という言葉に固まった。童、というのは恐らく……先程聞いた白い鬼――トーヴという男なのだろう。聞いた限りでは童等と言える年齢では無いだろうが、百年近い年のルゥドゥールからすれば、一応童なのだろうか。


 嗤うルゥドゥールの目の前に、いくつかの白が揺れた。揺れた白をじろりと見つめたルゥドゥールは、深々と牙を剥く。凄惨な破顔の形だった。そんな顔をしたルゥドゥールは、唸るように言う。


『同胞よ、同胞よ……集え。私の元に集え。あと十五の月と太陽が沈んだ日――すべてを(おわ)らせよう』


『最もあの童が弱る日……その日に私が、奴を喰らおう。四十年も邪魔をしてきたが、所詮は人の子よ』


『私達の力は強大だ。あの童さえ居なければ、国など容易く飲める。飲み込める』


 我は固まった。情報の波が我の頭上から壁になって、飽和する。十五日が過ぎた日に……トーヴを喰らう、だと? 全てを終わらせるだと? 我は硬直し、困惑し、そんなはずはないと考えた。

 そんなこと、起こりうる筈がない。今から十年後、我が人殺しの化け物になっていた未来で、確かにアルベスタは存続していたのだ。雪にまみれ、長い冬を経ても、変わらずそこに国はあった。それを我が滅ぼして……というのが正史である。


 男一人に縫い止められているとはいえ、ルゥドゥールという魔物は強大だ。それは欠片から悠々と伝わっており、吹雪と共にこの国に舞い降りれば、恐らく甚大な被害が発生するだろうと分かる。ヴァストラやカトラスのような存在が合わさろうと、他人を守りつつルゥドゥールを伐つのは殆んど不可能な筈である。

 と、ここまで考えて、我は息を飲んだ。嗚呼……そうか。



 ――現在いまのルゥドゥールには、魔王の力の欠片がある。



 剛力か、魔力か、統率か、俊敏か、逆鱗か……とにかく、通常よりも力が増しているのだ。故に、歴史は大きく変わることとなる。トーヴとやらはルゥドゥールを一人で抑えているようだが、年齢を加味すれば恐らく五分五分かそれ以上に押されている筈だ。そんな拮抗に魔王の欠片という大きすぎる一点を投げれば、当然話が変わってくる。


 故に、ルゥドゥールが動いたのだろう。何故、力が譲渡されて直ぐに動かなかったのか。何故、15日後という猶予を決めたのか。その理由については未だ謎であるが……我はルゥドゥールの左目の傷が関係しているのではないかと考えている。

 情報を噛み砕く我を知らずに、ルゥドゥールは言った。


『同胞よ……ようやくだ。我々はようやく、のびのびと生きることが出来る。人間の……あの、白伐ちとかいう者共に怯えずに、人間を食えるのだ』


 ルゥドゥールは感動に震えた。続けて、その感動を解き放つように大きく息を吸って――我はそこで共有を切った。危うい所であった。どう考えても今のは、遠吠えの構えである。吹雪の中に潜んでいたらしい白狼たちも、どうやら遠吠えの構えを見せていた。ガンガンと左目が痛んでいるのに、大音量の遠吠えなどを聞いてしまってはたまらない。


 付け加えて、話の内容が段々求めている物と乖離し始めていた。あのまま共有を続けていたとて、人間への愚痴と下らない演説が続くだけである。人間への愚痴はそれほど不快ではないが、そこに演説が加わると陳腐が過ぎる。


「……」


 我は未だに痛みを残す左目を上からさすって、ため息を吐いた。続けて、ぬるりと言葉が漏れ出す。


「……十五の月と太陽が沈んだ日」


 我は正直、アルベスタでの生活を心底急いでは居なかった。勿論アイン様を救うために全力で近道は踏む上、エリーズが苦しむ時間が長く続くのはどうかと思っていた。だが実際のところ、無理に急いで失敗した方が遠回りであるし、エリーズに関しては中々に勘違いのようである。あの家族があって暗い顔をする理由が分からぬ。


 よって我は、内心でアルベスタでの欠片の確保は綿密に行おうと考えていた。竜鱗、尻尾、その他ひとつがあれば、その次など恐らく流れ作業である。

 じっくりと雪への対策を考えて、強靭な戦士を集め……ということが、今この時をもって不可能となった。期限がついてしまったのである。


 しかも、たった二週間と一日しか残っていない。中々の駆け足である。それまでにルゥドゥールと相対できる人間を……そうだな、四人は選びたい所である。

 それに加えて、これは一応カトラスやリサに話を通さねばなるまい。カトラスに関しては……信じてもらおうとは一塊に言えぬが、黙っておくことは出来ないだろう。


 我は考えた。今考えられる必要点を漁って、これからの立ち振舞いを考えた。最早鍛練をかなぐり捨てて、我は深々とベッドで足を組み、渋い顔で考えた。

 考えて、考えて……そして結局、『動いてみなければ詳しい結果は分からない』という見も蓋もない結論を出して、朝になっていた。ベッドから見上げた時計は綺麗に六時を指している。早起きなリサのことである。もう起きていておかしくはない筈だ。更に言えば、間違いなく緊張で睡眠が浅くなっているに違いない。下手をすれば一睡もできないということもあるだろう。


 折角休めるのだから休めばいいのだが、そういうところがまたリサらしいというか、本当に平均な女なのである。と、内心でリサが聞いたら青筋を浮かべるであろう事を考えていると、どんどん、とんと扉を叩く音が聞こえた。


 最初の二回は強く、最後の一回は思い出したように控えめなノックである。間違いなくリサのものだった。大方、強い緊張の元に力加減をしくじって扉を叩き、三度目にして今が朝の六時であること、更に思ったよりも強く叩いてしまったことを理解して、急速に弱くなったのだろう。


 我はそんなノックに、しかめていた顔を平素に近づけて、入れ、と口にした。


 すると扉に手が掛けられ……予想通りにリサが顔を出した。その格好は……なんというか、リサに良く似合うキリッとした茶色系の服装で、王城の廊下を歩くのに恥ずかしくないが、代わりに王城という雰囲気には合わない冒険者の服装であった。

 そんな珍しい格好のリサは、いつも通り茶髪を後ろで一つに纏めており――どうしてか、笑顔で青筋を浮かべていた。


 ……どうやら、最初の二回が強かったのには、苛立ちだの怒りだのが混じっていたらしい。


 そんな顔のリサは無言で我の部屋に入ると、後ろ手でドアを閉めた。しばらく無言のリサと我とでにらみ合いのような物があって……リサが口を開いた。


「……港では……結構派手にやってくれたわね」


「確かに多少強引であったが、今の状況を鑑みるに、充分正しい判断だったはずである」


 我は少しばかり言い訳じみたことを言った。……確かに、リサからすれば緊迫した状況で、我がいきなり魔王だと名乗った挙げ句、無策に捕まり、助けようにも助けられず王の前に引きずり出され、エリーズ共々針のむしろを散々に味わった挙げ句に、緊張と心配の念が休まらない状況だったのだろう。


 リサは意外にも我を心配してくれているようなので……まあ、確かに今回は強引だったな、という感じではあった。事前に何か言っておけばよかったが、言ってあったとしてもあの状況はそもそも予想外である。


 ……等と、やはり逃げの思考に走る我を、リサは多少マシにはなったが怒気の残る笑顔で見つめていた。……これはどうやら、城を抜けるまでにさえ面倒があるようである。我は歯の間から息を吸いながら、どう話を進めたものかと考えた。

 リサには一つ、話さなければならぬ事柄があるのだ。それについては既にカトラスの了承を受けており、あとはリサに話すだけ、といった段階である。


 ……が、それを切り出すのも難しそうだ。考える我に、リサがゆっくりとこう言った。


「……まあ、お互いに積もる話もあるだろうから、ゆっくりと話しましょ」


「……うむ」


 長椅子へと歩いていくリサの背中に、我はゆっくりと気持ちを整えた。

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