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君と僕の理想郷  作者: kuro0811
3/5

第3話「少女」

扉の先は、行った者にしか分からない。

外は闇と雨水に包まれていた。強雨の音も心地よい。

互いに主義主張し合う闇と雨水。美しい。


今日は14日、確か14日なら待宵月と言う月が雨雲によって遮られていなければ拝めただろう。

「明日は満月、か」

そう言えば夜空を見上げるのは久々かもしれない。多分。

恐らく、隠居生活の準備で疲弊していた為に今まで規則正しく蚤寝晏起をしていたからだろう。


「だいぶ歩いたな」


夜景が見えてきた。僕の理想郷は少し高い所にあるから、道を下った所で拝める都心部の夜景の眺めは悪くはない。


「戻ろう」


闇と雨水のハーモニーを堪能しただけでもかなりの気分転換になった。相変わらず雨は強いが。


僕の理想郷に入るべく玄関の扉に手をかけた頃、何か人の気配を感じた。

近所に住宅は建築されていない。コンビニなどの店舗も少し離れた所にある。余程の物好きしかここに来ない筈だ。おかしい。しかも、今は夜だし強雨だ。


「あ」


僕の理想郷の傍らにその正体はいた。

女性らしき小柄な影が傘も差さず、ただただ立ち尽くし曇天の夜空を見上げている。

髪色は白?老婆か?いや、身体が若い。少女?


「綺麗だ」


白に輝く髪色を見て思わず口に出してしまった。

そして、不運なことに少女と目が合ってしまった。


何秒だったのだろう?暫くの間、目を合わせたまま両者とも微動だにもしなかった。この様な時はどのようなリアクションをすればいいか僕には分からない。

困った。本当に困った。

よく見たら少女の髪型は、ショートボブのようだ。いやいや、明らかに髪型を気にしている場合ではない。


と、僕が脳内会議を繰り広げているうちに、

少女の方が先に動いた。

こっちに走って来る。

僕は動けなかった。少女は動けない僕に抱き着いた。

少女は僕の胸に顔を埋め、声をあげて泣いた。

そして彼女は僕に縋るように言った。


「私を...理想郷に連れてって」


と。


ますます困った。理想郷?連れて行く?

つまり、僕の家に連れて行け。って事かな?


とりあえず、少女を僕の理想郷に招き入れた。

誘拐にはならないのか?とても不安だ。

彼女は雨に晒され、かなりの規模で濡れている。

まだ泣き続けている。僕の言葉は通じそうにない。


これはどうすればいいのか。


濡れたままだと風邪を引く恐れがある。だから、身体の水滴を払拭し、着替えさせる必要がある。

しかし、彼女は大泣きだ。洗面所に誘導して、タオルで身体を拭くように促すが、うずくまって泣き続けるばかりだ。


これは男として、やってあげるべき事なのだろうか?

いくら僕の様な人でも、この様な事には抵抗がある。

よく見たら、彼女は中学校のジャージの様な物を身につけている。学生だろうか?


駄目だ。考えては駄目だ。このままではラチが明かない。大丈夫だ、一気呵成で仕上げれば問題ない。

要は触れないのと見なければいいだけだ。

やるぞ。


「失礼する」


僕は片手にタオルを持ち、強引に彼女を起立させ、ジャージを脱がせた。そして瞬時に目を瞑る。見えるのは暗闇だけだ。そして暗中模索しつつ、勢い良くタオルで彼女の身体を払拭した。

そして用意しておいた、僕の薄い寝室着とグレーに彩られた薄手のパーカーを手に持ち、無理矢理着替えさせた。

下着?知らない。そんなの。


僕はとても強い羞恥を覚え、身体が熱くなった。

僕は羞恥心を誤魔化すように少女を1階のリビングに誘導した。まず、椅子に座らせる。彼女は泣いたままテーブルに伏せた。僕はどうしたらいいか分からず呆然とした。思考の末、唯一出た言葉は


「コーヒー淹れるか?」


だった。彼女は小刻みに頭を縦に振った。

僕は、控えめに砂糖だけを入れて、テーブルにコーヒーを彼女の側に置く。コーヒーカップは「コツン」と間抜けな音をたてた。僕も彼女を見守るべく、彼女とは反対側の椅子に座った。まあ、椅子は2つしかないんだが。彼女はコーヒーを一口飲んだかと思いきや再び伏せた。まだ泣いているが、少しは静かになった。僕は1冊の読みかけの本を持ってきて読み、時間を潰した。彼女は泣き疲れたのか、いつの間にか眠っていた。一応、掛け布団を彼女にかける。起こして家族のもとに帰さなくていいのだろうか?それにしても疲れた。

僕にも睡魔が襲うのは時間の問題だった。

主人公の前に現れたのは、

ずぶ濡れの 白髪の少女。


少女は縋る。「私を理想郷に連れてって。」と。


主人公には少女の言う「理想郷」とは何なのか

まだ、分からない。

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