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舘家の三兄弟  作者: トウリン
難攻不落のお姫様

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28/69

待ち合わせ――不意打ちの

 賢人(けんと)たちが通う高校から駅で五つほど離れた場所に、キトンランドというテーマパークがある。ネズミが主役の某ランドをパク――参考にしたと思しきその遊園地は、耳にリボンを付けた頭でっかちの仔猫がマスコットキャラクターなのだが、それもまた、某ネコキャラをパク――参考にしているのが丸わかりだ。

 まあ、経営者のモラルに関しては横に置いておいて、キトンランドはそこそこ大きく、そこそこアトラクションも揃っていて、その割に料金は手ごろという、リーズナブルなテーマパークだった。舘家も兄の聖人(まさと)が高校生の間は、隣家の(ほたる)を連れて兄弟三人で良く来ていたものだ。


 そのキトンランドの華やかな門の前で、賢人は人の波に揉まれるようにして近づいてくる少女二人に笑顔で手を振る。彼女たちが彼に見せた反応は、正反対だ。


 一人は春日小春(かすが こはる)

 彼女は素っ気ない素振りで片手を上げて、彼に応じてくれた。


 もう一人は、梁川雛姫(やながわ ひなき)

 彼女は賢人に気付いた瞬間足を止め、今にも踵を返して走り出しそうな風情でほんの少し片足を引いた。実際に逃げ出さなかったのは、春日がしっかりと手を握っていたからなだけかもしれない。


 目が合って賢人が笑顔を投げると、雛姫はパッと目を逸らした。

(やっぱ、オレがいるって聞いてなかったんだろうな)

 内心でそう独り言ち、彼はにやりとする。


 約束をしていたわけでもないのにタイミング良く賢人がこの場に立っていられたのは、前日、春日からメールが入ったからだ。

 明日、雛姫とキトンランドに行くけれども、同行するか、と。なんでも、タダ券を二枚入手したらしい。

 もちろん、賢人は一も二もなく行くと返信した。

 彼にそれ以外の選択肢があるわけがない。


 賢人の前までくると、春日が口元だけの笑みを浮かべた。

「おはよう、舘君」

「はよ、雛姫、春日」

 一見ごくごく自然に挨拶を交わす賢人と春日に、雛姫が目を丸くする。春日を見て、チラリと賢人に目を走らせ、また春日を見て握り合っている手に力を込めた。


「……おはよう、舘くん」

 小さな声で辛うじてそう返してはくれたものの、指先で突いたらピョンと跳び上がって一目散に逃げていきそうだ。

(警戒してんなぁ)

「はよ」

 ニヤつきそうになる口元を引き締めて、賢人は雛姫に返した。春日とつないでいる手の反対側でもいいから自分に預けてくれないかと思うが、実際にそんなことを口にしたらドン引きされるのだろう。


「結構待った? 電車一本乗り損ねちゃったの」

 気軽な口調で春日がそう言うと、雛姫は戸惑うように彼女を見た。

「小春ちゃん、舘くんと仲良かった……?」

「ん? ああ、梁川先生に言われて教材準備することがあったんだ。それで、ちょっと」

 シレッと春日がそんなことを言った。もちろん、そんな事実はないが、賢人も便乗する。

「そうそう、なんか、部屋片づけろとか、補習の代わりとか言って呼び出してくるんだよな」

「わたしも物理は赤点ギリギリだったから」

 畳みかけるようにそう続け、賢人と春日は「な」「ね」と顔を見合わせた。別に前もって打ち合わせをしていたわけではないがその遣り取りに違和感はなかったようで、雛姫は「そう」とつぶやいたきり、それ以上の疑問は口にしなかった。


「電車、ちゃんと間に合うはずだったのに、雛姫ちゃんの準備ができてなかったから」

 話を切り替えるようにそう言いだした春日に、雛姫がパッと振り返る。

「でも、いつもは……」

 ごにょごにょと口の中で消えていく声に構わず、春日が賢人を見上げてくる。

「雛姫ちゃんの髪とか服とかやり直してたら、電車に遅れちゃった」

「へぇ?」

 言われて初めて、賢人は雛姫の格好がいつもと違っていることに気が付いた。


 丈の長い白いワンピースも良く似合っているが、一番目を引くのはなんといってもその髪型だろう。

 後ろの方は真っ直ぐに下ろされたままだけれども、いつもは顔の半分を隠している前髪が上がっていて、花の飾りがついた髪留めで留められている。どうりで、チラチラ視線が向けられているわけだ。立ち止まっている賢人たちを追い越していった客の中には、わざわざ振り返る者もいる。「あれ見ろよ」とか何とか囁き合う声すら聞こえてきた。


「か――」

『可愛い』。

 そう口に出しそうになって、賢人はハタとつぐんだ。

 春日の忠告を思い出したからだ。


(でも、マジで、普通に、可愛いだろ?)

 百回くらい『可愛い』を連発しても足りないくらい半端なく可愛いが、賢人はそれに代わる言葉を捻り出す。

「あ――と、良く似合ってる、よ」

 このくらいならセーフだろうかと思いつつ雛姫を窺えば、白い頬がジワリと紅くなった。


 嫌がっては、いないらしい。

 まじまじと見つめていると、いっそう、紅みが増した。

(うゎ、ちょっと待て、これ、ヤバいって)

 力いっぱい抱き締めたいを通り越して柔らかそうな丸い頬に齧りつきたいという衝動に襲われ、賢人はそこから視線を引きはがして春日に移す。


「えっと、中、入ろうか?」

「え?」

 サラッと放った賢人の台詞に、雛姫が目を丸くしてを見上げてきた。

「一緒に、回るの……?」

「オレ、独りじゃヤだけど?」

「でも、他の子が来るんじゃないの?」

 そうであって欲しいという気持ちが、その大きな目に透けて見える。

 賢人は肩をすくめて彼女を見返した。

「他の奴なんていないから。まあ、どうしても雛姫が嫌なら、帰るしかないけどな」

 せっかくここまで来たけども。

 いかにも残念そうにそんなふうに言えば、彼女がどう答えるかなんて判りきっている。

「そんな、嫌じゃ、ないけど……」

 狙い通り、雛姫は小さな声でそう言った。


「じゃ、行こうぜ。オレの分、もう買ってあるから」

 一転ケロリと満面の笑みを浮かべた賢人に、雛姫は一瞬目を丸くし、ムッと睨みつけてきた。

 そんな顔も実に可愛くて、彼の頬が緩む。

 まずは、ちょっとばかり彼女の壁を突くことくらいはできたのではなかろうか。


(意外にこの壁、もろいかもしんないなぁ)

 春日も言っていたとおり本来の雛姫は屈託のない天真爛漫な子なのだとすれば、普段の素振りはかなり無理して築き上げているものなのかもしれない。


(そもそも、いつものツンツンぶりが地なら、この状況がおかしいってことに気付くだろ)

 約束もしていないのに、合流して当然のように賢人がここにいることとか。

 どれだけ人を信じやすいのか。

 普通は、春日と賢人がグルだと気付くだろう。

 気付かないまでも、少なくとも――

(少しは、何かしら疑うよなぁ……)

 まあ、そんなところも可愛いかとニヤついて、今日一日で、雛姫の色々な顔を見てやるぞと目論見つつ、賢人は先に立ってゲートに向かった。


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