プロローグ 間違った水筒の使い方
イテッ――
暗がりで頭を打った俺は、左手で自分の頭を優しく撫でる。
(そういえばあの頃…)
俺の名前は岩田龍二。もうすぐアラサーの28歳だ。しかもニートときている。
(そろそろこのままじゃヤバイんじゃないか…) 歳を重ねるにつれてそんな気持ちが強くなっていき、日々焦る気持ちと戦いながら生きている。もう後がないのだ…。
そんな俺にも、忘れられない過去があった。
――そう、ガキの頃。まだ俺が小学生だったあの夏――。
ゴンッ!
「痛ッ!?」
それは鈍器のようなものだった。鈍い痛み。だが俺は何故か妙な興奮を覚える。
「おはよ、ばかりゅーじ♪」
「お、おはよー萌」
朝っぱらから水筒なんぞで殴ってきよった彼女は同じクラスの女子の佐久間萌。小4。
コイツはなにかというとちょっとした暴力スキンシップが癖のじゃじゃ馬だ。俺はコイツのことを嫌いでもないが特別好きというワケでもなかった。だって暴力女だし…? まぁやたらちょっかいかけてくるからほんの少しだけ気になってはいたような気もするが…。
「何ぼーっとしてんの?授業はじまるよ!」
「あ、あぁすまん、ありがと」
「何謝っちゃってんの?ばーか(笑)」
ゴン。
「いて」
その日の授業も終わり、俺は親友のタカこと高木直哉と一緒に帰った。
「――でさぁ、民家のツボからうまのふんが3つ連続で手に入ったんだけどそんなもん一体どうしろってんだよな?」
「…あぁ、そうだな」
「オイ、いわちゃん、ちゃんと聞いてる?」
「あぁすまん、ちょっと他事考えてたわ!」
「オイオイ勘弁してくれよー」
そう、俺はこの頃ふと萌のことが頭をよぎり上の空になってしまう時があった。
何故だろう、俺には彼女がいて、別にアイツのことなんてなんとも思ってないのに。
「―ホントなんでだろ?」
そうボソっとつぶやきながら俺はいつの間にかフェイスブックの検索欄に『佐久間萌』と入力していたのだった…。
続く